新紙幣(渋沢栄一他)は意匠登録済
別件の調べ物をしていて、2024年に発行予定の新紙幣のデザインが意匠登録されていたことを知りました(1万円札(渋沢栄一)(タイトル画像参照)、5千円札(津田梅子)、千円札(北里柴三郎))。権利者は独立行政法人国立印刷局、意匠に係る物品は「紙幣」です。意匠の創作者は田中利典という方です(国立印刷局の職員の方だと思われます)。
国立印刷局および造幣局を権利者として検索してみましたが、紙幣・貨幣のデザインそのものが意匠登録されているのはこの3件だけです。いずれも、2020年2月28日に出願され、2020年3月30日に登録されています(早期審査が請求されています)。また、新規性の喪失の例外(意匠法4条2項)も請求されています。
「紙幣」が意匠権の対象になる「物品」にあたるとはちょっと意外な気もしますが、定義上は、意匠法上の物品とは、有体物たる動産で、固有の形態を有し、市場において流通するものとされているので、紙幣を物品としても間違ってはいません(弁理士試験の短答の引っかけ問題に使われそうな気がします)。
しかし、そもそも、この意匠と類似の物品を製造・譲渡等すると意匠権侵害の話以前に刑法に定められた通貨偽造の罪に該当してしまいます。通貨偽造罪は、意匠権侵害罪(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金)より重い(しかも未遂も罰則対象)ので、わざわざ意匠登録する意味はあるのでしょうか?
意匠法では、間接侵害規定(38条)において、意匠権を侵害する物品の生産のみに用いる物品やプログラムの製造・譲渡も意匠権侵害とみなす等、様々な規定がされていますので、たとえば、偽札印刷のためのプログラムを作成しただけでも罪に問えるという点で意匠登録のメリットはあるのかもしれません(通貨偽造の未遂罪よりも立証が容易である可能性があります)。
また、通貨の「偽造」(一見本物と区別がつかない偽札の作成)ではなく、「模造」(本物とまぎらわしい物の作成)への対応であることも考えられます。通貨及証券模造取締法の刑罰は1月以上3年以下の禁固か1~2万円の罰金と比較的軽いので、意匠権により抑止力を増すことには意味があるでしょう。
たとえば、(故赤瀬川原平氏ではないですが)パロディとして新紙幣に類似の印刷物を作ったりすると、通貨及証券模造取締法違反に加えて、意匠権侵害にも問われる可能性があるいうことになります。