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売れっ子芸人が寝る間もないほど忙しいのは当たり前じゃない! 芸能界の働き方改革は進むのか?

ラリー遠田作家・お笑い評論家

年末のお笑い界の一大イベント『M-1グランプリ』で優勝した芸人は、ほぼ例外なく売れっ子になり、爆発的に仕事が増えていく。M-1チャンピオンはスターへの階段を上ることが約束されているし、世間にもそれを期待されているようなところがある。

しかし、優勝したにもかかわらず、売れて忙しくなることを心配されている芸人がいる。それが昨年末の『M-1』で優勝した錦鯉の長谷川雅紀だ。不摂生で歯を9本も失っている長谷川は、50歳という年齢で「最年長優勝」の快挙を成し遂げた。しかし、年齢が年齢だけに、ハードスケジュールで体力が持つのかというのが心配されている。

相方の渡辺隆によると、長谷川がこの調子で元気に働いていると、今後、『M-1』で優勝した若手芸人がマネージャーから「長谷川さんもあんなに働いていたんだから」と言われて休みづらくなる可能性がある。そのため、これから『M-1』に出る芸人は、長谷川にあんまり一生懸命働いてほしくないのだという。

多忙で愚痴をこぼすニューヨーク

一昔前までの芸能界では、人気が出れば仕事が増えて、寝る間もないほど忙しくなるというのが当たり前だった。だが、最近では、世間の「働き方改革」の風潮を受けて、そういう芸能界の空気も少しずつ変わりつつある。お笑い界も例外ではない。

『M-1グランプリ』で2年連続決勝進出を果たし、テレビ出演も増えて勢いに乗っているニューヨークは、テレビなどでもしばしば「忙しすぎるのは嫌だ」「休みが欲しい」などと語っている。かつては、たとえ冗談でもこういうことを言うこと自体がはばかられるような風潮があったが、今は変わってきている。

人気のある芸人は、テレビなどのメディアの仕事と営業の仕事が続いて多忙を極めることになるものだが、吉本興業の芸人の場合、ここに常設の劇場の出番が加わるのでさらに劇的に忙しくなる。ニューヨークも吉本の芸人なので、今は相当厳しいスケジュールをこなしているはずだ。

「カジサック」ことキングコングの梶原雄太は、6月15日に公開したYouTube動画の中で、体調不良のために活動休止することを発表した。また、2021年の『キングオブコント』で優勝した空気階段の鈴木もぐらも、股関節の手術のために10月頃に1カ月ほど活動休止することを明かしている。

芸能人が体調不良のために休養することに関しては、事務所側も寛容になっているし、世間の人にも受け入れられている。その背景には新型コロナ流行の影響もあるだろう。今では一般企業や学校でも、少しでも発熱があったり、体調が悪いときには万が一に備えて無理をせずに休む、というのが一般的になっている。

コロナ禍のテレビでは、出演者の数が大幅に減らされたり、番組の顔であるはずのMCが陽性になって別のタレントが代役を務める、といった光景がしばしば見受けられた。そのような状況が続くことで、出演者側の心境にも変化があったかもしれない。

コロナ禍が明かした「代わりがいる」という事実

テレビタレントは、限られた出演枠を争って日々戦っている存在だ。たとえ思い込みであっても、「自分がここに出ているのは意味があることだ」「この仕事ができるのは自分しかいない」といった自信のようなものが、これまでは彼らを支えていた。

しかし、コロナ禍によってそれが崩れた。「自分がいなくなっても代わりはいる」という現実が突きつけられた。頭ではわかっていたことなのかもしれないが、その状況が目の前に現れたことで、否応なしに実感せざるを得なくなった。

それは、彼らにとって必ずしも悪いことではない。そもそも、多くの人の目線にさらされる過酷な現場に当たり前のように出続けていることが異常だったのだ。

芸人のような仕事は特に「好きでやっているんだから休みなんてなくてもいいでしょう」というふうに思われがちだ。しかし、仕事である限り、休みは必要である。テレビ業界で働くスタッフの労働環境は、ここ数年で劇的に改善されたと言われている。芸能人の働き方も一歩遅れて徐々に変わりつつあるし、変わるべきだと思う。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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