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「中国が情報隠蔽」「米国の政治家は恥知らず」……新型コロナウイルス対応めぐり米中衝突

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
中国の華春瑩氏(左/中国外務省HPより)と米国のポンペオ氏(米国務省HPより)

 米国と中国が新型コロナウイルスへの対応についても確執を深めている。感染が深刻化する米国が、感染収束をアピールする中国の発表する感染者数などを「過少」と批判、中国側は「デマによる中傷」と反発し、対立は先鋭化している。

◇無症状感染者の扱い

 中国側の発表によると、同国での感染者数は4月3日現在、8万2804人、無症状1027人、死者数3331人。一方、米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、米国では24万5213人が感染し、5983人が亡くなっている。米国での感染状況がより深刻化している。

 そもそも、中国の新型コロナウイルス感染に関する統計は、各方面から疑問がもたれてきた。その例が、検査で陽性となったものの肺炎などの症状がない「無症状感染者」の扱いだ。

 世界保健機関(WHO)は感染者の定義を「症状の有無にかかわらず、検査で陽性になった場合は感染者としてカウントする」と規定している。だが、中国では、無症状感染者を隔離対象とするものの、周囲に感染させる可能性が比較的低いとして感染者数に加えてこなかった。無症状感染者に症状が出て初めて「感染者」としてカウントしたというわけだ。

 中国のこの統計方法に対しては「感染者数を少なく見せることにつながる」「地方政府が『感染者数ゼロ』の目標を達成するために感染者を無症状感染者にすり替えている」などの批判や疑問の声が中国の内外で相次いでいた。

 これを裏付けるかのように、香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは3月22日、中国政府の機密情報として、中国には無症状感染者が2月末までに約4万3000人以上いると報じた。したがって無症状感染者の数を感染者数にそのまま足すと「12万5000人以上」という計算になる。

 また、河南省衛生健康委員会が29日、省内の住民1人が無症状感染者と接触して感染したと報告したこともあり、中国の専門家も「症状のある感染者も無症状感染者も、濃厚接触者に感染させる確率に大差はない」と公言するようになった。

 こうした事態を受け、李克強首相は「現在、中国の大半の地域で『感染者数ゼロ』の報告が数日続いている。ただ感染の統計データは偽りがなく、正確でなければならない」と求めたうえで「『感染者数ゼロ』を報告するための隠蔽や報告漏れは決してあってはならない」と戒めた。李首相が無症状の感染者数も公表する考えを示したことで、国家衛生健康委員会は4月1日、無症状感染者数を発表するに至り、その数を「1367人」とした。

◇米中の応酬

 それでも、米ブルームバーグ通信は4月1日、米情報当局による機密報告書の内容として、中国がこれまで新型コロナウイルスの感染例や死者数をいずれも過少報告し、感染の広がりの実態を隠蔽していたと報じた。当局者らは内容の詳細には言及していないが、中国が意図的に不正確な数字を公表したと批判している。トランプ米大統領も1日、中国当局が公表する数字を「少なめのようだ」と指摘した。

 ポンペオ米国務長官は、中国と他の国々に感染拡大について透明であるよう要請した。ポンペオ氏は「問題の深刻さを隠し、情報の共有を遅らせた。特に最初にウイルスが出現してから数週間がそうだ。米国の専門家の援助の申し出をブロックした」と繰り返し非難した。

 こうした米国側の批判に対して、中国共産党機関紙・人民日報系「環球時報」の胡錫進編集長は2日、中国版ツイッター「微博」上で「(米側は)米国や他の西側諸国での死者急増という実態から注意をそらそうと試みている」と指摘。「“中国はいかなる偽データも作ることができる”というナンセンスなことは言わないでほしい。こんにちの中国では、世界中が重要な局面にいるなかで重要なデータが偽造される可能性はまったくない」と強調した。

 華春瑩・外務省報道局長も2日の記者会見で、ブルームバーグ報道に対して、長文のコメントを準備して臨み、「中国はオープンで、透明性があり、責任があり、最善を尽くしている」と自国の対応を評価した。

 ポンペオ長官らが「中国が情報を故意に隠した」などと発言していると指摘し、「米国の政治家の言葉や行為は本当に恥知らずだ。非常に不道徳で非常に非人道的だ」と強く批判。そのうえで「直ちに仕事の優先順位と方向性を調整し、全力で疫病対策に取り組み、米国民の生命と健康を守ることにあらゆる努力を払うべきだ」と訴えた。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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