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東京五輪銅の「ワタガシ」を悩ませる"ア〜……"問題とは

楊順行スポーツライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 いま開催中のバドミントン「ダイハツ・ヨネックスジャパンオープン2022」。先週東京で開催された世界選手権・混合ダブルスで、日本選手としては初めての銀メダルを獲得した渡辺勇大/東野有紗の"ワタガシ"も快調だ(それにしても、誰がつけたか絶妙なネーミングである。売り出し中のとき「なにかいい愛称はないですかね?」と関係者に聞かれたとき、僕は"ナベヒガ"としか提案できなかった)。

 昨年の東京五輪では、混合複では日本初のメダルとなる銅メダル。世界ランキングも3位で、このジャパンOPでも順当にベスト4に進出している。でもねぇ……というのは渡辺だ。

「ホームでの開催で、お客さんがたくさん入って応援してくれるのはメッチャうれしいんです。うれしいんですが、ミスしたときや長いラリーで競り負けたとき、チャンスを決めきれなかったときに客席から"ア〜……"とため息がもれる。あれはやめてほしいですね。"ア〜……"は、オレが一番思っているんですから(笑)」

 わかる。バドミントンもそうだが、たとえばテニスでも、ラリーの間には「クワイエット・プリーズ」が要求される。だけど1球ごとのやりとりが白熱してくると、「オ〜ゥ」とか、感嘆の声が自然発生するものだ。

 コロナ下で、声出しが抑制されているいまも、自然発生までは制御できない。ただやはり、表向きは「声は出さないで応援しましょう」である。そうなるとむしろ、好プレーならまだ拍手でエールを送ることができるが、ことにチャンスボールをミスしたときにはどうしても、"ア〜……"という静かな声が会場に拡散してしまう。

 渡辺がげんなりするのは、完全なるホームゲームだけに、その自然発生が抑えられないからだ。そういえば若いころの伊達公子も、日本開催のテニスのツアーで、でよくぶち切れていたっけ。「"ア〜……"はやめてほしい」と。

 ただ圧倒的なホームゲームなら、肩入れが一方的なだけにそれはどうしても避けられない。

確かに、上司に"ア〜……"といわれたらイヤだよね

 たとえばいま、男子バレーボールはある程度世界の上位にいるが、弱い時代にもテレビ局のお手盛り大会がよく日本各地で催された。日本が世界に挑戦する、と謳いながら、その実、オリンピックにも出られないころ。でも、日本はこんなに頑張っているし、カッコいい選手がいますよ。露払いにジャニーズを配するところなど、いってしまえば興行だった。

 テレビを見る者はそれに酔う。世界王者と日本の対戦でも、チャンプを応援する者はほとんどいない。会場を埋め尽くした女性ファンは、お目当ての日本代表選手だけを見ているから、得点経過とか勝負の行方など関係ないし、お目当ての選手がサーブミスでもしようものなら、試合が競っていようがどうであろうが、盛大な"ア〜……"が聞こえてきたっけ。

 甲子園の阪神・巨人戦で、阪神がチャンスを逃しても球場には"ア〜……"が充満するだろう。だけど、ピンチを切り抜けた巨人ファンにとっては拍手喝采、よしよしよく切り抜けた、と声も拍手も出るはず。だから野球選手にとって、仮に"ア〜……""が聞こえたとしても、ある程度緩和され相殺され、「クワイエット・プリーズ」的な競技よりはダメージは少ないのではないか。

 そもそも、たとえばゴルフ。難易度として、入るかどうか五分五分の距離のパットを入れれば優勝、外せば2位で、賞金額も倍ほど違う。それを外したとき、ギャラリーは"ア〜……""と声をもらす。だけどこれこそ、渡辺がいう通りに本人が一番"ア〜……""なのだ。

 いずれにしても、"ア〜……""の声は応援する気持ちが強いからこそ出てくることには違いない。それが選手にとって気持ちを萎えさせることはあるだろう。だけど、ワタガシの東野は「私は鈍いのか、聞こえてはきません」と語っている。そのくらい図太くなるのが一番いいのかもしれない。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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