Yahoo!ニュース

全米ヒットだけではない。オスカーに向けた賞レースでも「ゴジラ」が思わぬ躍進?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ゴジラ-1.0』より (C)2023 TOHO CO., LTD.

12月に入り、アカデミー賞に向けて数々の映画賞のノミネート、結果が発表され始めたが、思わぬ作品のタイトルが目にとびこんできた。『ゴジラ-1.0』だ。

同作が12/1の北米公開以来、大ヒットを続けている事実は、日本のニュースでもたびたび取り上げられてきたが、作品のジャンルや内容を考えれば、あくまでも商業的な“ヒット作”という印象。年間の賞レースとは無縁だと思われていたが、12/13(現地時間)に発表された放送映画批評家協会賞(クリティックス・チョイス・アワード=CCA)の外国語映画部門に『ゴジラ-1.0』はノミネート入りを果たしたのである。

同賞は今年度で29回の歴史を誇り、北米のジャーナリストや映画評論家を中心とした組織の投票によって決まる(筆者も投票するメンバーである)。今回のノミネートがなぜ意外かといえば、『ゴジラ』に関しては、賞の投票者に対するキャンペーンがほとんど行われていなかったから。最終目標であるアカデミー賞の栄誉にあずかるためには、そこへ行くまでの各映画賞の結果が重要になる。その結果をアカデミー会員も参考にするからだ。

それゆえに、映画のスタジオや賞のキャンペーンを担当する会社は、アカデミー会員はもちろん、他の賞の投票者にも向けて、何度も試写を行ったり、記者会見を開くなど、様々なキャンペーンを続ける。しかし『ゴジラ』に関してその動きはほとんどなく、しかも公開からまだそんなに時間が経っていないにもかかわらず、今回のCCAにノミネートされている。つまりアメリカのジャーナリストや批評家の評価が、われわれが思っている以上に高いということ。

他の賞も含め、外国語映画賞部門に『ゴジラ』のようなアクション娯楽作が入ることは極めて希なケースでもあり、その点もちょっと意外。

また今年は、外国語映画部門には秀作がじつに多く、「狭き門」でもあった。そこに『ゴジラ』が入ってきたのも、大きなサプライズだった。

ちなみに今年度のCCAの外国語映画部門ノミネート6作は以下のとおり。

Anatomy of a Fall』(フランス)

ゴジラ-1.0』(日本)

PERFECT DAYS』(日本)

雪山の絆』(スペイン)

ポトフ 美食家と料理人』(フランス)

The Zone of Interest』(イギリス/アメリカ)

『ゴジラ』と『雪山の絆』以外は、カンヌやヴェネチアといった国際映画祭で受賞した、ざっくり言えば“芸術系”の作品が並んでいる。いかにも賞レース的なラインナップであり、なおさら『ゴジラ』の存在感が際立つ。

そして日本から『PERFECT DAYS』も含めて2作ノミネートというのも快挙である。

CCAの少し前に発表されたゴールデングローブ賞ノミネートでは、同じ賞に当たる非英語作品賞の6本は以下のとおり。

Anatomy of a Fall』(フランス)

枯れ葉』(フィンランド)

Io Capitano』(イタリア)

PAST LIVES』(アメリカ)※韓国語がメイン

雪山の絆』(スペイン)

The Zone of Interest』(イギリス/アメリカ)

こちらでは残念ながら日本作品は入らなかった。この2つの賞のノミネートと映画祭の評価から、『Anatomy of a Fall』と『The Zone of Interest』が、やや抜きん出ている印象はあるが……。

では、この勢いで『ゴジラ』はアカデミー賞でも国際長編映画賞にノミネートの可能性があるのでは? 残念ながら、その資格はない。というのも同部門は各国から1本の作品という応募制で、今年の日本代表は『PERFECT DAYS』に決まっているから。

ただし、このCCAのノミネートのように、賞レースでも『ゴジラ』が認知されたことで、アカデミー賞の技術部門、つまり音響賞や視覚効果賞ではノミネートの可能性が高まりつつあるのも事実だろう。

CCAでは長編アニメーション賞に『君たちはどう生きるか』もノミネートされた。CCAの授賞式は2024年の1月14日(現地時間)。『ゴジラ-1.0』『PERFECT DAYS』『君たちはどう生きるか』が受賞なるか、日本の映画ファンも見守ってほしい。

CCAのノミネート一覧はこちら(英語)

『PERFECT DAYS』は、12月22日(金) より TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー (c) 2023 MASTER MIND Ltd.
『PERFECT DAYS』は、12月22日(金) より TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー (c) 2023 MASTER MIND Ltd.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事