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いま「am/pm」の冷凍弁当があったなら ファミリーマートに吸収されて10年

渡辺広明コンビニジャーナリスト/流通アナリスト
(hiroshikato/Wikimedia Commonsより写真一部加工)

6月21日付配信記事で、創業40周年を迎えたミニストップの先進的な取り組みを紹介した。カーシェアなど時に早すぎた試みもあったが、「早すぎた先進性」を見せたコンビニという意味では、am/pmもそうかもしれない。

am/pmがファミリーマートに吸収合併され、法人が解散したのは10年前、2010年3月のことだった。もともとは、ガソリンスタンドへの集客を目的に、スタンド併設店として米国で興ったコンビニチェーンである。1990年に「エーエム・ピーエム・ジャパン」が設立された際も、共同石油(後のENEOS)がライセンスを取得する形でスタートし、やはりガソリンスタンドに併設される形でオープンした。1号店は横浜市の日吉本町で開業したが、東京・新富町にもかなり早くから店舗を構えていたと記憶している。当初、私はローソンに入社したばかりの新人店長で、新進気鋭のライバルを視察するため、新富町の店に行ったのだ。そこもガソリンスタンドに併設された店舗だった。

米国から輸入されたガソリンスタンド併設のスタイルは、日本ではうまくいかなかったのだろう。早々に方針転換され、都市部を中心にいわゆる「普通のコンビニ」の形で店舗が展開されていた。

2004年には外食大手のレインズ(のちのレックス・ホールディングス)傘下になったが、他チェーンとの競争もあり、買収話が何度か浮上した。最終的にはファミマが買収し、2010年に法人としてのエーエム・ピーエム・ジャパンは解散となった。その時点でおよそ1100店あったam/pmの店舗374店は閉店、残りはファミマへ看板を変えた。当時、私は日吉の1号店がファミリーマートへ変わる瞬間も視察していた。東急電鉄・横浜市営地下鉄「日吉駅」近くのファミリーマート日吉本町店がその店舗だ。

ampm1号店 現ファミリーマート日吉本町店 著者撮影
ampm1号店 現ファミリーマート日吉本町店 著者撮影

2000年代から電子マネー決済を取り入れていた「キャッシュレス」対応、あるいはコンビニの新形態として期待がかかる「無人コンビニ」に90年代末から注力するなど、am/pmの特筆すべき試みはいくつかある。だが、多くの読者に記憶されているのは「冷凍弁当を販売するコンビニ」としてのam/pmではないだろうか。

◆ダウンタウン起用のCMで訴求した点

当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったダウンタウンを起用したCMでは、「合成保存料ゼロ」や「添加物ゼロ」といった点がPRされていた。当時(もしかすると今も)、コンビニ弁当は身体に悪いというイメージが根強い中で、am/pmが先行する他チェーンに対抗するために訴求したのが、「健康」という点である。94年から販売されていた冷凍弁当「とれたてキッチン」もこうしたイメージにのっとり、ライバルたちが売る「コンビニ弁当」とは一線を画すアピールに成功していた。

来店客は、レジ脇に設置されたメニューパネルから、希望する弁当のカードを抜きとり、レジの店員に渡す。そして店員はレジ後ろに保管してある冷凍品をレンジ解凍、客に提供するというのが「とれたてキッチン」のシステムだった。ラインナップはおこめサンドやスパゲッティ、カレーと幅広い。06年にam/pmを取材した記事によれば、「ミートスパゲッティ」「こんがりチーズのシーフードカレー」「ジャージャー麺」が人気商品だったようだ(「デイリーポータルZ」記事「am/pm『とれたてキッチン』温める前の状態のものが見たい!」より。

同記事ではam/pmの担当者が「冷凍食品には加工食品のイメージが強く、当初は否定的な意見が多かった」という主旨の発言をしてもいる。これも時代を感じさせる証言だ。冷凍技術の進歩によって、今でこそ冷凍食品は「当たり前においしい」ものと認知されており、チェーン各社ともにPB商品を出して力をいれている。実際、セブンの「セブンプレミアム」の冷食は、08年の発売当初から18年までの10年間で、売上は5倍以上になった(「食品産業新聞」18年10月26日)。一方、am/pmが「とれたてキッチン」をはじめた25年ほど前にはまだ、冷食は「きちんとした食事が取れない時に、仕方なく」「おいしくない」というネガティブな印象が強かった。「健康的な弁当」と同時に「おいしい冷凍食品」という点でも、am/pmはコンビニにおける新たな価値観を訴求したといえよう。

そしていま「とれたてキッチン」があったならば、フードロスの観点からも強い訴求力があったと思う。昨年10月から「食品ロス削減推進法案」が施行されたことからも分かるように、日本の食品廃棄は社会問題になっている。2016年度の推計値では、食品ロス量は実に643万トン。日本人の胃袋を支えるコンビニ各社も取り組みに本腰を入れていて、セブンでは消費期限が近い食品に「nanacoで買えば5%を付与」のシールを貼り(エシカルプロジェクト)、ローソンは期限の近い食品の「見切り販売」を本部として容認。ファミマではクリスマスケーキなど季節商品の予約制やおでんの「煮過ぎ廃棄」を防ぐべく、注文ごとのレンジアップにしたりと、いった対策を講じている。

私もコンビニ店長時代、期限切れの牛乳を廃棄するため、パックの中身を流しに捨てながら胸を痛めた思い出がある。だからコンビニ各社がフードロス問題に取り組み始めたことは素直に喜ばしい。その上で、販売される弁当や食品がすべてam/pmの「とれたてキッチン」のような冷凍の形であれば、長期保存が可能になり、無駄になる食品はより少なくなるのでは……と想像するのだ。さらにいえば、コンビニの人手不足問題が顕在化しているいま、冷凍弁当が主流になれば、無人店舗に冷凍弁当が並び、客が自らレンジアップをして購入する、なんてスタイルも可能になるだろう。

◆コンビニと工場の「しがらみ」

なぜam/pmだけが冷凍食品を強く打ち出せたのか。逆に言えば、大手3社はなぜできなかったのか。それは、am/pmは後発のコンビニゆえに「しがらみ」がなかったからだと考える。

コンビニが売る弁当や食品には、それを作る取引先のベンダー工場がある。セブンでいえば、同社のチルド弁当やサンドイッチなどを担う「わらべや日洋ホールディングス」がこれに当たる。こういった、「ほぼ自社工場」として稼働するベンダーとの付き合いが各社ともにあるわけだが、そういう立場からすると、am/pmのように冷凍食品を前面に押し出すことは難しい。冷凍弁当と普通の弁当とが売り場で競合になり、利益相反になりかねないからだ。その点、後発で、かつ冷凍食品に振り切っていたam/pmは、ベンダー工場との付き合いが、いい意味で薄かったのではないだろうか。

ちなみに、冷凍弁当の取り組みはam/pmが先駆けというわけでもない。例えば、かつてはファミマでも冷凍弁当サービスを行なっている。取材に応じてくれた古参のファミマオーナーによれば、

「1980年ごろから90年前半までやっていたんじゃないでしょうか。レジの後ろに調理台があって、焼肉ピラフや甘口辛口カレーライス、メキシカンピラフ、エビピラフを売っていましたね。うちの地域は食堂営業の資格がないと保健所の販売許可が下りず、資格をとるのに手間がかかった記憶があります」

とのこと。資格ということは、冷凍弁当プラスひと手間の調理を行っていたということなのだろう。これはコンビニという形態には少々高いハードルだ。こういった手間、そして先述の「しがらみ」から、ファミマでの製造販売は終了したと予想される。そして今日に至るまで、am/pmのような「冷凍弁当」をアピールするコンビニは登場していない。

「なつかしのコンビニ」といったテーマでは、必ず名前の上がるam/pm。さらに掘り下げる余地はありそうだ。

コンビニジャーナリスト/流通アナリスト

渡辺広明 1967年生まれ、静岡県浜松市出身。コンビニの店長、バイヤーとして22年間、ポーラ・TBCのマーケッターとして7年間従事。商品開発760品の経験を活かし、現在 (株)やらまいかマーケティング 代表取締役として、顧問、商品開発コンサルとして多数参画。報道からバラエティまで幅広くメディアで活動中。フジテレビ「Live News a」レギュラーコメンテーター。 「ホンマでっか⁉︎TV」レギュラー評論家。全国で講演 新著「ニッポン経済の問題点を消費者目線で考えてみた」「コンビニを見たら日本経済が分かる」等も実施中。

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