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オウム麻原元教祖の子どもたちが語る「普通に生きたい」という希望とは

篠田博之月刊『創』編集長

元オウム教団アレフと松本家の関係をめぐって、最近いろいろな報道が出始めた。団体規制法に基づく観察処分は3年ごとに可否が判断されるのだが、その期限が2015年1月に訪れる。公安調査庁は観察処分の更新を公安審査委員会に請求することを決めているのだが、そのキャンペーンとして「旧オウム不気味な拡大」(11月8日付産経)などの報道が出るようになっているのだ。公安情報というのは、ある思惑のもとになされるから、本当ならそれをそのまま報じるのでなく、アレフや松本家関係者にあてて裏をとっていかなければならないのだが、実際は公安情報だけが一方的に流されているのが現実だ。

私は松本家の三女とは、1996年、彼女が13歳の時に初めてインタビューして以来、何度も会って来たし、四女とも時々会っている。今回、松本家の家族、特に子どもたちがどういう状況にあるのか、10月に長男がアレフを訴えたという報道がなされたが、どういうことなのか、直接聞きたいと思い、連絡をとった。三女は2013年7月から「お父さん分かりますか?」というブログを立ち上げ、父親のことを案ずる文面をずっとつづっているのだが、その中でも、自分は教団とは無関係だと書いている。だから会ったとしても、同じことを繰り返すだけだとは思ったが、久しぶりに会って話を聞きたいとも思った。

しかし、結局、彼女からの返事は、今回は取材に応じることはできない、というものだった。家族と教団の関係といった自分たちのプライバシーに関わるテーマだったからだろう。そこで四女に会って話を聞いた。松本家の家族は、かつて2000年の長男連れ去り事件を機に家を出た長女、仲の良い二女と三女、それに年の離れた四女、そして一時期、新たな教祖とされた長男・二男、6人の子どもたちがいる。私は、かつて何度か松本家を訪れ、まだ小さかった四女にも会っていたが、彼女は2005~6年頃に家出をして、それ以降松本家とは没交渉になっている。

最近では月刊『創』2014年3月号に登場してもらったが、そのインタビューは、彼女が自殺未遂を繰り返しているという衝撃的な内容だった。彼女は思春期を迎えた頃に、オウム事件についての文献を自分なりに調べ、父親が率いた教団が多くの罪もない人を殺害したことを知って、自分がその首謀者の娘であることを呪い、死んでしまおうと思ったのだった。

四女は、家庭を出て一人で暮らしながら、今もなおオウム事件や教団について関心を持ち続けている。オウム事件は許せないと思い、教団や家族と決別した彼女だが、そんな彼女に対しても世間の目は容赦ない。あの松本智津夫の娘だというのがわかって、バイト先をクビになったことも何度もあるし、住まいも転々としているという。今回、その四女に話を聞いた。インタビュー内容は12月6日発売の『創』1・2月号に掲載したが、ここに概略を紹介しよう。

まず、現在大学生である長男がアレフを提訴したという一件だが、長男二男と教団の関係はなかなか微妙な状況にあることがわかった。私が以前、松本家を訪れた頃には、二人とも小学校に入るかどうかという年齢で、家の中をやんちゃに走り回っていたのだが、彼らが成人したということが、信者たちにとってはある種の意味を持ち始めているらしい。

四女の話を紹介しよう。

「長男は秋に誕生日を迎えたのですが、今年は1歳半離れた二男も春に成人を迎えました。元教祖の息子が二人とも成人したというのは、信者たちにとっては心待ちにしている者も多く、教団を離れた元幹部が戻ってくる動きもあると言われています。2014年の長男の誕生日は『生誕祭』として教団が全国的に大々的に祝ったようなのです。ただ教団と離れていたいと思っている長男はそれを怒ったそうです。アレフを提訴したのはそれゆえだと思いますが、長男のその意思は二女と三女も支持していると言われます。確かに長男は、普通に暮らしていきたいという思いを持っている可能性があります」

長男と二男はいずれも大学生なのだが、一時は一方的に教祖に祭り上げられた経緯もあるだけに、今も教団側としては気になる存在であるらしい。

「今、アレフの実権を握っているのは唯一教団に残った正悟師である二ノ宮耕一さんです。もともと三女と仲が良かったのですが、会議で意見が対立し、2014年夏に、三女に組する幹部2人を除名処分にしたとも言われています。三女は二ノ宮さんよりもともとのステージが上なのですが、二ノ宮さんがどうして強い態度に出られたかというと、二男と関係がいいからだと言われているようです。二ノ宮さんはどうやら母を通じて二男と良好な関係になっているようなのです。

二男が教団との関係についてどう考えているのかわかりませんが、もともと長男と二男はすごく仲が良く、長男としては二男も教団には関わってほしくないと言っているようです」

断っておくが、四女は前述したように、現在、松本家とは絶縁状態で、もちろん教団とも対立しているから、兄弟姉妹についての話も直接当事者としての証言ではない。だから本来なら、二女三女に直接、それらの事実を確認せねばならないし、否定したら否定のコメントを明らかにせねばならないのだが、今回は残念ながらそれができていない。

そして四女が、長男二男ら家族についてどう思っているのかもぜひ伝えておきたい。

「私も松本家で暮らしていた頃そうでしたが、周りに普通の社会の感覚で生きている人が誰もいないのです。今でも信者の中には、松本家の家族のためなら何でもするという人もいます。

弟たちがどうやったら社会に帰る、普通に生きていくことができるのか、そもそも普通に生きていくとはどういうことなのか、私はどうにかして伝えたいと思っています。弟たちだけじゃなくて、二女や三女にしても小さい頃から教団の人たちの中で育っているので、その世界しか見ていない。恐らく自分たちが世間から非難されるのは、松本智津夫の娘だからで、それは一方的に不当なことだと思っていると思うのです。

でも、松本家に育った家族がその後自分で選択していった部分について社会が咎めている部分もあると思うし、教団が罪のない人たちを殺傷したことについては、自分には関係ないと言い切ることはできないと思うのです。

だから二女や三女、兄弟たちについて、普通にどうやって生きていくかということを考えてほしい。それをいわゆるマスコミが言うと、これまでさんざん誤ったひどい事を報道してきたマスコミがまた言っているとしか思わないと思うのですが、そういう偏見を持ってこなかった『創』だったら、彼女たちも考えてくれるのではないか。兄弟たちも見てくれるのではないか。そう期待しています。

長男は少なくとも、教団とは関わりなく、普通に暮らしていきたいと考えているようですが、でも普通の生き方とはどういうものなのか、なかなか明確にはわからないと思います。私も松本家で暮らしていた時には、信者の人たちが、私たち松本智津夫の子どもたちは普通の社会で生きたことがないから生きていけない、と思い込み、それをずっと刷り込まれていました。その恐怖は今でもたまに襲ってきて私は辛くなるのです」

四女が何度も自殺を図ったことは『創』のインタビューで詳しく語っていた。それから約1年ぶりに会って、少しは気持ちが安定してきているのか聞いてみた。以前よりは良くなったが、自殺未遂はこの10月にもあったとの返事だった。

「死にたいと思う気持ちは、3歳の頃からずっとありました。死にたいというよりも死ななくてはいけない、死ぬしかないという感じでしょうか。自分の立場から解放されるためにはそれしかないという感覚です。

特にオウム事件について知ってからは、幸せとか喜びを感じるたびに、オウム真理教は普通の人のそういう喜びを奪ってしまったのだなと感じざるをえないし、いつも被害者の方々のことを忘れたことがありません。そういう思いのなかで自分はどう生きて行けばよいのか考えていかないといけないと思っています」

前述したように、私が三女に初めてインタビューしたのは1996年12月。オウム真理教の本拠地だった上九一色村が解体されて1カ月後のことだった。他の子どもたちが茨城県に移り住んだなかで三女だけは他の福島県で暮らし、四六時中、公安の監視下にあった。まだ13歳のあどけない少女が、公安から毎日尾行されているといった話を淡々と語るのを聞いた時には驚いたものだ。

そしてそのインタビューの中で三女は、学校へ行きたいという希望を語っていた。勉強は嫌いだが、同じ年頃の子と遊んでみたいと話していた。その後、彼女は独学で大学に合格するのだが、合格した3つの大学から入学を拒否され、裁判を起こす。その裁判の経緯と、無事にある大学へ入学できて以降の話も『創』では何度も報じてきた。

考えてみれば松本家の子どもたちは、みな普通の生活がしたいと願いながら生きてきたとも言える。ただ四女の話にもあったように、普通の生活とは何なのか、オウム元教祖の子どもという存在に対する社会の冷ややかな視線のなかでどう生きていくべきなのか、それは簡単にわかることではないのかもしれない。

日本中を震撼させたオウム事件からまもなく20年。最近は大学生にオウム事件と言ってもわからない者もいる。社会的にはオウム事件も風化しつつあるようなのだが、元教祖の家族にとってはもちろん、オウム事件はまだ全く過去のものとなってはいない。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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