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景気は上向きか…数字のマジックにだまされてはいけない

前屋毅フリージャーナリスト

数字のマジック、という言い方がある。意図的かどうかは別として、その数字のマジックで、実態を錯覚させられていることが少なくない。

6月11日付の『読売新聞』が、「中小6割賃上げ実施…全国調査1万社回答」という見出しをつけた記事を掲載している。同記事は「2014年度の賃金を『引き上げた』(見込みを含む)と回答した中小企業は60.4%だった」と報じ、「大企業(59.7%)とほぼ同じ割合で、賃上げの裾野が広がっていることがわかった」と結論づけている。

この記述からは、景気が上向いているかのような印象を受ける。しかし、ここにも数字のマジックがある。

記事の最後のほうを読むと、「調査は5月19~31日に全国2万3373を対象に実施し、1万398社(44.5%)が回答」とある。つまり、半分以下しか回答していない。

対象企業の半分以下しか回答していないアンケートにもかかわらず、「6割賃上げ」といっていいのか。回答企業の6割であることは間違いないが、あくまで全体の6割ではないのだ。6割と強調してみせるのは、回答しなかった半分を完全に無視していることになり、それが実態とはいえない。

なぜ、回答しなかったのか。いろいろな理由があるにちがいないが、自慢できるようなことは公言したくても、逆の場合は口にしたくないのではないだろうか。「賃金を上げたか」と訊かれて、上げていれば積極的に答えたいだろうが、上げていなければ答えたくない、そんなアンケートに回答したくない、となるのではないか。

そうだとすれば、回答しなかった多くの中小企業は、賃上げを実施していないとも考えられる。そうなると、「6割賃上げ」とするのは大きな間違いでしかない。6割を強調するには意味のある数字でも、実態を表した数字とはいえないのだ。

こうした数字のマジックに注意しなければ、誰かに都合のいい解釈を押しつけられる可能性がある。それが、自分にとっては都合の悪いこともある。ごまかされたら、とんでもないことになりかねない。景気は好転していないのに、好転しているかのような印象を押しつけられる可能性があることも心にとめておきたい。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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