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上司との「飲みにケーション」より「筋トレ」選ぶZ世代に伝えたいこと

横山信弘経営コラムニスト
飲みにケーションより自分の健康を優先(提供:shutterstock)

「筋トレしたいんで、飲みには行きません」

入社2年目、24歳の部下にハッキリ言われて、ショックを受けた。そんな話を、ある部長から聞いた。

「去年までは、コロナの影響で飲みに行けなかったから……」

コロナ5類移行後、同期の部長と飲みに行ったとき、

「この前、若い子と飲みに行ったんだけど、やっぱり飲みにケーションはいいなあ! 盛り上がったよ」

そのように言われ、この部長も部下に声をかけたいと思ったのだ。だから、まさか「筋トレ」を理由に断られるとは、想像もしていなかった。

「いつなら、飲みに行ける?」

と聞いても、

「週に4回はジムに行ってますし、難しいです」

とツレナイ返事が返ってきた。それどころか、

「お酒は飲みませんし、糖質制限もしているので、飲みのお誘いは基本的に断ってるんです」

と、そもそも「飲みにケーション」する気はないと言われる始末。部長は、呆然とするしかなかった。

■諦めない部長にかけられた、思いもかけない一言

しかし、部長は諦めない。

「私は君のような若い子と、もっとコミュニケーションしたいんだよ」

と言って、部下を説得しようとした。しかし、

「私も部長と、もっとコミュニケーションをとりたいです。なので、1on1ミーティングを定期的にお願いします」

と切り返されてしまう。

「以前、面談をしてもらいましたが、ここ半年は会議だけです。1ヵ月に1回ぐらい、1on1ミーティングを設定できませんか」

「もちろん、かまわないけど」

20歳以上年下の部下にそう言われ、苦笑いするしかなかった。

だが、部長はまだ諦めない。会議や面談よりも、もっとカジュアルな場で話したほうが、相手は心を開くだろうと思い込んでいるからだ。

「たまに、ランチでもしようか」

飲みにケーションがダメなら、ランチならいいだろう。昼休みに筋トレはしないはずだ。ところが、

「私は自分で弁当を作って、持ってきてます。大丈夫です」

と断られてしまう。

昔は部下たちを引き連れてランチへ行ったものだが、最近はめっきりそれがなくなった。

■なぜ最近の若者は上司とランチしたがらないのか?

自身の意見をしっかりと主張する若者が増えている。上司からの指示や誘いに対しても、

「けっこうです」

「私はいいです」

と笑顔で断ってくる。この部長だけではない。上司から言われたら

「ハイか、イエスか、喜んで」

を返すことが基本、と教えられた私(54歳)も経験がある。私自身も、部下を食事に誘う際、礼儀正しく断られることが増えてきた。

私が部下たちに慕われていない、というのであれば仕方がない。しかし多くの経営者、ミドルマネジャーたちも、このことについて共感してくれる。

「部下とランチへ出かけた時期が懐かしい」

と言う上司は多いのだ。

理由は「働き方改革」の影響が大きいのではないか。大企業は2019年から。中小企業は翌年の2020年から、新たな残業の上限規制ルールが適用された。

「一緒にランチしたいですが、どうしても今日じゅうに、ここまで仕上げたいのです」

と言われることが増えた。コンビニで買ったパンや、家から持ってきた弁当を食べながらお昼の時間も仕事をする若者が増えた。時間外労働を減らすことが目的だ。

「上司や同僚と交流するのも大事だぞ」

「少なくとも昼休みぐらいは、休憩したらどうか」

と言いたいが、

「はやく仕事を覚えたいので、申し訳ありませんが」

と言われると、無理強いもできない。このように「飲みにケーション」はおろか、ランチでさえ若者と一緒にできない上司が急増している。

■「あり方」は不変だが、「やり方」は多様化

「上司と食事するのがイヤ」

「飲みにケーションなんて古い」

と感じる若者は、それほど多くない。それどころか、

「あのときは、たまたま忙しかっただけで、余裕があるときはもちろん先輩や上司とランチに行きたい」

「私は筋トレが趣味だからお断りしてますが、飲みニケーションが好きな人は積極的に楽しんでほしい」

と、理解を示す若者のほうが多い。

だから、

「リアルに顔を合わせないとダメ」

「食事やお酒を飲みながら語り合うことが大事」

と決めつけられると、拒絶反応を示す若者は少なくないだろう。

先日、ある社長が、こう言っていた。

「私が20代前半のとき、社長のカバン持ちだった。約3年間衣食住をともにしていた」

「若いうちにああいう経験をしないと、育たない」

私よりも4歳年下の社長なのに、こんな考え方をしていた。さすがに、その考えは古いだろうと私でさえ思った。

いずれにしても、ランチや飲みでコミュニケーションをとったほうが、グッと距離が近づく、という先入観はなくしたほうがいい。

多様性の時代だ。直接顔を合わせなくても、オンラインミーティングやチャットを使っても心を通わせることができると信じているし、実践している若者は多いのだから。

こうした背景から見て、何がわかるか? 若者たちとベテラン世代の価値観は異なるとしても、それは「やり方」だけ、ということだ。「あり方」については理解されるはずなので、多様化する「やり方」に私たちがどう合わせていくか、が課題なのだ。

ただ、最後にこれだけは書きたい。

歩み寄りが必要だ。上司から誘われたら、たまにランチぐらいは付き合うといい。先輩や上司をいい気分にさせるのも、仕事の生産性を上げるために重要なテクニックなのだから。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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