夏ではないのに「とこなつ」?不思議な菓銘に包まれた備中白小豆餡とロマンチックな立山の雪
富山県高岡市にお店を構える和菓子屋「大野屋」さんは、創業1838年。富山湾や内陸の自然に囲まれた風情溢れる街にて、変わらぬ美味しさと時代と共に変化させていく美味しさ双方を提供なさるお店です。
大野屋さんは、高岡ラムネという非常に可愛らしい和のラムネでも有名なのですが、今回はあえて明治より製造販売されている銘菓「とこなつ」をご紹介。
とこなつ、と申しましても、常夏ではないのです。
大粒の飴玉のように、ころんと綺麗なまんまるの風貌。一年を通して溶けることなく、太一と雪の色彩を楽しませてくれる立山連峰の細雪のような和三盆がたっぷりと、そしてふんわりとまぶされています。
きめ細やかな和三盆は、儚く溶けていくものの、それゆえに和三盆特有のまろやかさやコクだけではなく、ひんやりと舌先で散っていく感覚までもアクセントに。そして中の餡玉がまた、こちらのとこなつだからこそな代物。厳選された日本三大小豆のひとつとして名高い、備中白小豆の小倉餡を使用した餡玉なのです。
小倉餡といいますのは、こし餡に小豆(こちらの場合は白小豆)の蜜煮を加えたもの。こし餡特有のなめらかさの中に、ほろりとした豆そのものの食感を楽しむことができます。
また、白小豆は一般的な小豆に比べ、渋みが少なく非常に繊細。したがって、砂糖味が強すぎても風味が損なわれ、弱すぎても輪郭がぼやけてしまうという難点も。なのですが、こちらのとこなつは、和三盆と求肥の味わいを完全に白小豆の味方につけ、三位一体のエレガントな銘菓に仕上げられています。
小柄ではありますが、ひとつ口にしたあとは、肩の力を抜いて深く深呼吸したくなるようなお菓子です。
立山の山肌に自生する、生命力みなぎる青々とした草木と青空、そして澄んだ雪が織り成す美しくもどこか不思議な景観は、神々しさをも感じるといいます。
とこなつ、という菓銘は、万葉集の
立山に降りおける雪を とこなつに
見れども飽かず 神からならし
という大伴家持が詠んだ歌から。とこなつは、かわらなでしこの異名。かわらなでしこはふんわりと可憐な花で、大伴家持はこの花が大好きだったそう。大好きな花と、同じくらい大好きで常に目を楽しませてくれる立山を飾る神々しい雪化粧とを重ね合わせたロマンチックな歌ですね。
歌の意味を知ると、シンプルな見た目のとこなつが、より輝いて見えるような気がしました。
とこなつはオンラインストアでの購入も可能です。