世代間格差でみた第二次安倍政権の財政運営

(写真:西村尚己/アフロ)

ポイント

第二次安倍政権の財政運営を簡単にまとめると、経済成長の促進や消費税の引き上げなどによって、歳入構造の立て直しを図る一方で、全世代型社会保障の充実など増えた税収を上回って歳出規模を拡大させたため、現在世代内の世代間格差が悪化した。一方で、将来世代にとっては、第二次安倍政権はやさしい政権だった。

ピリオドを打った長期政権

先月28日安倍晋三総理が体調を理由に辞意を表明されました。2012年12月26日に成立し8年弱に及んだ第二次安倍政権の評価は、すでに様々な論者が様々な場で様々になされています。安部総理を支持する人、支持しない人で同じ政策や指標でも評価が真っ二つであったりするのは、珍しいことではありません。

第二次安倍政権を「評価する」、「評価しない」、いずれの立場に与するにしても、わたしの能力では新しい発見をなすことはできそうにありませんので、一応専門でもあります、世代間格差の観点から、第二次安倍政権の財政運営について評価してみたいと思います。

なお、蛇足ながら、世代間格差は、政府が国民を年齢に基づいてどの程度差別しているかを表す指標として理解されるものであり、差別の度合いが各々の世代から見て許容しがたいと思われる場合には、財政破綻のありなしとは独立して、是正されるべきものであることを付記しておきたいと思います。

膨らむ財政規模

以下では、安倍政権発足前の2012年度と2020年度(第二次補正予算含む)における歳出と歳入を比較してみたいと思います。

まず、歳出を見てみると、社会保障関係費の膨張が止まらず、その結果、2019年度、2020年度と続けて100兆円の大台を突破するなど歳出規模の拡大が続いています。

拡大が続く歳出規模(出典)財務省資料をもとに筆者作成
拡大が続く歳出規模(出典)財務省資料をもとに筆者作成

一方、歳入は、歳出の膨張に伴い総額で拡大しています。

その内容を見ると、第二次安倍政権で2度にわたって引き上げられた消費税や、好調な企業業績を背景として、税収は拡大しました。

増加した税収(出典)財務省資料をもとに筆者作成
増加した税収(出典)財務省資料をもとに筆者作成

(上図、2020年度補正込みグラフのその他(オレンジ色)には、コロナ対策経費が計上されています)

その結果、2020年度当初予算では、国債発行額が2012年度の50兆円から32.6兆円まで18兆円弱削減されました。内訳をみると、建設国債は▼4.3兆円(▼38%弱)、赤字国債は▼13.2兆円(▼34%強)の削減となっています。

国債発行額の比較(出典)財務省資料をもとに筆者作成
国債発行額の比較(出典)財務省資料をもとに筆者作成

赤字国債は、世代会計ではそっくりそのまま将来世代の負担となりますので、第二次安倍政権では、その前の政権に比べて将来世代への負担の先送りをなくすことはできませんでしたが、減らすことは出来たと言えます

このように、第二次安倍政権では、歳出規模の拡大と高止まりにもかかわらず、税収も安定的に好調に推移したため、財政構造は改善したとも評価できます。そもそも、在職中、消費税率を5ポイントも引き上げたのは安倍内閣が初めてです。見方によっては、大増税政権ともいえるかもしれません。

しかし、実際には、税収が増えたら増えた以上に歳出も増やしていますので、これまでの財政赤字体質には本質的な変化はなく、ツケはより若い世代に先送りされ、いつ爆発するとも分からない時限爆弾を抱えたままとなっています。

このように、遅々とした歩みではありましたが、第二次安倍政権で改善するかに見えた財政状況は、新型コロナウィルス蔓延によって、一気に悪化しました。具体的には、前例のない大胆な新型コロナ対策によって国債発行額は90.2兆円にまで急拡大しています(しかし、この国債発行額も、2020年度の税収見積もりが、コロナ蔓延前の見積もりがそのまま維持されているため、実際にはもっと増加する可能性が高いです)。

ただし、こうした大盤振る舞いは、あくまでも特例措置であると思われますが、コロナ対策で発生したこの巨額な債務をどのように償還していくのか、一時的に膨れ上がった歳出規模を、これまでの前例を断ち切って、元の水準に戻せるのか、現在のところ全く道筋がつけられていませんので、今後の財政運営に対する大きな懸念材料ともいえるでしょう。

一般会計歳出の推移と転位効果(出典)財務省資料により筆者作成
一般会計歳出の推移と転位効果(出典)財務省資料により筆者作成

こうしてこれまで、至る所で、ワニの口としばしば揶揄されてきた日本の財政ですが、ワニの上顎が外れた様子が見て取れます。

顎が外れたワニの口(出典)財務省『これからの日本のために財政を考える(3頁)』
顎が外れたワニの口(出典)財務省『これからの日本のために財政を考える(3頁)』

それでは、こうした財政構造の変化を受け、第二次安倍政権の前後では、世代間格差はどのように変化したでしょうか?

本記事では、世代会計による生涯純税負担率という概念を用いて分析してみたいと思います。

生涯純税負担率については、詳しくは拙著『若者は、日本を脱出するしかないのか』(ビジネス教育出版社)を参考していただけるととっても幸いなのですが、簡単に言えば、生涯純負担率とは、生涯負担額(一生涯の税や社会保障負担)から生涯受益額(一生涯の主に年金等の社会保障給付であり公共サービスは含まない)を控除して定義される生涯純税負担額(=生涯負担額-生涯受益額)を生涯所得で除したものです。したがって、生涯純税負担率がプラス=負担超過、生涯純税負担率がマイナス=受益超過を表します。

まず、第二次安倍政権発足直前に策定された2012年度における歳出歳入構造を前提した場合の世代間格差(生涯純税負担率の違い)を試算したものが下表です。

第二次安倍政権前の財政運営による世代間格差の実態(出典)筆者作成
第二次安倍政権前の財政運営による世代間格差の実態(出典)筆者作成

一見して分かるように、高齢世代ほど生涯純税負担率が低く、若くなるほど大きくなっていることが分かります。しかし、40歳世代より若い世代ではほぼ横ばいで推移していることも指摘できます。つまり、世代間格差の拡大は高止まりしているのです。一方で、政府債務残高の累増に表れている現在世代の負担不足は、将来世代が背負わされていて、将来世代の生涯純税負担率は49.4%となっています。実に、生涯所得の半分近くをわたしたち現在世代に差し出している計算です!

敢えて申し上げれば、孫の財布でわたしたちがすき焼きを食べている構図です。おそらく、わたしたちの孫たちはおかゆを食べることになるでしょう...。

さて、次に、こうした世代間格差が、第二次安倍政権による財政運営によって、どのように変化したのかを、令和2年度(2020年度)第二次補正予算まで含めた予算によって試算したものが下表です。

第二次安倍政権の財政運営による世代間格差の実態(出典)筆者作成
第二次安倍政権の財政運営による世代間格差の実態(出典)筆者作成

世代別に見た生涯純税負担率の推移の形状は、第二次安倍政権前後で変わりはありません。しかし、金額で見ても、負担割合で見ても、第二次安倍政権による財政運営によって、30歳より若い世代では負担が増し、45歳世代より高齢の世代では、金額で見ても、負担割合で見ても、負担が軽減されていることが分かります。つまり、第二次安倍政権による財政運営によって、世代間格差は拡大したのです。

第二次安倍政権前後での世代間格差の比較(出典)筆者作成
第二次安倍政権前後での世代間格差の比較(出典)筆者作成

この理由としては、全世代型社会保障の充実により高齢世代のみならず現役世代の給付(幼児教育・保育や高等教育の無償化など)も増えたことなどにより(新型コロナ対策による特別定額給付金も含んでいます)、生涯受益率が増えた一方、2度にわたる消費税引き上げの延期により、本来なら負うはずだった消費増税分の負担がなくなり高齢世代の負担率が減ったこと、そして高齢者“偏重”の社会保障の改革により高齢世代の負担も増えたことなど、全世代の負担が増えたことによります。蛇足ですが、現在の高齢世代の負担増加はそれが制度化されれば、当然現在の若い世代にも影響が及ぶことを世代会計は明らかにしてくれています。

一方で、消費税引き上げなどによる現在世代の負担増加策にもかかわらず、全世代型社会保障の充実や、新型コロナ対策に伴う新規債務の増大によって、将来世代に先送りされた負担額は、第二次安倍政権前に比べて、一人当たりで800万円増加しました。しかし、第二次安倍政権では経済成長がそれ以前に比べてわずかながら加速し所得が増加したため、負担割合で見ると、低下したことも指摘できます。つまり、消費増税と経済成長の促進を図った第二次安倍政権は将来世代にやさしい政権だったと言えます。

第二次安倍政権前後での将来世代の生涯純負担率の比較(出典)筆者作成
第二次安倍政権前後での将来世代の生涯純負担率の比較(出典)筆者作成

以上、第二次安倍政権の財政運営を、世代間格差の観点からまとめると、

  1. 税収増を背景に歳出規模の拡大が続いた。(増えたら増えただけ使った)
  2. 新規国債発行額は削減され世代への将来先送りは減った。(私たちの生活が苦しくなった)
  3. 全世代型社会保障の導入は見合いの財源が足りず歳出歳入構造が悪化。そのツケは将来世代に先送りされた。(将来世代の犠牲の上でわたしたちの生活が充実した)
  4. 金額で見た各世代の純負担は増大したが、経済成長を背景とした所得の成長が軽減した。(経済成長は大事。いつまで続く(続けられるか)?)

となるかと思います。ちなみに、(  )内は懸念材料です。