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“レコ大の黒い霧”をめぐって

碓井広義メディア文化評論家

週刊文春が報じた「レコード大賞1億円買収疑惑」。

この件について、新聞やテレビなど、いわゆる大マスコミの報道がほとんどありません。様子見ということなのかもしれませんが、タブーに触れるのを避けるかのようで、やはり異様な感じがします。

先日、ネットニュースのビジネスジャーナルから取材を受けました。現時点での感想ということでしたので、以下のように回答しました。

●近年のレコード大賞への違和感

2008年から昨年までの8年間、レコード大賞の受賞者はEXILE(4回)、EXILEの兄弟グループである三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE(2回)、そしてAKB48(2回)の3組のみです。特に“EXILE関連銘柄”の圧倒的な強さが目立ちます。

音楽の趣味が細分化・多様化し、1年を代表する曲を選ぶことが難しくなっていることは理解できますが、特定事務所の独占的受賞に、音楽ファンも含め多くの人が違和感をぬぐえませんでした。

レコード大賞の選定に関して、この事務所が大きな権限、もしくは影響力を持っているという「噂」は以前からありました。しかし、今回のように、一種の「物的証拠」が提示されたのは初めてです。

もしも報道されたように、「1億円で大賞が売買された」のであれば、これほど音楽ファンを愚弄する話はありません。

●レコード大賞と放送局

またレコード大賞は、単なる音楽賞として存在しているわけではなく、TBSが毎年、年末に放送する大型番組「輝く!日本レコード大賞」と不可分な関係にあります。

視聴者は、レコード大賞を日本で最も権威のある音楽賞の一つとして認識するからこそ、今年で58回目となるこの番組を見続けてきました。

しかし、厳正であるべき選定に、このような疑義があるとすれば、それは視聴者に対する裏切りでもあります。

今回指摘された昨年の選定をめぐる疑惑は、まさに放送内容に関わる大問題です。TBSは独自に調査を行い、その結果を公表すべきであり、それが放送した側の責任だと思います。

また、真相の解明をしないまま、今年もTBSがレコ大の放送を行うのであれば、法律的にはともかく、倫理的に大きな問題があると言わざるを得ません。

華やかな音楽賞の背後に、“レコ大の黒い霧”ともいえる、恥ずべき癒着や腐敗が広がっていて、しかも放送局がその実態を知りながら、黙認する形で放送を続けてきたのか、といった疑いを持たれないためにも、TBSの可及的すみやかな対応が望まれます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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