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天皇杯決勝。エンタメ性を低下させた「J1優秀監督」G大阪宮本監督の消極的采配

杉山茂樹スポーツライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

 川崎フロンターレがガンバ大阪に1-0で勝利した天皇杯決勝。内容にこれほど大きな差のある1-0も珍しかった。

 下馬評で優位に立っていたのは川崎。Jリーグの1位対2位の対戦ながら、両者の間には18ポイントもの差があった。戦績も川崎の2戦2勝。スコアも、ガンバホームの第1戦こそ1-0だったが、川崎ホームの第2戦は5-0の大差だった。

 川崎のファンでもG大阪のファンでもない筆者だが、ここはG大阪の健闘に期待した。なにより試合が面白くなることを切望した。国立競技場を訪れた観衆は1万3313人。パッと見、川崎ファン5割、G大阪ファン2割、中立のファン3割という感じだった。

 川崎ファン、G大阪ファンは、自軍が優勝して欲しい一心で観戦に臨んでいたに違いないが、中立のファンはそうではない。筆者のスタンスとおそらく一緒だ。

 この天皇杯決勝は例年通り、NHK総合で放送されていた。国立競技場のスタンドでは3割程度だった中立的ファンの割合は、お茶の間ファンの間では8割程度に達するものと思われる。視聴者の多くは、試合が面白くなることをなにより願った。言い換えれば、G大阪はファンを増やす絶好のチャンスだった。

 だが試合後、G大阪のファンは増えなかったと思われる。中立的ファンの願いを裏切るサッカーを展開したからだ。正直に言ってこの決勝戦、面白くなかった。エンターテインメントとして低級だった。

 試合が噛み合っていなかった。攻める川崎。守るG大阪。後半の途中まで試合はハーフコートマッチと化していた。弱者であるG大阪が、大敗を怖がるかのような、引いて守るサッカーを展開したからだ。

 偶然の産物には見えなかった。G大阪が意図的に引いた——と言いたくなる理由は、サイドの関係に見て取れた。試合前に記した原稿で、筆者が最大の見どころに挙げていたポイントでもある。

 特に川崎の左サイド対G大阪の右サイドだ。川崎(4-3-3)の左ウイング・三笘薫、左サイドバック・旗手怜央と、G大阪(4-4-2)の右サイドハーフ・小野瀬康介、右サイドバック・高尾瑠の2対2の関係だ。

 本来なら、旗手怜央対小野瀬、三笘対高尾という構図になるはずだった。ところが、小野瀬が対峙したのは三笘で、高尾は中央よりに、半ばセンターバック(3バックの一角)のように構えたのだ。

 その結果、旗手はほぼフリーに。左サイドバックながら、高い位置で中盤的な仕事にも関与する余裕ができた。川崎のパスワークに安定感をもたらす一因になっていた。

 一方、高尾は最終ラインに張り付いたまま。G大阪の4バックは5バックに見える時間が多かった。後ろを怖がり、意図的に引いたと言いたくなる理由だ。

 宮本恒靖監督の指示であったことは明白だ。格上を向こうに回した弱者の監督が取る手段は、大きく分けて2つ。引いて構えるか、高い位置からプレスを掛けるか、だ。監督の志向が現れる瞬間でもある。かつては引いて守るが主流だった。少ないチャンスを、一瞬のカウンター攻撃でものにするサッカーが一般的だったが、プレッシングの台頭とともに常識は変わった。

 宮本采配は、こう言ってはなんだが、酷く古典的に見えた。日本サッカーに蔓延していた従来式そのものだった。

 天皇杯決勝は一発勝負のカップ戦の決勝だ。今回のG大阪は下馬評も低かった。さらに、その決勝進出には、ラッキーな要素が多分に含まれていた。今回、J1勢で参加資格があったのは、リーグ戦の優勝チームと2位の2チームのみ。川崎、G大阪は準決勝からの参加で、川崎はJ3の勝者(ブラウブリッツ秋田)、G大阪はJ2の勝者(徳島ヴォルティス)に勝利すれば、即決勝という緩い設定だった。

 J1をダントツの成績で制した川崎はともかく、最後、混戦を抜けだして2位の座に滑り込んだG大阪にとって、天皇杯決勝進出は、半分プレゼントされたようなもの。チャレンジャー精神を全開にして臨める試合だった。絶対に負けられない、戦いにくい立場に追い込まれていたのは川崎の方だ。G大阪は、そんな川崎に、平常心で戦いやすい、余裕を与えるようなサッカーをした。

 反撃に転じる時間も遅かった。川崎が決勝点となる先制ゴールを奪ったのは後半9分。守備的サッカーを展開したにもかかわらず、先制点を奪われた。当初のプランは崩れていた。ところが、宮本監督はなかなか手を打たなかった。くり返すが、一発勝負のカップ戦の決勝であるにもかかわらず。

 最初の選手交代を行ったのは後半28分。失点から19分後だった。さらに言えば、選手交代は後半34分に行った3人目で打ち止めとなった。選手交代枠は5人なので、交代カードを2枚、余して敗れたことになる。他に策はなかったのか。宮本監督は、年末のJリーグアウォーズで、川崎の鬼木達監督を抑え、J1リーグ優秀監督賞のタイトルを受賞しているが、この天皇杯決勝の采配は、チャレンジャー精神に欠ける、消極的と言われても仕方がない采配をした。

 この決勝戦、盛り上がったのは、G大阪が反撃に転じたラスト数分のみ。お茶の間観戦者で、そこまでチャンネルを変えなかった人の割合はどれほどだろうか。噛み合わせの悪い試合内容を見て、勇気をもらったという人は、どれほどいただろうか。

 サッカーのレベルアップという視点でも問題ありだ。高い位置でプレスを掛け合うことで、プレーの質や技量を上げてきた経緯がある。

 国民の多くが観戦する天皇杯決勝。披露して欲しかったのは、競技力の向上及びその普及発展に貢献する模範的なサッカーだった。日本人のサッカー監督には、より広い視野に立った采配を振って欲しいものである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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