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森保ジャパンはなぜ叩かれるのか?代表監督に求められる「スクラップ」

小宮良之スポーツライター・小説家
高須力

 1月27日、埼玉スタジアム。カタールワールドカップアジア最終予選は佳境にもかかわらず、観客は11753人だった。コロナ禍のせいもあるが、寒空に熱気は失われていた。

 中国が頭を抱えるほど弱かったのはあるだろう。プレッシングは思い付き、ボールをつなげる意志を感じさせたが、トラップ&キックの基本精度が低すぎ、まともに敵陣に入れなかった。体力面は高いレベルにあったが、それもサッカー選手として鍛えられたものではなく、筋骨隆々の体躯を持て余していた。気負い過ぎて暴力的になる「カンフーサッカー」を捨てたことだけが褒められるチームだった。

 日本はその相手に序盤のPKで先制したが、追加点をなかなか奪えていない。ボールは回しても緩慢で、テンポが変わらなかった。スローインやCKのセットプレーで決定機も得たが、優勢のわりには決定打を欠いた。

 2-0と勝利したことは一つの成果だろう。しかし冷え込んだ空気のまま、試合に火を起こせなかった。次のサウジアラビア、オーストラリア戦、さらにワールドカップで勝ち上がることを想定した場合、不安は募った――。

 森保監督に求められる決断とは?

サウジ戦も同じ先発か

 2月1日、日本は埼玉スタジアムでサウジと対戦することになっている。

 現在、サウジはグループ首位。もし日本を下すことができたら、本大会出場が決まる。ただ敗れた場合、一気に混戦に飲み込まれる。直近1-0で勝利したオマーン戦では苦しんでいる。相手の網に悉くかかって、しばしば逆襲を受けた。攻守に「個」に頼ったところが多く、戦術的にはやや前時代的。ただ、カウンター攻撃は強力で、オマーン戦も左サイドを攻め上がった後のサイドチェンジから、一人抜き去ってのクロスのこぼれに雪崩れ込んでネットを揺らした。

 警戒すべき相手だが、日本は実力的に十分に凌駕できる相手だ。

 スタメンは中国戦と同じになる可能性が高いだろう。慎重な森保一監督は、システムも含めて博打を打つことはない。「勝ったチームは動かさない」は定石だが、その采配は意固地に見えるほど硬直化しつつある。例えば長友佑都の不調は明らかで、中山雄太を起用するのは健全な選択に思えるが…。

 慎重さを越えた強情さ、頑固さ、臆病さというのか、采配の硬直化が代表の不人気につながりつつある。

ザックジャパンと似た成長曲線

 もっとも、監督という立場は特異なもので、代表監督ともなれば「失敗できない」という重圧を一身に受ける。神経の図太さ、耐性の強さが性質的に欠かせず、簡単に務まる仕事ではない。軽率であってはならず、執拗なほどの粘りも必要で、感覚的にチームを動かす采配を振れなくなるのは必然だろう。

 森保監督は、ネットで叩かれるような愚鈍な指導者ではない。事実、ロシアワールドカップ後、多くの主力が抜けたチームを誰にもできない手腕でまとめ上げ、これ以上ないリスタートを実現している。その戦いを熟成させ、翌年のアジアカップでは決勝で敗れたものの、悪くない引継ぎで”新代表”を作った。その後も、鎌田大地や久保建英を取り込み、チームを強くしてきた。

 ところが、3年目から守りに入った選択が目立ち始め、人材の見極めが鈍り、停滞期に入ってしまった。4年目は完全に成長が止まり、コロナ禍と重なったのは不幸とは言え、チームの活力が消えた。4-3-3を取り入れ、どうにか成績的には立て直したが、あくまで守りを固めて安定させただけで、革新には程遠い。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20211111-00267415

 そして5年目の今、ワールドカップシーズンで辛辣な批判に晒されている。

 この流れは、アルベルト・ザッケローニが率いた代表に近い。

 ザックジャパンも、立ち上げはアルゼンチンや韓国に快勝を収めるなど完璧だった。2年目のアジアカップでも、決勝を劇的なゴールで制した。しかし3、4年目で停滞し、若手を抜擢しようとするも、結局は主力を外せなかった。「自分たちらしさ」という”語録”を生む状況を許し、Jリーグ得点王の佐藤寿人、大久保嘉人を取り込めず、チームを失速させた。

指揮官は序列を壊せるか

 森保監督とザッケローニは、人柄もよく似ている。温厚で真面目で一徹なところがあって責任感も強いが、一方で慎重すぎ、個性が出にくく、実は好みが激しい。とくに森保監督は許せない言動があるようで、突然、選ばなくなった選手に関しては、それに当てはまってしまう。なぜか選ばれるという選手は”子飼い感”が強く、基準を満たしているのだろう。

 ザッケローニもそうだったが、森保監督の中にも「序列」が強くある。それがキャリアのある選手を外せず、奥川雅也(アルミニア・ビーレフェルト)、伊藤洋輝(シュトゥットガルト)など気鋭選手の「代表未招集」につながっている。「真剣勝負でいきなりの招集は難しい」という意見もあるが、真剣勝負で招集もできないなら、テストマッチで起用しても真剣勝負までの到達に時間がかかり過ぎる。

 選手はコンディションや成長の曲線がある。タイミング次第で、チームに爆発力を与えてくれる。指揮官は現在進行形でのプレー具合を見極める必要があって、序列に縛られるべきではない。

 スペイン代表のルイス・エンリケ監督は、18歳のペドリをワールドカップ予選の山場で招集し、いきなり抜擢している。そしてEURO2020では、先発レギュラーで使い、その名声を高めさせた。また、17歳のガビもネーションズリーグ準決勝でいきなりピッチに送り出し、ワールドカップ出場を決める一戦でも先発させて力を引き出しているのだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/komiyayoshiyuki/20211202-00269416

序列構造をスクラップし、再構築できない集団は停滞する

 序列は一つの基準で、尊重されるべき事項だが、監督こそ、それを飛び越え、壊す人事をしなければならない。そうやって成果を上げてこそ、一人の指揮官として認められる。その果断さと慧眼によって、人々の称賛を受ける。何より挑戦的姿勢がなかったら、チームという集団はエネルギーを失う。

「いい人に見えるのに論理性を欠いた側面が見え、大胆な抜擢はしないのに好き嫌いが透けて見える」

 それが不人気の正体だろう。イビチャ・オシムのように気性は激しく、厳しい言葉を吐きながらも、ロジカルな考察で人情家というギャップが、優劣は別にして単純に人気を得られるのだ。

 もっとも、代表監督は人気商売であってはいけない。森保監督がロジカルな決断でチームを率い、サッカーの醍醐味を表現しながら勝利を手繰り寄せるなら――。どんな批判を浴びようが、胸を張って指揮を取るべきだ。

 中国戦の平均世帯視聴率は16・2%と高かった。人気はなくても、関心は高い。戦い方次第で巻き返せる。

 サウジ戦の采配が注目される。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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