救急車のサイレンが鳴っていても、車が避けてくれない科学的理由があった
東京消防庁によると2022年の救急車出動件数は、過去最多を記録したそうです。現在、新型コロナ第8波が到来しており、救急搬送困難例が多く、年末年始も救急医療は逼迫していました。私も重症の患者さんを搬送するために救急車に乗ることがあるのですが、サイレンを鳴らしているのになかなか避けてくれない車があり、ヤキモキします。
避けてくれない理由は?
救急車がサイレンを鳴らして近づいているのに、時折、なかなか避けてくれない車がいます。脇に寄ってくれないどころか、交差点に突っ込んでくるトラックさえ目にします。事故にならなくてよかったと、救急隊員の運転技術に感心します。
「もしかして自動車の運転手は、救急車のサイレンが聞こえていないのではないか」と思った専門家が、実験で検証しました(1)。
なるほど、意図的に避けてくれないわけではなく、実はあの大きなサイレン音でさえ気づいていない人が一定数いるかもしれないということですね。
車内の会話時はサイレンが聞こえない
窓を閉めた自動車を時速約40キロメートルで走行させたときの車内騒音量を、①走行のみ、②オーディオを流しながら、③車内で他者と会話しながら、という3つの条件で計測しました(1)。
車内騒音量は、①走行のみで43.8±1.5デシベル、②オーディオを流しながらで54.6±6.7デシベル、③車内で他者と会話しながらで68.4±1.6デシベルという結果でした。参考までに、掃除機の騒音量がだいたい50~60デシベルあたりです。車に乗っているだけで、まあまあうるさいです。
次に実際のサイレンを使った実験です。道路運送車両法で規定されているサイレン音の大きさは、自動車外の条件で「前方20メートルの位置において90デシベル以上120デシベル以下」となっています。かなり、大きい音のはずです。
しかし、窓を閉めた自動車から救急車の距離を何パターンか検証してみたところ、自動車内では救急車サイレン音は40~50デシベルくらいまで下がることが分かりました(図)。
つまり、会話したりオーディオを流したりしていると、密閉した車内の騒音量のほうが救急車のサイレンより大きいということです。
以上から、「救急車のサイレンは思ったより運転手に聞こえていない」という結果が導かれます。
最近の救急車は、サイレンを鳴らすスピーカーの位置が赤色灯のある屋根でなく、フロントバンパーの裏などに変更されています。これも一因ではないかと思われます。
まとめ
新型コロナの医療逼迫で世の中にはたくさんの救急車が走っているのに、実は一部の運転手には、サイレンが聴こえていない可能性があります。
目視で緊急車両を見つけたり、なんとなくサイレンが鳴っているような雰囲気を感じたりしたら、できるだけ徐行して周囲を観察するようにしましょう。余裕があれば、少し窓を開けてもらうほうがよいと思います。
大音量で音楽を聴きながら走ると、緊急車両に気付けないだけでなく周りの迷惑にもなりますので、できるだけ控えましょう。
(参考)
(1) 安田康晴, 他. 日臨救急医会誌(JJSEM).2019; 22: 51-4.