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クリスマスと大麻のはなし―サンタがあんなに陽気なのはなぜ?―

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
姪っ子が描いてくれたクリスマスの絵

 一部の国や地域では規制緩和の大きな流れが見られる大麻ですが、世界全体でみるとなお厳しい取締りの対象となっています。しかし今日は、規制の是非は置いて、クリスマスにちなんだはなしを紹介します。

 そもそもイエス・キリストの降誕を祝う日に、なぜもみの木を飾り、暖炉に靴下をつるし、北欧に住んでいるサンタが子どもたちにプレゼントを届けに来てくれるのか・・・

 キリスト教は、ヨーロッパ全域にゆっくりと広がる中で、その土地土地の伝統的な宗教や習俗と混ざり合っていきました。キリスト教の重要な行事や祝い事、特にクリスマスやイースターには、異教徒の儀式や伝統を受け継いだ痕跡があります。

 そして、クリスマスと大麻が切っても切れない関係にあったということについても、多くの伝承があります。

異教徒とクリスマス

 ヨーロッパでは12月の20日頃は一年で夜がもっとも長い冬至の時期です。この頃からだんだんと日が長く、そして夜が短くなっていきます。

 キリスト教が伝わるはるか前から、ヨーロッパの人びと、ゲルマン民族やバイキングたちはこの時期の厳しい冬の夜に「ユール」と呼ばれる盛大な祭りを行っていました。それは、太陽を元気づけ、再び取りもどすための祭りでした。人びとは、常緑樹の枝やそれで輪を作り、春と夏の象徴である緑を家の中に飾りました。その中には、至るところに自生していた大麻もありました。

 とくに12月25日から1月6日までの「クリスマスの12日間」は、神オーディンと彼の軍団が夜空を駆け巡り、光と闇の戦いを繰り広げる「ワイルドハント」と呼ばれる時期です。

http://www.fourzine.it/wp-content/uploads/2014/06/quarto-domani.jpg
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 オーディンとその軍団は無防備な人々を地上からさらいました。さまざまな邪悪なるものも現れました。寝る前に神々を鎮め、邪悪なものを追い払うために、人びとは常緑樹の樹脂、ミルクアザミ、ヨモギ、そしておそらく大麻など、縁起の良い9種類のハーブで作った「魔法のお香」を炊き、家や馬小屋を清めました(暖炉のそばに靴下をつるすのは、大麻を乾燥させるためであったという指摘もあります)。

 サンタとトナカイが空を飛ぶのは、ワイルドハントの神話がもとになっているという説もあります。

大麻のおかゆ

 下の絵は、サンタ(?)がヤギに乗って大麻のおかゆを運ぶところです(Robert Seymour (1798 - 1836), Public domain, via Wikimedia Commons)。

Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより
Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより

 今でもクリスマスイブの日に、ポーランドとリトアニアの人たちは大麻の種子から作られたおかゆ、「セミエニアトカ」(semieniatka)を作るそうです(→ブルガリア語のレシピ)。クリスマスの前夜に死者の霊が家族を訪ねてくるので、大麻の実でおかゆを作って死者の魂をもてなすのです。同じような儀式は、ラトビアやウクライナでも見られます。

 さらに西ヨーロッパでは、死者への捧げ物として秋の収穫時に燃える火に(パチパチと燃える音がする)大麻の実を投げる風習があったということです。大麻は死や葬儀に関係した儀式と密接に結びついていました。

ビール祭り

 今では多くのクラフトビールメーカーが、ハーブやスパイスをふんだんに使ったウィンター・ビールを冬季限定で醸造していますが、これは何世紀にもわたるユールの伝統でもあります。とくに北ゲルマンでは、ユール・ビールが好まれていました。ノルウェーでは、10世紀に「ユールのために各家庭でビールを醸造しなければ罰金に処す」という法律が制定されたほどです。

Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより
Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより

 もともとビールには、小麦・ホップ・酵母以外は使いませんでしたが、ユール・ビールは、ヨモギやブラック・ヘンベインといったハーブに加えて、モミの木やローズマリーを入れて風味を出すことが例外的に許されました。そして大麻を混ぜて酔いを強めることもありました。なお、ブラック・ヘンベインは、大麻とともに古代から痛みの緩和のために使われてきた薬草です。

サンタの服が赤と白なのは、なぜ?

 昔のクリスマスのイラストには、赤と白のキノコが描かれていることがあります。これはベニテングタケで、古くから冬至と関係のあるサイケデリックな菌類です。ワイルドハントを描いた多くの作品では、オーディンが雲を通り抜けた場所にベニテングタケが生えていて、9ヶ月後の秋分の日(9月21日)から12月末までの間に魔法のように芽を出すと書かれています。

 下の絵は、ベニテングタケを運ぶノーム(小さな妖精)です。

Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより
Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより

 古代ヨーロッパでは、冬至にシャーマン(呪術師)がベニテングタケを食べたと言われています。ラップランドに住む先住民族サーミの人たちは、冬の一番長い夜に、トナカイの引くソリに乗ってシャーマンがやってくるのをテントの中で待っていました。家族はテントの中でシャーマンにベニテングタケ(おそらく大麻も)の入った食事を出し、シャーマンはそれを食べて、陶酔状態の中で癒しのためや異界からの贈り物(預言)を家族に与えます。シャーマンは、赤と白の服を着て、空を飛ぶような感覚を味わえるキノコの力と魔力を讃えました。サンタの服の色はここからきているのではないでしょうか。

サンタが陽気なのは、なぜ?

 下の絵は、パイプを吸うサンタです(Jolly Old St. Nick and his baccy pipe. =Thomas Nast, Public domain, via Wikimedia Commons

Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより
Colleen Fisher Tully:How pagans used cannabis at Christmastimeより

 クレメント・クラーク・ムーアという詩人が1823年に発表した詩「サンタがやってくる」の中で、「サンタはパイプの切り株を歯でしっかりと噛みしめ、その煙はサンタの頭を花輪のように包み込んだ」と書いています。

 パイプの中には、おそらくタバコ以外に大麻(マリファナ)も入っていたことでしょう。というのは、当時はタバコにバクシー(Baccy)と呼ばれるハーブを混ぜた、刺激的な混合物が好んで吸われていたからです。とくにドイツ人は大麻が入ったバクシーを特別な言葉で「ナスター」(Knaster)と呼んでいました。だから、陽気なサンタのパイプには、大麻が入っていた可能性がおおいにあります。

(最後にチコちゃん風に)

・サンタがあんなに陽気なのは、なぜ?

・それは、サンタがマリファナを吸ってたから~!(了)

【参考】

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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