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3高(家賃、物価、失業率)のNY コロナ危機の中、人々は今月をどう乗り切ったか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
NYブルックリンのアパート(写真:ロイター/アフロ)

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)により、アメリカでは失業者数が4月以降急増している。

先週だけで440万人が失業保険を申請し、その数累計2650万人(3月13日時点での失業者710万人を加えると3360万人以上)。

失業率は20%を超え、1934年以来の最高水準だ。

アメリカ国内の、週ごとの失業保険申請数。出典:Fortune
アメリカ国内の、週ごとの失業保険申請数。出典:Fortune

ニューヨーク州でも、システムが崩壊してしまうほど未曾有の失業率の高さが問題だ。

州内で失業申請をした人は140万人。しかし申請者数が多すぎてウェブサイトや電話の受け付けがパンクし、多くの失業者が保険金を未だ受け取れていないのだ。

クオモ知事が開く定例記者会見の会場周辺では、経済活動再開を求めた失業者による抗議デモがたびたび起こっている。

失業保険の給付のシステムを改善するため、州ではグーグル社と提携しウェブのシステムを改良し、不眠不休の1000人体制で対応に当たっているという。しかしそのような発表があるだけで、一向に給付金が下りたという話が聞こえてこない。

記者会見では、クオモ知事の秘書で失業保険担当のメリッサ・デロサ氏からはいつもその場しのぎの答えしか返ってこない。23日、記者からの「今日のお金に困っている人についてどう思うか?人々に働く権利はあるか?」という質問に対して、クオモ知事の返答はこうだった。

「経済活動再開については人命の方を優先するべきだ。失業保険金が今ほしいのはわかる。しかしシステムがパンクした状態でそれは不可能だ。しかし良い知らせは、いずれ満額受け取れるのだから損はないということだ。仕事をする必要がどうしてもあるならば、明日からエッセンシャルワークに就けばよい」

仕事も貯金もなく今日食べるのに困っている人が急増。4月24日フードバンクが配布した無料の食品に、多くの人が社会的距離を保ちながら列をなした。(c) Kasumi Abe
仕事も貯金もなく今日食べるのに困っている人が急増。4月24日フードバンクが配布した無料の食品に、多くの人が社会的距離を保ちながら列をなした。(c) Kasumi Abe

失業給付のない中、どうやって家賃を払う?

ニューヨークは現在3高(家賃、物価、失業率)だ。失業の状態で一番頭が痛いのは、驚くほど高い家賃をどうするかということ。

  • NYの平均家賃はスタジオが月約27万円、1ベッドルームが月約32万円前後。家賃が収入の30%以上、中には50%以上を占めるケースもある。

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4月8日付のウォールストリートジャーナルは「Nearly a Third of U.S. Apartment Renters Didn’t Pay April Rent」(アメリカでは3分の1が4月の家賃を支払わなかった)と報じた。

記事では「アメリカではコロナ危機の中、アパートを賃貸している3分の1が、4月の第1週目に家賃を支払っていない」とある。賃貸の場合、通常は月末までに翌月の家賃を払うのがルールだ。しかし4月分の家賃を4月の第1週目までに支払ったのは、3月は82%だったのに対し、4月は69%まで落ち込んだということだった。

もちろん、中には4月第2週以降に支払った人もいるので、アメリカ人の3分の1が今月の家賃を支払わなかったわけではないが、払い渋りをしている人が前月より多くなっていることは確かだ。

アパート検索サイト、プロパティーネストの記事「What to Do If You're Unable to Pay Rent for Your Apartment」(アパートの家賃を払えない場合の対処方法)も興味深い。

記事では、家賃を支払えない場合、退去させられるばかりでなく、クレジットレポート(信用報告書)に傷がつく可能性も示唆している。例えばクレジットカードが作りにくくなったり、将来不動産を購入したり会社を立ち上げる場合に借金が困難になるかもしれないので、できれば避けたい。

一方、ニューヨークではどうなのか?

コロナ危機で失業したフリーランスの人に、今どのような状況なのか、今月の家賃はどうしたのか話を聞いてみた。

ツアーガイド

(ブルックリン在住・女性)

私はこれまでの数年間シェア生活をしてきましたが、ルームメイトと折り合いが悪く、今はスタジオで快適な1人暮らしをしています。家賃は収入の半分以上も占めますが、滞納したことはありません。

観光の仕事は通常なら、今ものすごく忙しい時期です。それでも2月まで、かろうじて依頼はありました。しかし3月に入りツアーの予約が次々にキャンセルされ、中旬には完全に失業状態になりました。

4月の家賃は貯金を下ろして支払いました。失業中も食費などは必要なので、モラトリアムの一環で家賃の支払いを免れるなら助かる、というのが本音です。知り合いの不動産業者に聞いたりネットで調べたりすると、払わなかったとしても3ヵ月間は州の保護でアパートを追い出されないということでした。でも家賃の帳消しにはならないので、結局いずれまとめて支払う必要があることがわかりました。この州の措置について、皆知り合いは「どんな意味があるのか?今家賃が払えないのに、3ヵ月後にどうやってまとめて払えるのか?」と首を傾げています。

どうしようかと迷っているうちに4月半ばごろ、大家から催促メールが届きました。彼らの在宅勤務により、今月から家賃の支払いにはオンラインツールを使うとのこと。2ドルの手数料がかかりますが、それは家賃から差し引いてよいとのこと。

結局今月は払いました。今後ですか?失業保険の給付次第です。

先日、失業保険を州労働局のウェブサイト上で申請しました。72時間以内に折り返しの電話があるとのことでしたが、まったくありません。追加の質問メールが返信されたのはそれから1週間後です。早く失業保険が欲しいのですが、未だプロセスの段階です。そうこうしていたらまた来月の家賃の期日が迫ってきました。

ヘアスタイリスト

(ブルックリン在住・男性)

3ベッドルームのアパートに住んでいます。4月分の家賃はビルのオーナーと交渉し、入居時に支払ったセキュリティデポジット(保証金)を今月の家賃に充ててもらうという形をとってもらいました。ただ来月からは通常通り、支払わなければなりません。

現在フリーランスアーティストやそのほかの労働団体がニューヨーク州に家賃の免除を求めて署名活動を行なっていますが、まだ承認されていません。

収入のない状態で今後も家賃を支払い続けるのは厳しいので、失業保険を申請中です。ただ失業者の数がかなり多いのと、自分はアーティストビザで活動しているので、いつ承認されるのか、もしくはされないのか不透明のままです。

このアパートには妻と一緒に住んでいました。でも「何ヵ月もずっと自宅に引きこもる生活が続くなら、日本の方が良い」と、彼女だけ帰国の道を選びました。彼女は山登りが趣味なので、実家に帰ってのんびり山と共に暮らしたいということでした。私は彼女の意思を尊重し、円満な話し合いの上で遠距離生活を選びました。今のアパートの契約上、また仕事道具も多く抱えているのでそう簡単に引っ越しできる状態ではないし、アーティスト仲間と「この危機を一緒に乗り切ろう」と話をしていたので自分だけが残りました。アーティストとして、自分に今できる活動や勉強や研究の時間に充てようと思っています。

まだ貯金があるので、今後のことは引き続き様子を見るつもりです。今のところ家賃免除はかなり厳しい状態ですが、失業状態が長引くようであれば、オーナーと交渉を続けるつもりです。

ブロードウェイミュージカル演者、ダンサー

(マンハッタン在住・男性)

特例で国外にいる人の1ベッドルームの家に、驚くほど安い家賃で住まわせてもらっています。4月分の家賃は貯金から払いました。

失業保険は申請していません。僕は非移民ビザ保有で活動しています。失業保険を申請すると一時的にアウト・オブ・ステータスになってしまうリスクがあると弁護士にアドバイスされているからです。

生活費は、贅沢しなければとりあえず普通に生きていくだけの貯蓄はあり、あと半年くらいは大丈夫です。金銭面は確かに大変だけど、家賃の交渉をしたり寄付などを募る予定はありません。今大変なのは特定の場所ではなく全体ですし、自分よりももっと辛い気持ちの人たちがたくさんいますから。

それよりも、パフォーマーとして自分にしかできない事で人々を楽しませ、メンタルを助けられる何かをしたいです。これまでエンタメ業界で生きてきて、エンタメに救われた僕も過去にいるからです。今必要なものは、すぐのお金ではなくその先にあるものです。パフォーマーとして、オンラインでマネタイズできる方法も、現在試行錯誤中です。

叫ばれるレントフリーズ(家賃不払い運動)

5月分の家賃支払い期日が1週間後となった24日、家賃不払い運動に理解を示すニューヨークのビル・デ・ブラシオ市長は定例記者会見で、市内のレントスタビライズ・アパート*に住む約200万人の家賃凍結を可決するよう、賃借ガイドライン委員会(RGB)に要請したことを発表した。

  • ニューヨークの賃貸物件は毎年家賃が上がっていく。しかし、レントスタビライズ・アパートは市で決められたパーセンテージしか上がらないため、家賃の「急激な」上昇がない。

市長はさらに、クオモ知事に対して家賃の支払いが遅延しても90日間追い出されないモラトリアム措置は失業状態では充分ではないとし「さらなる60日の延長」を求めている。

しかしこれらの提案に対して大家の代表からは、ビルを維持するために家賃凍結はありえないとする反対意見が上がっている。

クオモ知事は90日間以上の延長について「6月になって状況を見ながら検討する」という答えに留まった。市内の家賃凍結については「いくつかのオプションを考えているが、ニューヨーク市内の家賃はRGBがコントロールしているため、市長に委ねている」とした。

RGBの次回の会合は30日に予定されている。#rentfreeze #CancelRent 運動はアメリカ各地で活発になりつつあるが、今後何か動きがあるのか、それともこのまま何も変わらないのか?

(Interview and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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