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『俺の家の話』の先へ! 没後40年の「向田邦子」を継承する<シン・ホームドラマ>への期待

碓井広義メディア文化評論家
2021年の桜(筆者撮影)

3月まで放送されていた連続ドラマには、強い印象を残す「ホームドラマ」がありました。

その一つが、宮藤官九郎脚本『俺の家の話』(TBS系)です。

振り返ってみれば・・・

観山寿三郎(西田敏行)は、能楽の二十七代観山流宗家で人間国宝。脳梗塞で倒れて、車いす生活となり、認知症も抱えてしまいます。

長男の寿一(長瀬智也)は、プロレスラーでしたが、父の介護をするため、実家に戻ってきました。

介護する側も、される側も、初めての体験。当然のことながら、家族とはいえ、戸惑いや遠慮や誤解もたくさんあります。

このドラマは、介護を日常的な「当たり前のこと」として、ストーリーに取り込んでいました。

しかも、全編に笑いがあふれていた!

型破りな「ホームドラマ」であると同時に、秀逸な「介護ドラマ」でもあった所以(ゆえん)です。

もう一本が、北川悦吏子脚本『ウチの娘は、彼氏が出来ない‼』(日本テレビ系)。

「恋愛小説の女王」である作家、水無瀬碧(菅野美穂)と娘の空(浜辺美波)の物語です。

かなり浮世離れした母と、漫画オタクの娘は、大の仲良しですが、やがて「実の父親」をめぐって騒動が起きます。

血の繋がりだけでは測れない、家族の絆。コメディタッチでありながら、「そもそも家族って何だろう」と考えさせてくれる、異色の「ホームドラマ」でした。

家族の人間模様を描くドラマで思い浮かぶのが、『寺内貫太郎一家』(TBS系)や『あ・うん』(NHK)などで知られる脚本家、向田邦子さんです。

1981年に、台湾旅行中の航空機事故で亡くなったのですが、今年は没後40年に当たります。

向田さんが書いたセリフには、家族についての深い洞察が散りばめられていました。

たとえば『寺内貫太郎一家』では、父・貫太郎(小林亜星)への不満をぶつける息子・周平(西城秀樹)を、母親の里子(加藤治子)がたしなめます。

「一軒のうちの中にはね、口に出していいことと、悪いことがあるの」

それから、『だいこんの花』(テレビ朝日系)。

主人公、元巡洋艦長の永山忠臣(森繁久彌)は、息子の誠(竹脇無我)と二人暮らし。元部下に向って、こう言っていました。

「男は長生きすると子不孝だぞ、覚えとけよ」

考えてみれば、一つの家族って、ある期間しか、家族でいられないんですね。

親が亡くなることも、子供が独立していくこともあるわけで、一緒に暮せる時間は、意外と短い。

それに、家族なんだから、互いによく知っているかといえば、実はそう単純じゃない。

家族だからこそ、逆に知らないことも多かったりして、ちょっと不思議な関係です。

向田さんが精魂かたむけて書き続けた、「家族」というテーマ。そして自在に駆使した「ホームドラマ」という枠組みは、今も古びていません。

むしろ、コロナ禍が続く中で、「家族」は大いに見直される存在になっていると思います。

庵野秀明監督が、『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリヲン』『シン・ウルトラマン』などに続いて手掛けるのは、『シン・仮面ライダー』。怒涛の<シン・シリーズ>です。

今後、テレビ界にも、<シン・ホームドラマ>とか、<シン・向田ドラマ>とか呼ばれるような、ニュータイプの「ホームドラマ」が登場しても、いいのかもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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