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森保監督、「不人気」の正体とは?批判を浴びるスペイン代表監督に見習うべき流儀

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

序列への不信感

 日本代表を率いる森保一監督は、選手起用に頑固さを見せる。”石橋を叩いて渡る”という慎重さかもしれないし、”お前らに何がわかる”という傲慢さにも映るし、”他に打つ手が見つからない”という迷いが硬直化を生んでいるだけにも見える。とにかく、選手起用が頑なだ。

「序列」

 選手起用ではそれが重んじられている。

 その基準は、今まで森保ジャパンで何をしてきたか。もっと言えば、森保監督自身との関わりの密度、と言っても過言ではないだろう。自分との関わりを基本にした「序列」が、メンバー選びに強く出ている。チーム発足当時は仕方なかったが、それ以降もサンフレッチェ広島で指導した選手を優先に召集してきたのは最たる例だ。

 もちろん、これは監督として珍しい選択ではない。

 世界中でも、コネのある選手を優先させる例はいくらでもある。むしろ人間だけに、その付き合いをすべて平等に、というのは難しい。監督と選手、特徴を知り尽くした同士のアドバンテージもあるだろう。ある程度は、許容範囲だ。

 しかし、森保監督はそこの”情愛”が強い。一方で、ちょっとやんちゃな選手に対する扱いは厳し過ぎるし、実力を引き出せていないように映る。すべてひっくるめ、監督の裁量ではあるのだが…。

「序列」

 それに対するこだわりが不信感を生んでいる。

 それが、森保監督の不人気の正体かもしれない。

スペイン代表監督ルイス・エンリケのケース

 監督が自分の見る目を信じ、目指すべきプレーで選手と戦う、というのは正当な判断だろう。監督は絶対的なリーダー。責任を負うだけに、任されるべき裁量もあるはずだ。

 しかしチームを率いるだけに、競争の中に結果と平等という価値が盛り込まれなければならない。成果が出ないなら、不平不満が募るし、それはファンやメディアなどの嫌悪も含まれる。無視して続けるなら、集団のマネジメントは難しくなる。

 それこそ、今の森保ジャパンで起きていることだ。

 実はスペイン代表監督であるルイス・エンリケも、メディアやファンの集中砲火的な批判も受けていた。人気は最低だった。彼の場合、「素人のお前らに何が分かる」と言わんばかりで、森保監督以上に不遜な態度で火に油を注いでいる。しかし彼は自分の目をとことん信じ、EURO2004はベスト4、ネーションズリーグ準優勝、カタールワールドカップ出場決定と最低限の結果を出しつつある。

 何より、L・エンリケには批判されていた選手起用で正当性があった。

起用の正当性

 例えば主力だった「セルヒオ・ラモス外し」は、完全にレアル・マドリードの記者とファンの反発を買ったが、当のセルヒオ・ラモスが100%でプレーできる状況ではなかった。それは彼が現在まで満足にピッチに立っていないことでも明白だろう。

 温情を捨て、ベテランを排除した格好だ。

 また、L・エンリケはトップチームでの出場が10試合にも満たない、17歳MFガビを代表に召集し、あまつさえ先発させている。当然、知ったかぶりの記者に「17歳のほとんど経験のない選手を招集するなんてどうかしている。序列が壊れる」と批判を浴びた。しかし、L・エンリケは「自分は自分の目でガビを見続けてきた」と断固としてはねつけ、信じてピッチに送り出し、今や欠かせない選手とした。

 これぞ、代表監督の仕事だ。

 各クラブでの実績や代表での記録などをポイント化し、選手を選び、順番に先発させる。それは代表監督の仕事ではない。そんな「序列」は集団の力を弱くするだけだ。

 メディアやファンが求めるベテランを断固として切り捨てる。メディアやファンが躊躇する若手選手を毅然として抜擢し、一つの結果を出す。その姿こそ、頼もしいリーダー像だ。

 スペインはL・エンリケ色の強い代表になっているが、それはそれで一つの組織と言えるだろう。

森保ジャパンはアップデートできるのか

 森保監督自身は否定しているが、「序列」の考え方が強すぎる。ロシアワールドカップ後、発足時のチームは素晴らしかったが、それをアップデートに失敗したと言える。”今まで自分のために働いてくれたか”という物差しが邪魔しているのだ。

 例えば、オーストラリア戦で大して成果を上げたわけでもない4-3-3に固執し、オマーン戦では守田英正が欠場を余儀なくされると、ここ数試合、まったく貢献できていなかった柴崎岳を再び使っている。その結果、空回りの前半を過ごした。発足時から主力として使ってきた柴崎に対する幻想を捨てきれなかったのだ。

 そして大迫勇也、長友佑都がどれだけ、プレー精度が低くなっても、まるで我慢比べのように変えない。南野拓実のようにゴールに近いポジションでプレーすることで力が発揮できる選手を、サイドで起用して浪費。一方で、古橋亨梧のように旬のストライカーをベンチに置き、チームの得点力不足を招き、宝の持ち腐れも同然だ。

 少なくとも、東京五輪の監督を務めていた経験を生かすべきだろう。直近のオマーン戦、久保建英はケガで招集外だったが、堂安律、三笘薫、上田綺世、前田大然、中山雄太を先発で送り出せないか?個人的には、鹿島アントラーズで売り出し中の荒木遼太郎やサガン鳥栖でサブに甘んじている中野伸哉のような若手を独自の視点で抜擢するなら、チーム活性化も含めて采配に期待するのだが…。

 このままでは、不人気という人気が収まらない。

 森保監督は選手選考で「序列」を崩せるか。世界サッカーは、スクラップ&ビルドの非情さで強くなっている。停滞は後退だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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