ベーシックインカムの導入は世代間対立を生む
前回の記事「ベーシックインカムの損得勘定」では、
社会的コストを考慮した場合、
1.最適なベーシックインカムの給付金額は、国民一人当たり年額7万円であること、
2.ただし、2070年以降は社会的に見て、損失の方が大きくなること、
3.したがって、後から生まれる世代ほど損をすることになる可能性が高いこと、
を指摘しました。
本記事では、世代会計という手法を用いて、生涯純負担率を推計することで、国債の日銀引き受けによるベーシックインカムという仮想的なケースについて、世代間での損得勘定を明らかにしてみたいと思います。
なお、世代会計(生涯純負担率)については、「世代間格差でみた第二次安倍政権の財政運営」を参照頂ければと思います。
まず、ベーシックインカムが導入されない場合と、年額7万円(一世帯当たり21万円(平均世帯(単独世帯を除く)では7万円×2.95人=20.65万円/年))のベーシックインカムを(日銀が直接引き受けない市中消化の)赤字国債によって捻出すると仮想した場合の世代会計を比較してみると、当然、現在世代は、現役世代も高齢世代も、将来世代の負担によって年額7万円、一世帯平均21万円のベーシックインカムを受け取ることができますから、現在世代の生涯純税負担率は改善します。負担なく給付をもらえるのですから、あたり前田のクラッカー、こんなにおいしい話はありません。
しかし、現在世代のベーシックインカムのコストを先送りされる将来世代(2020年時点で未出生の世代)の世代勘定は悪化します。
つまり、財源を(日銀の直接引き受けではなく)市中消化の赤字国債に求めたベーシックインカムでは、現在世代は得をし、将来世代は損をするという意味で世代間対立が発生します。
次に、年額7万円、一世帯平均21万円のベーシックインカムの財源を、先ほどと同様に、市中消化とする場合と、日銀の直接引き受けとする場合の、生涯純税負担率の比較を見てみますと、70歳以下の世代で生涯純税負担率が悪化し、しかも、若い世代ほど大きく悪化することになります。
これは、インフレの累積効果などによって社会的なコストが後になるほど大きくなることから、後から生まれる世代ほどより多くの負担を負うことになるからです。
一方、市中消化とは違って日銀引き受けの場合は、国債の償還が行われないものと仮定しているため、将来世代の負担は削減されます。
つまり、財源を、日銀の直接引き受けに求めたベーシックインカムでは、現在世代のなかでも、損をする世代と得をする世代に分かれ、若い世代ほど損をする、さらに、将来世代は得をするという意味で、やや複雑な世代間対立が発生します。
最後に、蛇足ながら、財源を、消費増税に求めた場合と、日銀の直接引き受けに求めた場合との比較を行うと、消費増税の方が、40歳以下の世代で生涯純税負担率は低下し、しかも、若い世代ほど大きく低下することが分かります。
これは、消費増税による負担増よりも、4%のインフレによる社会的損失効果が大きいことを意味しています。
もちろん、こうした結論は、国債の日銀引き受けによるベーシックインカムが、どの程度のインフレをもたらし、社会に損失を与えるのかに依存していますから、もしインフレを生まないとすれば、国債の日銀引き受けによるベーシックインカムが優れた制度と言える可能性もあります。
しかし、国からベーシックインカムという購買力が継続的に支給される状況下において、ベーシックインカムが消費に回らないとは考えにくく、つまり、経済を持続的に刺激するわけですから、物価が不変ということにはならないだろうと思われます。
だとすれば、やはり、国債の日銀引き受けによるベーシックインカムの財源調達は、一見、誰もベーシックインカムのコストを負担することはないように見えるものの、実際には、インフレの累積効果などによって社会的なコストが後になるほど大きくなることもあり、世代間対立を生むことになります。
結局、どんなにおいしく聞こえる政策であっても、誰かがその政策のコストを必ず何らかの形で負担しなければならず、ノーフリーランチの原則(ただ飯は存在しない)に沿った極めて(経済学的には)常識的な結論が得られたわけなのです。