Yahoo!ニュース

【医療大麻】「海外では当たり前」というのは本当か?

市川衛医療の「翻訳家」
大麻イメージ(写真:アフロ)

10月25日、元女優の高樹沙耶さん(本名 益戸育江さん)が大麻を隠し持っていたとして大麻取締法違反の疑いで逮捕されました。

報道では、ご本人は「私のものではない」と否認されているということですので、今後、その真偽が検証されていくでしょう。

医療大麻 効果は「証明」されているか?

高樹沙耶さんと大麻の関わりとして注目されるのが、今年行われた参議院選挙の際に「医療大麻」の解禁を訴えて立候補したことです。

必要とされる皆様のために、「医療大麻」の研究を進め・早期導入を!認知症予防・がん・慢性関節炎・緑内障など250の疾患に有効と証明され、アメリカやヨーロッパでは医療現場で大きな成果が誕生しています。

出典:高樹沙耶さん選挙公報より

「医療大麻」とは、大麻や大麻に含まれる成分を、病気の治療や予防のために使うことを指すようです。

日本では大麻は麻薬として大麻取締法によって所持が禁じられており、医療応用を目的とした研究もできません。

一方海外では、様々な病気への治療効果があるのではないか?と研究が行われているのは確かなようです。

では高樹さんの主張のように、効果や安全性が「証明」されているのでしょうか?

まず、大麻に関して引き合いに出されることの多い、アメリカの状況について調べてみました。

医療大麻 アメリカの現状

参考にしたのは、アメリカで医薬品の規制を行っているFDA(アメリカ食品医薬品局)のホームページです。

アメリカでの医療大麻の現状や、FDAとしての立場についてQ&A形式で解説しています。

以下、その一部を記します。

言うまでもありませんが、すべてアメリカにおける状況を前提としたものですので、日本のものと混同はしないでください。(和訳・太字は筆者)

Q)医療大麻は、一部の医療従事者によって、どのように使われているのでしょうか?

FDAは、大麻もしくは大麻由来の成分を含む製品が、様々な病気の治療に使われていることを認識しています。例えば「エイズによる衰弱」「てんかん」「神経因性疼痛」「多発性硬化症による痙縮」「がんや、がんの化学療法による吐き気」などです。

しかし現在まで、FDAは天然の大麻や、その成分を含む製品を承認したことはありません。それらの製品の安全性や有効性は、どのような用途であれ、確かめられたことはありません。

アメリカでは確かに、一部の病気の治療に医療大麻が用いられているようです。しかし一方で、国としては医療大麻を承認していません。

(厳密にいえば、大麻に含まれるTHCという物質を科学的に合成した成分を含む医薬品は、一部承認しています)

アメリカは日本と異なり、州ごとに定める法令に強い力があります。国としては規制していても、州が「医療用大麻は使用可能」と決めればそちらが優先されることもあります。

つまりアメリカの現状をまとめると、国としては認めていないけれど、各州の判断で「利用しても良い」ところもあるということです。

2016年6月時点で、アメリカの50州のうち25州で、医療目的の大麻の利用が認められているとされています。

Q)医療大麻は安全ですか?

FDAは天然の大麻およびその成分を含むどのような製品も承認していません。

これは、病気への有効性や安全性が確かめられた製品は存在しないと言うことを意味しています。

今後、医療大麻の有効性や安全性を吟味するための、適切な臨床試験が行われなければなりません。

FDAは医療大麻の利用に向けた科学的調査を含め、安全で効果があり、質の高い製品を適切に届けようとする企業の活動を手助けしていきます。

これは大麻に限った話ではありませんが、薬物には全て効果と副作用があります。過去には「効果があり、大丈夫そうだから」と多くの人に投与された結果、思わぬ副作用による痛ましい被害が出る「薬害」が繰り返されました。

そのため現在では、医薬品として承認されるためには、実際に人間に投与して安全性を確かめる厳密な臨床試験を行い、そのうえで効果があるかどうかを調べる仕組みが作られています。

こうした厳密なプロセスを踏まなければ、効果や安全性について「証明されている」と言うことは出来ません。

FDAは、医療大麻に慎重な姿勢を崩さない一方で、複数の行政機関と連携し、研究を希望する製薬企業には審査のうえで必要な大麻を供給する仕組みを作り、臨床試験をサポートしているということです。

医療大麻 今後の展開は

医療大麻の規制について、アメリカの現状を簡単に見てみました。

まとめると、実際に使う事例は増えているものの、効果や安全性に関しては研究途上というのが現状のようです。

とはいえ近いうちに、痛みや吐き気などの症状に対して、医薬品として有効性・安全性が証明された製品が出てくるかもしれません。

そうなった場合、日本でその医薬品を必要とする患者さんがいるにも関わらず、「法律で使うことができない」ということになれば、新たな「ドラッグラグ」として議論になることが考えられます。

医療大麻をいますぐ解禁、というのは余りにも暴論ですが、海外で真剣に研究が進んでいる現状をどのように評価するのか?いまから考えておく必要はありそうです。

================

コメント欄でご指摘があり、内容を一部修正しました。(10月31日)

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

市川衛の最近の記事