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J1初挑戦のFC町田ゼルビアに立ちはだかる「渋滞問題」。開幕戦に向けてクラブはどう対応してきたのか?

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
これまでのGスタでの最多入場者数は1万1918人。今季の開幕戦で記録を更新した。

 2月23日と24日、2024年のJ1リーグが開幕した。今季は東京ヴェルディとFC町田ゼルビアが昇格。これにFC東京を加えて、都内をホームタウンとする3クラブが、初めてトップリーグで顔を揃えることとなった。

 このうち、16年ぶりのJ1となる東京Vとは違った意味で注目を集めるのが、昨シーズンのJ2を圧倒的な強さで制し、クラブ史上初のJ1昇格を果たした町田である。オン・ザ・ピッチでは、1年で結果を残した黒田剛監督のサッカーが、どれだけJ1で通用するか。そしてオフ・ザ・ピッチでは、町田GIONスタジアム(以下、Gスタ)でJ1にふさわしい運営ができるのか──。

 とりわけ、Gスタからの復路のアクセスについては、以前からファンの間で懸念されていた。

 そして迎えた、ガンバ大阪を迎えての24日の開幕戦。それまでGスタでの最多記録だった1万1918人(8月12日vsジュビロ磐田)を大きく上回る1万3506人を記録したものの、試合後に帰宅困難者を生み出すアクシデントが発生した。同日の日刊スポーツWeb版から引用する。

この日は、試合後もバスに乗れず、なかなか帰れないサポーターが続出。バスに乗るために2時間待ちというサポーターのXでの投稿もみられ、待ちきれず歩いてチャレンジしたサポーターの「下山」との表現をする投稿もみられた。帰り道にも難所があり、日も暮れ、寒さも増す。かなりの難易度だったようだ。

 Gスタの最寄り駅は小田急線の鶴川駅で、試合日に出るシャトルバスで20分。徒歩となると1時間はかかる。しかしGスタがある野津田公園周辺は、車線が少ない上に渋滞が発生しやすく、試合後はシャトルバスが戻ってこられなくなる事態が頻発。それが最悪な形となってしまったのが24日の開幕戦であった。

「今回の渋滞は、これまでの予想をはるかに上回る状況でした。自治体や警察からも『予想困難だった』という話もありました」

 そう語るのは、町田の運営部兼広報部部長、岡田敏郎氏である。岡田氏によれば「3連休の中日で、唯一の晴れの日。しかも夕方の帰宅ラッシュ時で、周辺施設での大型イベントも重なった」ことが、予想を超える大渋滞につながったという。

Gスタでのシャトルバス発着所。J2時代も復路のバス待ちで長い行列ができていただけに改善が注目された。
Gスタでのシャトルバス発着所。J2時代も復路のバス待ちで長い行列ができていただけに改善が注目された。

■開幕前にクラブが積極的に進めた駐車場の確保

 J1で初めて迎える開幕戦を前に、クラブ側が何もしていなかったわけではない。むしろ入念な準備を続けていた。そのひとつが駐車場の確保。開幕1カ月前の1月24日、公式サイトが「akippa提携予約駐車場500台突破のお知らせ」というリリースを出している。

 アキッパ(akippa)とは、駐車場のシェアリングサービスを行う企業、および同名のアプリである。同社の代表取締役社長CEO、金谷元気氏に説明してもらおう。

「駐車場のオーナーであったり、あるいは空き地の所有者であったり、そういった個人の方が無料でアキッパに情報を掲載していただけます。それをアプリで見つけたアキッパの会員さんが、15分単位で駐車場として利用することができます。決済もアプリで行い、料金の半分を駐車場のオーナーさんにお支払いするというシステムです」

 アキッパと町田は2019年より提携しており、昨年までは100台の駐車場を確保していた。それがJ1仕様に対応するべく、駐車場の数を一気に5倍にまで引き上げることに成功したのである。

「アキッパは事前予約なので、駐車場を確保する人はそこに向かう。確保できない人は最初からバスを利用する。駐車場迷子は生まれず、渋滞緩和に一役買うのではないかと考えました」

 そう語るのは町田の渉外部部長、近藤安弘氏である。近藤氏によれば「駐車場500台突破」のリリースを受けて、町田のみならず他クラブのファン・サポーターからも、歓迎する反応がSNSでみられたという。そこに手応えを感じつつも、近藤氏はこう続ける。

「近隣の多摩や八王子には、アウトレットやショッピングセンター、アミューズメントパークがあります。スタジアム至近には、その多摩方面に抜ける道路があって、試合がなくても渋滞が起こりやすいという課題は残ります」

 結果として、その課題が今季の開幕戦で顕在化することとなった。

 ところでシャトルバスについては、どのような対策をクラブは講じていたのだろうか。特筆すべきは、鶴川駅からの有料バス(大人270円、小人140円)の他に、町田、多摩センター、南町田、淵野辺から無料バスを手配したこと。これに加えて試合後の分散退場を促すべく、今季はクラブOBをゲストに迎えてのアフターゲームショーをスタジアム内で行うという。こちらは岡田氏に説明してもらおう。

「去年のホーム最終戦(10月29日vsツエーゲン金沢)も1万人超えで、試合が終わったのが16時という渋滞が起こりやすい時間帯でした。実はナイトゲームよりもデイゲームのほうが交通量は多くなるので、バスを増やしても戻ってこられないことがあるんです。それでもホーム最終戦では問題なく、皆さんにお帰りいただけました」

 その上で「開幕戦は蓋を開けてみないとわからないですが、やれる準備はすべてやります」。岡田氏と近藤氏の言葉からは、いずれもクラブとしての強い覚悟が感じられた。

試合終了後のGスタ。関係者によればナイトゲームよりもデイゲームのほうが渋滞は起こりやすいという。
試合終了後のGスタ。関係者によればナイトゲームよりもデイゲームのほうが渋滞は起こりやすいという。

■駐車場を確保しても渋滞緩和ならず。次の打つ手は?

 しかし結果として、試合後の渋滞は期待していたほど解消されず。夕暮れ時の寒空の下、復路のバスを待つ長蛇の列ができてしまった。

 アキッパとのコラボで500台の駐車場を確保したものの、それが渋滞緩和に効果があったかといえば、現時点では疑問符を付けざるを得ない。自家用車500台の駐車場を設けるのと、50人乗りのバスを円滑に回していくのとでは、どちらが効果的なのだろうか? そのあたりは、しっかり検証しながら修正を加えていく必要がある。

 開幕戦当日、Gスタを訪れていた友人に、復路の無料バスの評価を聞いた。ちなみに彼女は、町田サポーターでもガンバサポーターでもない、中立的な立場のサッカーファンである。

「南町田行きのバスに乗車しましたが、待ち時間はほとんどなし。渋滞で到着まで1時間くらい乗車しましたが、観光バスだったので座って寝ているうちに到着しました。ただし、帰りの無料バスは1便しかなかったんですよ。もしも乗車できなかったら行列に並ぶ気がしなかったので、在来線のバス停まで歩いたと思います」

 ちなみにクラブに確認したところ、南町田行きのバスは整理券制のため、整理券を取得して運行時間に乗車場所へ行けば、確実に乗れるシステムになっているそうだ。

 こうした状況を踏まえて3月1日、クラブは「【3/9(土)鹿島戦】復路直行バス運行改善について」というリリースを出している。

①復路直行バス(鶴川・町田・多摩センター・淵野辺駅行き)運行状況をクラブ公式HPにて掲載
②当該情報を、FC町田ゼルビア公式SNSの「X」にて拡散
③一部バスにGPSを搭載しバス運行状況の把握
④一部バスの台数増車
※特にG大阪戦にて一番お待たせをした町田駅便を増車します

 開幕戦で明らかになった問題点を踏まえ、1週間以内で運行改善を発表したことは評価したい。これらに加えて検討を求めたいのが、Gスタでの通信環境の改善。友人はこう指摘する。

「ガンバサポの友人と連絡をとっていたんですが、返信がきたのは試合終了後、だいぶ経ってからでした。渋滞はともかく電波は改善できるので、早々に対応してほしいですね。スタジアムWi-Fiの手配でもいいと思います」

 この件についても、クラブ側に確認してみた。すると「昨年から行政や施設側と改善に向けて動き出している」とのこと。前出の岡田氏は語る。

「実は開幕戦でも、一部Wi-Fi環境について改善して臨んだのですが、まだまだ足りていませんでした。皆様にご負担をおかけしてしまい、申し訳なく思っております。早ければ今年の夏くらいから、少しずつ改善できると聞いております。ひとつずつ改善できるよう、行政や関係諸団体と連携してまいります」

 次のホームゲームは、明日3月9日。首位の鹿島アントラーズをGスタに迎える。一方の町田は、現在3位。試合内容と結果もさることながら、試合後の円滑な観客移送にも注目が集まる。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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