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コスタリカに快勝!高倉ジャパン、国内初勝利からみえたもの(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
試合は熊本地震復興支援マッチとして行われた(c)松原渓

4月9日(日曜日)、熊本県民総合運動公園陸上競技場で行われたキリンチャレンジカップで、なでしこジャパンはコスタリカ女子代表と対戦。

現なでしこジャパンの国内初お披露目となったこの試合で、日本は3-0で勝利した。

先発を飾ったのは、以下の11人だ。

GK 池田咲紀子、DFは左から宇津木瑠美、市瀬菜々、熊谷紗希、高木ひかり。ダブルボランチに中里優と阪口夢穂が入り、左サイドに長谷川唯、右サイドに中島依美。横山久美と田中美南が2トップを組んだ。市瀬はA代表初出場となった。

コスタリカのキックオフで始まったこの試合、相手がボールを下げると同時に、横山が相手DFに猛然とアプローチを仕掛ける。その動きに2トップを組む田中が続く形で、日本は最前線から守備のスイッチを入れた。

【「攻撃のための守備」は機能したか】

この試合で、なでしこジャパンのテーマの一つでもあった「ボールの奪いどころをグラウンドで選手同士が一致させる」ことについては、前半はアプローチのタイミングやスピードにバラつきが見られ、イメージ通りに奪えるシーンは多いとは言えなかった。逆に、前半15分には、2トップに合わせて中盤がラインを上げたところで最終ラインが下がったままになり、間延びした中盤をうまく使われてピンチを招いた。

しかし、日本はタイミングが合わなくとも、粘り強くプレッシャーをかけ続けることでコスタリカのミスを誘発し、流れを引き寄せることに成功。ところが、攻撃に転じると、縦に攻め急いでパスミスやトラップミスを重ね、引き寄せた流れをあっさり手放してしまった。

前半の戦いについて、高倉監督は以下のように分析した。

「下(グラウンド)が(雨の影響で)スリッピーなところがありましたし、芝が深いところもあって、前からの(守備の)チャレンジは少し気後れしていると感じました。(攻撃では)細かいコントロールミスやパスミスが多かったので、ボールを失うことを怖がってプレーしているところもありました」(高倉監督)

そんな中、流れを変えたのは横山のゴールだ。

ゴールの起点となったのは、右サイドバックの高木ひかり。この試合で、高木は常に高い位置を取り、攻撃的な姿勢を見せた。

23分、高木が右サイドのタッチラインギリギリで中島のパスを受けると、中にドリブルで切れ込み、横山に預けると、ゴール前に抜ける動きでワンツーを要求。その高木の動きに相手DFが2人釣られたところで、横山がターンして1人をかわし、ペナルティーエリアの外からワンステップで左足を振り抜いた。鮮やかな軌道を描いたシュートは相手GKが伸ばした手をすり抜け、ゴール右上に突き刺さった。

【課題を残したラインコントロール】

横山のゴールで落ち着きを取り戻した日本は、攻撃のリズムに変化を加えながら、引き続き、前線からの守備にも注力した。

横山が相手に寄せて中のコースを切り、縦に出たボールを長谷川が鋭い動き出しでカットした30分の場面は、狙い通りの守備がハマった場面だ。

ダブルボランチのバランスの良さも、日本の流れを加速させた。

この試合でダブルボランチを組んだ阪口と中里は、所属する日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)でもボランチを組む。

「中里がボールを奪い、阪口が散らす」という役割分担が明確で、呼吸はピッタリだ。ここぞという場面で阪口が攻撃参加するタイミングを、中里は心得ている。

また、左サイドの長谷川と中里の連携や、阪口から田中への縦パスにも、ベレーザのホットラインが活きていた。

しかし、守備では、最終ラインからシンプルにロングボールを放り込んでくるコスタリカに対し、なかなか高いラインを保つことができずにいた。

その理由について、左サイドハーフの長谷川は以下のように話した。

「相手のボールの回し方を見て、相手の6番(右サイドバック)の選手のところに自分がいけたら良かったのですが、(横山)久美さんがプレッシャーに行く状況になってしまいました」(長谷川)

コスタリカは攻撃時にどちらかのサイドが上がって3バックになることが多く、日本はトップの横山と田中が2人で相手3人を見ることに。そこで、コスタリカのディフェンスラインは常に1人が余る形になり、そのギャップを利用して前線のFWに積極的にロングボールを入れてきた。

コスタリカのロングボールの精度がそれほど高くなく、阪口や熊谷が鋭い出足で奪えていたために大事には至らなったが、もし相手のロングボールの質が高く、ターゲットになるFWが駆け引きに長けた力のある選手の場合、失点に直結する可能性がある。

状況に応じて4バックや3バックなど、システムを変えてくるチームに対してマークをどう受け渡すのかも、今後に向けた課題である。

【試合を支配した後半】

しかし、流れが悪い中でも、日本が失点しそうな気配はなかった。

ディフェンスラインでは、熊谷とセンターバックを組み、A代表初出場を飾った市瀬が素晴らしい安定感を見せた。

市瀬は、高倉ジャパンの守備構築を担う大部由美ヘッドコーチの徹底したラインコントロールの指導を、 U-15日本女子代表の時から6年以上にわたって 実践してきた豊富な経験と実績を持つ。

市瀬は19歳なので、コスタリカ戦の先発メンバーの中では唯一の10代だったが、初出場のプレッシャーをものともせず、中央を抜く縦パスも何本か成功させた。熊谷とのコンビネーションは、長年組んできたかのように馴染んでいた。

また、3月のアルガルベカップに続き、A代表で2試合目の出場となったGK池田も、ピッチを広く使ったパス回しに参加した。

池田は元フィールドプレーヤーで、足元の技術の高さを活かした正確なキックと状況判断の良さが持ち味だ。メンタル面の波がなく、コツコツ積み上げられる誠実な性格も、GKとしての強みである。これまで、高倉ジャパンは山根恵里奈と山下杏也加の2人が正GKの座を争ってきたが、これで競争はさらに激しくなった。

前半を1-0で折り返したハーフタイムに、高倉監督は攻守においてさらなるチャレンジを要求して、

「こんな試合では(震災から立ち上がろうとしている)熊本の皆さんに勇気を与えられない」

と、活を入れた。

また、ハーフタイムに中島と中里を下げて、右サイドハーフに籾木結花、ボランチに隅田凜を投入。隅田はA代表初出場である。

21歳の若き2人の投入で、日本の攻撃はさらに活性化された。ピッチに立った後半開始早々には、右サイドで隅田と籾木の縦の連携からチャンスを作った。

さらに、63分には宇津木を下げて、佐々木繭が左サイドバックに入った。

日本にとって、この試合最大のピンチは65分に訪れた。

日本の高いディフェンスラインの裏を狙われ、一本のロングボールでFWメリッサ・エレラが抜け出した。この場面では、GK池田が的確にコースを切りながら飛び出し、エレラのシュートをブロックしたが、あまりにもアッサリと裏を取られてしまった。

一瞬のスピードやリーチの長さは、国内リーグのそれとは明らかに違うことを、改めて実感させられる場面であった。

こういった状況に、どう対応していくべきか。GK池田は次のように話した。

「高いラインを保ってコンパクトに守備をする上で、あのスペースはどうしても空いてしまうので、蹴られることが分かった瞬間に早くラインを下げさせることと、私が後ろから声をかけて、ディフェンスが行くのか、私が行くのかということを早くジャッジをして、修正していきたいです」(池田)

69分には横山を下げて、FW上野真実が入った。そして、A代表初出場を飾った上野は、わずか5分で得点に結びつくプレーを見せてくれた。

74分、相手DFの死角に入って左サイドの裏のスペースに抜け出した上野が、長谷川の縦パスにオフサイドギリギリで抜け出す。上野が左サイドからゴール前に入れた絶妙のクロスは、相手GKの前でワンバウンドするライナー性のものだったが、田中が飛び込んでうまく合わせて2-0とリードを広げた。

このゴールを決めた直後、田中は吠えるように天に向かって両手を突き上げた。昨年のなでしこリーグ得点王でありながら、高倉ジャパンでまだゴールのなかった田中は、ゴールに飢えていた。

試合後、田中は、

「ゴールが獲れてホッとしました。今日、獲れなかったら焦る一方なので…本当はあと2点ぐらい決めなければいけなかったんですが」(田中)

と、表情を再び引き締めた。

さらに、82分には長谷川が左サイドから入れたクロスにファーサイドから走り込んだ籾木が、記念すべき自身の21歳の誕生日にA代表初ゴールを飾り、3-0と試合を決定づけた。

直後の83分には長谷川が下がり、FW 大矢歩がA代表初出場。85分には、田中が下がり、MF猶本光が投入された。

6つの交代枠をフルに使いながら最後までペースを落とすことなく、後半だけで、前半の2倍にあたる12本のシュートを打った日本が、コスタリカに3-0で快勝した。

【手にした収穫と浮き彫りになった課題】

日本は、この試合で3−0で勝利したものの、そのスコアとは対照的に、いくつかの課題も与えられた。

まず、無失点で試合を終えたことは収穫である。GK 池田は、1ヶ月前のアルガルベカップからのチームの成長について、こう話した。

「一番危ないところをしっかり全員で守ろうという意識が高まったと思います」(池田)

コスタリカのアメリア・バルベルデ監督は、キープレーヤーのMFシルレイ・クルスのポジションを試合中に何度か変更して状況打開を図ったが、最終的に日本がクルスに許したのは、わずかシュート1本だった。

また、この試合でA代表初出場を飾った市瀬、隅田、上野、大矢の4人が、それぞれに積極的なプレーを披露したことは、チームに新たな刺激を与えた。3つのゴールも含めて、既存戦力とのコンビネーションで面白い攻撃がいくつか見られた。競争力の高まりは、チームの底上げにつながる。

「代表に呼んだ選手には、常に横一線だと伝えています。先発だろうが途中出場だろうが役割は変わらず、なでしこジャパンの一員として持っているものをすべて出し切って戦うということ。本人たちもその自覚を持って、気持ちを前面に出して戦ってくれたと思いますし、日頃、リーグで見ている技術的なものや判断の良さは、大矢も隅田も市瀬も、十分に発揮してくれたと思います」(高倉監督)

彼女たちの活躍を支えたのは、エースナンバーを背負う阪口であり、ディフェンスリーダーの熊谷であり、経験を伝えられる宇津木である。

一方、高い位置からプレッシャーをかける守備の完成度を高めていくことが、なでしこジャパンにとって、引き続き解決するべき課題となる。さらに今後は、相手のシステムの変化に対応する柔軟性も求められる。

2019年のフランスワールドカップ、2020年東京オリンピックに向けて、なでしこジャパンの進化は続く。

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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