もう中小企業が生き残るにはコレしかない! ブルーオーシャンとは異なる「池クジラ」の戦略とは?
■「売る力」と「売れる力」は別なのだ
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。主に組織営業力をアップさせて目標達成を実現していることから、どちらかというと「売る力」を鍛えるのが私の仕事だ。
「売る力」とは、つまり戦う力――「戦力」のことである。
プロ野球で考えたらいい。監督がどれほど優秀でも、戦力のないチームであれば勝ちつづけることはない。
だからこれからは、採用と教育に力を注ぐ企業こそが成長し、生き残っていく。戦力というのは「ヒト」につくものだからだ。
いっぽうで、戦力があっても儲からない企業も多い。理由は「戦略」が弱いからだ。
戦略があることで、「売る」ではなく、「売れる」という力が備わっていく。
「売る力」と「売れる力」は、まったく違い、両方が備わっていると、とても強い企業になる。とくに中小企業は、これからの時代、生き残るために「売れる力」を身につけていこう。そのための戦略について、今回は解説したい。
■ まず切り捨てる戦略は?
では、「売れる」力を身につけるには、どうすればいいか。まずトレンドを押さえよう。今の時代、「製品」だけにスポットライトを当てる時代ではない。
「売れる製品」を発明することは、至難の業だ。再現性がないから、コンサルタントが踏み込むフィールドではない。したがって製品以外の要素と伴わせて考えてみたい。
そこでマーケティングミックスの「4P」を使って要素分解してみる。
4Pとは、
・Product(製品)
・Price(価格)
・Promotion(プロモーション)
・Place(流通、顧客)
の4つ。
この4要素を、以下のように書き換えてみるとわかりやすい。
・売れる製品
・売れる価格
・売れる見せ方
・売れる領域
このとき、企業努力として簡単ではないのは「価格」である。価格を魅力的にするには、バリューチェーン全体を見直し、コスト構造をゼロから見直す取り組みが必要になってくる。
たとえばユニクロは、
・企画(素材開発、調達含むマーチャンダイジング)
・生産(販売状況をリアルタイムに把握した生産調整)
・販売(在庫コントロール、店舗のローコストオペレーション等)
が世界規模で高次元にマネジメントされているため、「高品質で低価格の製品」を世に出すことができている。
このような高度なビジネスモデルを構築するのは簡単ではない。それに大企業に限られるだろう。
中小企業やスモールビジネスを手掛ける事業主にとっては、とても採用できる試みではない。
つまり「売れる価格」に焦点を合わせられるのは、大企業だけだ。中小企業が真っ向勝負しても相手にならない。
ではどうするか?
価格戦略は、切り捨てなければならない。
■ 小さなスコーンに300円以上を払う理由
結論を書こう。中小企業が目をつけるべきは「領域」である。
領域を限定すれば、大企業と勝負しなくて済む。限定された領域に、大企業は焦点を合わせようとはしないからだ。
たとえば私はハンドメイド通販サイトで、英国風スコーンを定期的に買っている。注文を受けてから焼いて販売するスタイルの本格的なものだ。値段は12個で4,000円以上もする(送料含め)。決して大きくないサイズのそれらのスコーンに、なぜそんなにお金を払うかというと、理由がある。
朝から、挽きたてのコーヒーと、この本格的な英国風スコーンを一緒に食べたら、とても贅沢な気分になる。この贅沢感を一度味わったら、もう後戻りできないからだ。
私にとっては、スコーンを買っているのではなく、「贅沢な朝」を買っているようなものだ。他と比べようがない。だから、何度もリピート購入してしまうのだ。
私のような嗜好の人は多くはないだろう。マーケットは極めて狭いはずだ。なのに、このスコーンは飛ぶように売れている。
素材の値段が高騰し、さらにスコーンの販売価格が高くなっても、私のようなファンは離れないはずだ。もちろん大企業が参入して、ファンが奪われることもない。領域(事業ドメイン)を絞り込んでいるからである。
このように領域を絞り込み、価格の決定権を握る戦略論を「池クジラ」と呼ぶ。
※「池の中の鯨」と呼ぶこともある。
■「池クジラ」とは何か? その重要性
池クジラとは、大企業が戦う市場を「大海」とすれば、中小企業はその大海ではなく、自分たちが見つけた小さな「池」で、圧倒的に一番になる戦略を指す。
ブルーオーシャン戦略の一形態だ。ブルーオーシャン戦略は名前のとおり、「海」を舞台にしているので、主に大企業向けの戦略である。それに対し、池クジラのそれは完全に中小企業向け。「海」でもなく「湖」でもなく「池」だからだ。
私が専務理事をしている「強くて愛される会社研究所」では、毎月このような池クジラ企業に経営者たちを案内している。ともに研究するためだ。
すべての視察先に共通するのは、ビジネスの領域(池)を決め、みずから値決めしていること。だからすこぶる財務体質がよく、社員教育や、ブランディングにも力を入れることができる。
「売れる製品」を開発することは簡単ではない。しかし、このように「売れる領域」を見つけて池クジラ企業となり、さらに「売れる見せ方」ができるようになれば、もう鬼に金棒である。
■ もう「池クジラ」になるしか生き残れない
現場に入ってコンサルティングをしていると、「働き方改革」によって余裕がなくなった企業をたくさん見る。
これまで日本企業は、「時間」という資源を有効活用してグローバルでも勝ってきた。しかし、その貴重な経営資源が制限されることになったのだ。
時間当たりのバリューを上げない限り、どんなに生産を上げようと思っても、限界がある。現場では、削ることができないぐらいに、「ムリ・ムダ・ムラ」はない。
大企業ならともかく、中小企業にはもう削るべき「ムダ」は残されていないのだ。
だから価格決定権を握る「池クジラ」こそが、中小企業の経営をするうえで、不可欠なのである。
稲盛和夫氏も、経営において「値決め」は死命を決するほど重要だ、と説いている。
「売れる領域」と「売れる見せ方」に、中小企業は活路を見出だそう。