Yahoo!ニュース

羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真「3強追撃」へ。GPシリーズ初表彰台・佐藤駿の存在感。

折山淑美スポーツライター
GPシリーズフランス大会2位で、優勝の鍵山優馬と表彰台に上がる佐藤駿(左)(写真:ロイター/アフロ)

 11月19日からのフィギュアスケートGPシリーズフランス大会。合計を264・99点にして鍵山優真(オリエンタルバイオ/星槎)に次ぐ2位になった佐藤駿(フジ・コーポレーション)は、「これまでの自己最高はジュニアGPファイナルで出した得点だったので、少し悔しく思っていました。それをここで上回ることができてうれしく思う」と笑みを浮かべた。その表情には、自分の成長を得点で確認できた安堵感があった。

 ジュニア時代から4回転を跳んで注目され、19年ジュニアGPファイナルではフリーで4回転ルッツと4回転トーループを2本決め、ジュニア世界最高の255・11点を出して優勝している佐藤。シニア移行の昨季は振付をSP、フリーともに初の外国人振付師のブノワ・リショーに依頼し、ジャンプ以外の表現力を含めたプログラム全体の向上を意識して丁寧な滑りを心掛け、4回転もSPでは2本、フリーではルッツとサルコウ、トーループ2本の4本構成にチャレンジしようとした。

 だがケガもあって苦しんでフリーの4回転は3本に抑えたが、得点は伸ばせず結果を出せなかった。

 そんな佐藤に対してジュニア時代から切磋琢磨してきた鍵山は、ジュニアながら出場した19年四大陸選手権で3位になった勢いをシニア移行後も維持し、サルコウとトーループの4回転を武器にして全日本選手権3位、初出場の世界選手権2位と世界のトップに駆け上がった。

 羽生結弦(ANA)や宇野昌磨(トヨタ自動車)だけではなく、鍵山も追いかけるべき存在になった今季、ケガもなく過ごせたという佐藤はフリーの4回転をそれまでやっていたルッツに加え、フリップを入れてトーループを2本にする構成で固めて着実に進化しようとしている。そしてフリーだけで競った10月2日のジャパンオープンでは、4回転フリップは「エッジが不明確」と判定されたが、他の4本は高い加点をもらうジャンプにして非公認ながら自己最高を上回る179・32点を獲得。技術点は目標にしていた100点超えを果たす102・22点と手応えを得た。

 GPシリーズ初戦のスケートアメリカは、ネイサン・チェンやヴィンセント・ジョウ(ともにアメリカ)、宇野というトップ選手との対戦。その緊張感と前日の公式練習では左肩を負傷した影響もあり、SPは80・52点で5位と出遅れた。それでもフリーでは4回転4本の構成に臨んで順位はひとつあげたが、転倒などのミスも出て合計247・05点と悔しさも残る結果だった。

 だが今回はジュニア時代の遠征などでは常に一緒に行動している、仲のいい鍵山と一緒の出場。それもリラックスして臨める要因になった。SPは最初の4回転ルッツが3回転になるミスは出て4位発進となったが、得点は87・82点で2位のデニス・ヴァシリエフス(ラトビア)とも1・94点差で逆転可能な範囲。「今回は優真と一緒に来られたことがすごく嬉しい。練習などでもチームとして行動しているので、彼のいいところをどんどん取り入れ、この試合で少しでも成長したい」と笑顔を見せた。

 そしてフリーでは、最初の4回転ルッツを決めた後の4回転フリップは「エッジが不明確」と判定されたが、「試合で初めて、ルッツとフリップをクリーンな感覚で降りられたのは良かった」という滑り出しをした。だが次の4回転トーループは「練習でルッツとフリップを降りられた時にトーループのミスが出ていたので、『トーループも降りよう』という気持ちが強くなり過ぎ、いつもより体を締め過ぎた」と、着氷でステップアウトしてとっさに1回転トーループをつけてしまった。さらにコンビネーションスピンのあとの4回転トーループは着氷後にスリップする感じで乱れ、トリプルアクセルはつんのめる着氷になって連続ジャンプにできなかった。

 それでも3回転フリップからの3連続ジャンプは最初のフリップが「エッジが不明確」とされながらもきっちり跳んで基礎点をしっかり確保し、最後の単発の予定だったトリプルアクセルに2回転トーループをつけてリカバリー。悔しさも残る演技だったが、フリー3位の177・17点を獲得して逆転で鍵山に次ぐ2位になり、GPシリーズ初表彰台をゲットした。

「スピンやステップももっとやっていかなければいけないが、僕はジャンプが一番得意なものだから、もっと自信を持って跳べるようにしたい」

 こう言う佐藤は、同い年のライバル・鍵山についてこう話す。

「優真とはジュニアの頃からずっと一緒にやってきて、普段の練習でも一緒になることが多いが、ジャンプやステップ、スピンのすべてがトップ選手だなという滑りなので。僕も真似できるところは優真からドンドン学んでいって、彼みたいになれるようにこれから頑張っていこうと思うし、ふたりで一緒に頑張っていけたらいいと思う」

 鍵山も佐藤のジャンプの技術や滑りのうまさなどを認め、「まだ僕が追いかけるべき部分は沢山あるし、練習も一緒にすることで自分のモチベーションも上がるすごくいい存在。自分も負けないように頑張りたい」と話す、ともに切磋琢磨し合う関係であることを強調する。

 現時点では安定感を増している鍵山や、復調してきている宇野、羽生と比べればその差は少しある。だが自分の足元が明確になって自信を持ち、その差は何だろうと真剣に考えるようになれば、やるべきこともはっきり見えてきて、「追いかけたい」という気持ちは今までより強くなってくるはずだ。

 今季の目標だったGPシリーズ表彰台を果たして自身の成長を確認できた佐藤は、自分が彼らを追撃すべき存在だということを明確に意識できただろう。

スポーツライター

1953年長野県生まれ。『週刊プレイボーイ』でライターを始め、徐々にスポーツ中心になり、『Number』『Sportiva』など執筆。陸上競技や水泳、スケート競技、ノルディックスキーなどの五輪競技を中心に取材。著書は、『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)など。

折山淑美の最近の記事