MRJ初飛行、トヨタ独走、リニア開通、そして「中部経済」の憂鬱
「YS11」以来、53年ぶりに国産旅客機が飛び立ちました。三菱航空機が開発を進めてきた国産リージョナルジェット旅客機「MRJ」が11月11日に初飛行を行なったというニュースは日本のみならず、海外でも大きく報道されました。
私は愛知県小牧市に近いところに住んでおり、地元のテレビや新聞では最大級の取扱い。子どもたちも興奮してこのニュースを観ていました。私個人も、「YS11」の開発に携わった方が親族にいたり、現在「MRJ」の開発等に関わっている親族や、家族を抱えている知人がたくさんおり、とても感慨深いニュースとなりました。これまでかなり遠回りをしてきたことを内外から聞いており、三菱航空機の社長が「成功、それも大成功に近いと考えている」と記者会見で口にした言葉に、ホッとしました。
いっぽう、私は経営コンサルタントですから、「MRJ」の経済的インパクトに関心を寄せています。「MRJ」の部品点数は、自動車の30倍の100万点にもおよび、産業の裾野が広い。地元では「自動車産業に次ぐ巨大産業の誕生」と歓迎モードです。今から深刻な人手不足になることも懸念され、地元の高校や専門学校における人材育成、研修機関による職業訓練のニーズなど、その波及効果は極めて大きいと言えるでしょう。
いっぽう、中部地方といえば、何と言っても自動車産業。排ガス不正問題で経営が悪化するVW(フォルクスワーゲン)を販売台数(1~9月)で抜き去り、多くの人が想像していたとおり世界販売において、そして収益力において、トヨタは独走態勢に入りました。新興国の販売が伸びないなど懸念材料は多いですが、懸念材料を並べたら、それは他のメーカーも同じ。よほどのことがない限り、世界一を安定飛行するに違いありません。「トヨタがくしゃみをすれば、中部経済は風邪をひく」とまで言われるほど地元への影響力は大きいので、これも大変な好材料です。
さらに11月13日、「オフィス賃料、名古屋、大阪に迫る」というニュースも飛び込んできました。かつて「5,000円」ほどあった、大阪中心部と名古屋中心部の月額平均募集賃料の差が「324円」にまで縮まり、名古屋のオフィス市況が活況している裏付けデータとなっています。大規模開発が続く名古屋駅周辺は、リニアが開通することによる期待感が先行。2年前に完成した「グランフロント大阪」がいまだ満室にならないのに比べ、10月に完成したばかりの「大名古屋ビルヂング」はすでに満室。来年以降に完成予定の他大型物件もすでに満室になる予定で、先述した平均賃料も数年以内に「大阪を抜く」とも言われます。こちらも順風満帆の印象です。
ただ、私は営業マーケティングコンサルタントですので、このような外部環境の変化にはとても敏感に反応します。企業経営をするために必要な「経営インフラ」は多層であり、営業もまた重要なインフラストラクチャー。営業力・販売力というのは、当たり前のことを当たり前にやる「習慣」の集積でできています。この「営業インフラ」の上に商品が乗っていると、多少商品が売れなかったり、外部環境が変化しても経営が揺らぐことがありません。
しかし「ものづくり」のメッカである中部地方は「営業=押し売り」「営業=下品」「営業=悪」的な発想が横行しています。
「そもそも営業なんてものは、お客様が必要でないものも売りつけるような下品な行為であり、品質の高い物さえ作れば自然と商品は売れていくのだ」
という強烈なバイアスにかかっている人が多い地区でもあります。ですから中部地区の営業は総じて心理的ステイタスが低い。私はここ数年、年に150回ペースでセミナーや講演を実施しています。もちろん地元名古屋でも積極的に開催しますが、他地区と比較しても営業のモチベーションは突出して高くない。「売れないのは商品のせい」「売れないのは増税のせい」「売れないのは円高のせい」など、他責するクセがついており、先述したような「当たり前のことを当たり前にやる習慣」を身につけている営業が少ないのです。
MRJやトヨタやリニアによって、中部経済は今後も活況していくでしょう。しかし何らかの問題で商品そのものの魅力が落ちたり、外部環境の風向きが変わったりするだけで、中部の経済基盤が揺らぐ懸念もあります。各企業において、営業や販売のインフラが整備されておらず、筋肉質な経営をしていないから、と私は考えています。