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森保監督はなぜスタイルを変えたのか。「柔軟性」「臨機応変」は、サッカー監督の哲学にあらず

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT

 コスタリカに3-0で勝とうが、0-2で敗れようが、この時期に行われる親善試合の結果に特別、関心はない。ロシアW杯が終了し、代表監督が交代したいま、いちばん敏感になるのは、代表サッカーの向こう4年間の方向性だ。

 森保監督がサンフレッチェ広島時代、そして先日のアジア大会で見せたサッカーは、西野前監督がロシアW杯で見せたサッカーとは違う。

 さらに言えば、森保監督には他のサッカーを実践してきた過去がないので、日本代表監督になっても、従来通りのサッカーを森保監督は披露するものと思われた。

 だが、予想は外れた。コスタリカ戦で真っ先に語るべきは、森保監督が3-4-2-1(森保監督の従来型)ではなく4-4-2(代表サッカーの従来型)で戦った点だ。

 なぜ変えたのか? 

 従来とコンセプトが大きく異なるサッカーを代表監督就任緒戦でいきなり披露した監督は、古今東西広しといえども珍しい。

 これは事件である。サッカーを議論する際の肝と言える。

 両布陣には大きな差がある。一方は守備的で、一方は攻撃的。森保監督就任を機に、代表サッカーの方向性は攻撃的から守備的に、大きく舵を切るものと危惧されていた。

 とはいえ、サッカーの方向性について詳しい説明があったわけではない。むしろ、田嶋幸三会長、関塚隆技術委員長は、森保サッカーは西野サッカーの延長であるかのような言い方をした。話はぐちゃぐちゃになっていた。

 田嶋会長はハリルホジッチ監督のやり方を、日本にそぐわないサッカーだとしてロシアW杯直前に解任。ドタバタ劇を繰り広げることになったが、特異性という点で、森保監督のサッカーも負けていないのだ。

 少なくとも西野監督がロシアW杯を戦ったサッカーとは違う。西野ジャパンがロシアで演じたのはアギーレジャパン的であり、ザックジャパン的であり、南アW杯本番を戦った岡田的ジャパン的だった。従来の流れの延長上にあるサッカーだった。

 森保監督はコスタリカ戦で、それに従うようなサッカーをした。

 ひとつの形にこだわってやっていくのもいいけれど、いろんな形に対応できるように、柔軟性のある臨機応変な対応をしていきたい。システムはどうあろうとサッカーの原理原則は変わらないですからーーとは、試合後、変更理由について問われた森保監督の言葉だ。

 

 逃げ口上であることは明々白々。突っ込みどころ満載の台詞でもある。

 これは、サッカー監督の根幹が問われるポイントだ。「サッカーの原理原則は変わらない」と言うが、ならばそれは何か。サッカーの原理原則は1つではない。森保監督が考える原理原則とは何なのか。それは哲学という言葉に置き換えられるが、そこを聞き手に明快に示さなければ、自分の意志は伝わらない。コミュニケーションは成立しない。意思疎通を図るつもりがあるのか。それさえも疑いたくなる。そこを逃げないのがよい監督。自分に自信があるので、懇切丁寧に説明しようとする。こちらは、これまでにそうした監督に何人も出会ってきた。

「ひとつの形にこだわってやっていくこともいいけれど」にしても、それならなぜ何年間もの間、1つのやり方にこだわってきたのか。これまで柔軟性のある臨機応変な対応をしてこなかった人が、急に方針を変えた理由は何なのか。

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スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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