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ソ連が人類初の人工衛星を打ち上げ 多くの人が見上げて探した

饒村曜気象予報士
「ひまわり」可視カラー画像(平成29年10月3日12時、気象庁ホームページより)

人類初の人工衛星

 昭和32年(1957年)10月4日、ソ連(ロシアを中心とするソビエト連邦)は、人類初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げ、96分で世界を一周させています。近点高度が215キロメートル、遠点高度が939キロメートルという楕円軌道で、強い電波を発していました。

 このニュースは、世界中を驚かせ、特に、それまで宇宙開発競争でもトップを走っていたと思っていたアメリカ国民のショックは大きく、ニューヨーク株式市場は値下がり総額40億ドル(当時の換算で1兆4000億円)という大暴落をしています。

 日本では、移動性高気圧に覆われて晴れたところが多かったので、各地で多くの人が夜空を見上げ、人類の作った新しい星を探すなどの騒ぎとなっています。直径が58センチメートルの小さな球体で見えるはずがないという意見もありましたが、日出前か日没後に日本付近を低い高度で通過すれば、肉眼でかろうじて見分けられる明るさになるのではないかという意見があったからです。

 しかし、東京では4日の夜は「曇り一時小雨」、翌5日の夜は「曇り一時霧」など、日本では雲が多く、観測に適していた天気だったのは、新潟県と長野県諏訪だけでした。

 新潟県では、人工衛星が見えたとのニュースも流れましたが、衛星から発信される電波の分析から求めた衛星の位置と、新潟県で観測した位置とが違うので、流星等を見誤ったのではないかとされています。

 子供でしたが、「スプートニク1号」のニュースは印象に残っており、当時は、人工衛星が打ち上げらたというニュースが流れると、空を見上げて探すといったことが、ちょっとしたブームになっていたと記憶しています。

観測年中に“完全衛星”を打ち上げる

オブーホフ博士語る

【ソビエト・ニュース=東京】七日のモスクワ放送によれば、ソ連の大気圏物理学研究所長オブーホフ博士は同日初の人工衛星について次のように明言した。

一 国際地球観測年中に完全に総合的な研究を行い得る複雑な装置を積んだ若干の衛星を打ち上げる予定である。

一 衛星が運行する放物線の研究によって非常な高空における大気の密度に関する資料を確認することが出来、また衛星の発信を受信した無線家からよせられるいろいろの報告は大気圏の特徴について新鮮な資料を与えてくれる。

一 今後より複雑な装置を使うことによって極光の性質、大気圏上層部における気流の配置状況、地球磁場の急激な変化の原因など物理学上重要な問題が解決されることになろう。 

出典:朝日新聞(昭和32年10月8日夕刊)

最初の気象衛星

 「スプートニク1号」の約1ヶ月後の11月3日、ソ連は「スプートニク2号」にライカ犬を積んで打ち上げています。

 アメリカでは、ソ連が予想より早く、予想よりも大きな衛星を次々に打ち上げてきたことから、科学教育や研究の重要性が再認識され、軍事や科学、教育などが強化されています。

 ソ連が人工衛星に「犬」を積めば、アメリカが人工衛星に「サル」を積むというというように、東西冷戦を行っている犬猿の中である米ソで宇宙開発競争が始まりました。

 アメリカも負けてはいません。スプートニクショックの3年後の昭和35年(1960年)4月1日に、人類初の気象衛星「タイロス1号」を打ち上げるなど、ソ連を追い上げています。

 軍事用ではなく、民生用にも人工衛星が使えることを示したタイロス計画は、実用衛星「エッサ」などの打ち上げにつながっています。

 しかし、昭和36年(1961年)4月12日には、最初の有人飛行を成功させ、乗り込んでいたガガーリンは、「地球は青かった」という名台詞とともに有名になっています。また、昭和41年(1966年)2月4日に月に無人探査機を軟着陸させるなど、アメリカに次々にショックを与えています。

 しかし、これらのショックは、アメリカのアポロ計画推進につながり、昭和44年(1969年)7月20日のアポロ11号による人類初の月面着陸成功につながっています。

 

「タイロス」から「ひまわり」へ

 アメリカが実用的な気象衛星「エッサ」を打ち上げると、その資料は日本にも提供されます。

 気象庁が、アメリカの気象衛星(「エッサ」など)の画像を受信し、日々の天気予報業務に使ったのは、昭和43年(1968年)8月からです。静止気象衛星「ひまわり」を打ち上げ、本格的に宇宙から観測を始める9年前の話です。

 アメリカの気象衛星の画像を使いはじめると、すぐに、これまで知られていなかったパターンの豪雨が見つかりました。昭和43年8月17日に発生した飛騨川豪雨、その6年後の昭和49年7月7日に発生した七夕豪雨のように、南北に二つの熱帯低気圧(台風)があるとき、その間に、この二つの熱帯低気圧を結ぶように、長大な帯状の雲が現れるときの豪雨です。

 宇宙からの観測で、大雨をもたらす雲の様子が詳細にわると、予報技術が飛躍的に向上しました。そして、昭和52年(1977年)7月14日に静止気象衛星「ひまわり1号」が打ち上げられ、その後も機能が進化した後継機が順次に打ち上げられています。

 平成26年10月7日に打ち上げられた「ひまわり8号」以降は、これまでの「ひまわり」に比べて格段に機能強化が図られており、タイトル画像にあるように、地球をカラーで観測するのは世界初です。

静止気象衛星だが静止しているわけではない

 人工衛星は高度が高くなると地球を周回する時間が長くなります。

 「スプートニク1号」の高度の平均は約600キロメートルで、周回する時間は96分ですが、高度が36000キロメートルまで高くなると、周回する時間は24時間にのびます。

 つまり、赤道上空の高度が36000キロメートルの人工衛星は、地球が一回転する時間と同じ時間で地球を周回しますので、地上から見上げると、いつも赤道上の同じ場所にいる人工衛星ということになります。このため、静止衛星と呼ばれているのですが、動いている衛星です。

 静止衛星は、「スプートニク1号」より、はるか遠くにある人工衛星です。

 「スプートニク1号」の頃は、衛星は飛行高度が低く、見えるかもしれないと多くの人が空を見上げて探しましたが、静止衛星は空を見上げてもわからないくらい遠くから、地球を見下ろして様々な観測を行っています。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2024年9月新刊『防災気象情報等で使われる100の用語』(近代消防社)という本を出版しました。

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