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20年ぶりの代表戦を広島の新スタで開催する意義(ワールドカップ・アジア2次予選 日本5-0シリア)

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
ワールドカップ・アジア2次予選の最終戦となったシリア戦は試合会場が注目を集めた。

 6月11日にエディオンピースウイング広島(Eピース)で行われた、FIFIAワールドカップ・アジア2次予選の日本代表vsシリア代表。試合は日本がオウンゴールを含む5得点でシリアを圧倒した。さっそく、写真とともに振り返ることにしたい。

今年2月にオープンしたEピースで開催された日本代表の公式戦。広島で代表戦が行われたのは、2004年以来。
今年2月にオープンしたEピースで開催された日本代表の公式戦。広島で代表戦が行われたのは、2004年以来。

祖国の国旗を振るシリア代表のサポーター。北朝鮮の結果次第では、彼らにも最終予選進出のチャンスがある。
祖国の国旗を振るシリア代表のサポーター。北朝鮮の結果次第では、彼らにも最終予選進出のチャンスがある。

サンフレッチェ広島時代から新スタジアムを待ち望んでいた森保一監督(左)。国歌斉唱の際に思わず涙ぐむ。
サンフレッチェ広島時代から新スタジアムを待ち望んでいた森保一監督(左)。国歌斉唱の際に思わず涙ぐむ。

日本のスタメン。前列左から久保、中村、南野、遠藤、堂安。後列左から上田、町田、大迫、飯倉、田中、冨安。
日本のスタメン。前列左から久保、中村、南野、遠藤、堂安。後列左から上田、町田、大迫、飯倉、田中、冨安。

序盤からペースを握った日本。抜け出した中村敬斗のラストパスに、久保建英が左足で狙うがシュートは枠外。
序盤からペースを握った日本。抜け出した中村敬斗のラストパスに、久保建英が左足で狙うがシュートは枠外。

試合が動いたのは13分。南野拓実のパスを受けた中村が、左サイドをドリブルで持ち込んでクロスを供給。
試合が動いたのは13分。南野拓実のパスを受けた中村が、左サイドをドリブルで持ち込んでクロスを供給。

これを上田綺世が高い打点でとらえ、そのままネットを突き刺して日本が先制する。上田は代表12ゴール目。
これを上田綺世が高い打点でとらえ、そのままネットを突き刺して日本が先制する。上田は代表12ゴール目。

日本の追加点は19分、ペナルティエリア手前から堂安律が意表を突くシュートを放ち、ゴール右下に決まる。
日本の追加点は19分、ペナルティエリア手前から堂安律が意表を突くシュートを放ち、ゴール右下に決まる。

さらに22分、久保のスルーパスが相手のOGを誘って3点目。シリアにとってはダメージの残る失点となった。
さらに22分、久保のスルーパスが相手のOGを誘って3点目。シリアにとってはダメージの残る失点となった。

この日の日本は守備陣も積極的に攻撃参加。しかしシリアも持ち直し、その後は膠着した試合展開が続いた。
この日の日本は守備陣も積極的に攻撃参加。しかしシリアも持ち直し、その後は膠着した試合展開が続いた。

3バックでスタートした日本は、後半からメンバーを入れ替えて4バックに。途中出場の相馬勇紀はPKを獲得。
3バックでスタートした日本は、後半からメンバーを入れ替えて4バックに。途中出場の相馬勇紀はPKを獲得。

自らキッカーを志願し、日本の4点目を決めた相馬。このゴールで停滞気味だったゲームは再び熱を帯びる。
自らキッカーを志願し、日本の4点目を決めた相馬。このゴールで停滞気味だったゲームは再び熱を帯びる。

76分には余裕のGK替え。出場機会を得た谷晃生は、FC町田ゼルビアにとっての初のA代表選手となった。
76分には余裕のGK替え。出場機会を得た谷晃生は、FC町田ゼルビアにとっての初のA代表選手となった。

最後にスタンドを湧かせたのはベテラン南野。85分、右足から放たれた弾道は一直線にゴール右下に収まる。
最後にスタンドを湧かせたのはベテラン南野。85分、右足から放たれた弾道は一直線にゴール右下に収まる。

ミャンマー戦に続いて5-0で圧勝した日本。試合後のフラッシュインタビューでは、地元枠で川村拓夢も登場。
ミャンマー戦に続いて5-0で圧勝した日本。試合後のフラッシュインタビューでは、地元枠で川村拓夢も登場。

6戦全勝、24得点の無失点で日本は2次予選を1位通過。裏の試合で勝利した北朝鮮が2位で通過となった。
6戦全勝、24得点の無失点で日本は2次予選を1位通過。裏の試合で勝利した北朝鮮が2位で通過となった。

 すでに最終予選進出は決まっており、シリアとの実力差も明白。この試合の一番の見どころが、Eピースだったことに異論を挟む人はいないと思う。

 広島市の中心近くに今年オープンした、このサッカー専用スタジアムについては、すでに各方面で報じられているので多くを語る必要はあるまい。ここで注目したいのが、この日の公式入場者数が2万6650人だったことだ。

 地方都市で代表戦が行われる場合、まず重視されるのがキャパシティ。その上で、最近は球技専用スタジアムが優先されるようになった。その代表格はパナソニックスタジアム吹田で、キャパシティは3万9694人。それに対して、Eピースは2万8500人である。

 ドル箱イベントである代表戦を開催する場合、3万人がひとつの目安となっている。Eピースの建設に携わった担当者は、昨年にインタビューした際に「もちろん日本代表の試合も開催したいと考えています」とした上で、「けれども、その前に『常時満員にしていきたい』という目標が私たちにはあります」と続けた。

「常時満員」の具体的なイメージは、広島カープである。2023年の1試合平均入場者数は2万8540人。まさにEピースのキャパシティとぴったり重なる。「カープのほうがサンフレッチェよりも集客力がある」というのが、広島での常識であり、当地の人口とサッカー人気を考慮するなら、3万人以上という選択肢はあり得なかった。

 かくして、年に一度あるかないかのイベントよりも「普段づかい」を優先して設計されたEピース。それだけに、今回の代表戦開催は予期せぬ朗報だったに違いない。どういう経緯で決まったのかは不明だが、目先のチケット収入ではなく「広島の新スタで開催する意義」を優先させたJFAの決断は、高く評価されてしかるべきだろう。

 この日は首都圏をはじめ、県外からも多くのファンがEピースに訪れていた。また地上波で放映されたことで、街中のサッカー専用スタジアムのインパクトが全国レベルで伝わったことだろう。Eピースでの代表戦開催は、国内のスポーツインフラ建設に、今後さまざまな影響を及ぼすように思えてならない。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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