“世界をちょっとよくする”パティスリーが11月中旬オープン予定。パティシエが語る思いとは【富山市】
小学生の頃から「パティシエになりたい」と周囲に話していた松井和馬さん(以降、かずさん)は、その夢を叶え、さらにパティスリー開業という次のステップに向けて進んでいます。
2024年11月中旬、富山市稲荷元町にオープン予定のパティスリー「pont de rêves(ポン・ド・レーヴ)」。市内で神出鬼没のパフェ屋さんとして活動していたかずさんは、現在、店舗オープンに向けて準備の真っ最中。店舗の開店資金を集めるために行ったクラウドファンディングでは、目標金額1,000,000円に対し、県内外の170人から1,255,500円もの支援が集まりました。
石川県金沢市ご出身で、東京の製菓専門学校を卒業したかずさんが、なぜ富山でパティシエとして働き、自分の店をオープンするに至ったのか。その経緯と想いをうかがうと、ポン・ド・レーヴに足をはこぶ意味と価値を深く理解することができました。
3年後を見据えた選択が導いた、パティシエとしてのキャリア
講師陣が豪華で実習が豊富に行われることに魅力を感じ、東京・中野にある「織田製菓専門学校」に進学、卒業したかずさん。一度は東京で就職しましたが、厳しい職場環境の中で、長く続けられるイメージがつかず、地元金沢に戻り就職し直しました。
金沢のパティスリーとカフェで経験を積んでいた頃、富山に新しいレストランがオープンすることを知り、「次はレストランでの経験を積みたい」と考え富山へ。しかし、オープンスタッフとしてジョインしたそのレストランは、わずか4ヶ月で閉店してしまうなど、パティシエとしての道のりは決して平坦ではありませんでした。
それでも、置かれた状況を受け入れながら転職を重ね、富山市民なら知っている方も多い「ムッシュジー」や「ANAクラウンプラザホテル富山」、「ダブルツリーbyヒルトン富山」などで経験を積み、自信と実績を築いていきました。
転職回数が多いことを、ここまで前向きに受け入れ、自信へと変え、次の目標に向かう原動力としている人に、私はこれまで出会ったことがありません。どのようなマインドがかずさんを導いているのか気になりたずねてみると、「常に3年後をイメージして考えています」と、強い眼差しで語ってくださいました。
その理由をさらに聞いてみると、「長い目で見て、投資した分がきちんと自分に返ってくる選択はどれだろう?と考える癖があるんです。例えば、最初の東京での仕事をあのまま続けていたら、厳しい環境で生活や心が安定しないまま過ごして、3年後の自分はどうなっていたか。それを考えたとき、一度地元に戻ってしっかりと態勢を整え、お菓子作りを学ぶことが自分にとって最善の選択だと思いました。」
このような判断軸を大切にしながら、カフェ、工場、ホテルといった様々な現場を経験したかずさんに、大きなターニングポイントが訪れます。それが、パフェ作りとの出会いでした。
「自分のやりたいことは企業の中にはない」帽子パフェの誕生と、独立の決断
上市町にあるカフェに転職したかずさんは、そこで初めてパフェ作りに挑戦。それまでランチ提供を中心に営業していたカフェで、お店のメンバーとアイデアを出しあい、くろもじの香りを取り入れるなど地元の食材を活かし「人とは違うものを作りたい」というかずさんの想いが反映されたパフェが完成します。
「ビアグラスの上にいろんなパーツを乗せた“帽子パフェ”は、ここで生まれました。このときの経験が今の自分のスタイルの原点です」と振り返ります。写真映えし、ちょっと意外性のある食材を使ったパフェは、最初こそあまり注目されませんでしたが、メディアに取り上げられるなど少しずつ話題となっていきました。
パフェの提供が軌道に乗り始めた頃、事業整理の一環でそのカフェが閉店することに。そのとき感じたことは「自分は雇われていてはダメなんだ。自分のやりたいことは企業の中にはない」ということ。どれだけいいものや自分が作りたいものを手がけていても、雇われている限り、突然終わりが来るという現実に直面しました。
これを機に、かずさんは次の職場でさらに技術を磨きながら、起業の準備を進めていきました。
共感を、純度100%の思いに換えて。 進み出した店舗オープンの計画
「1人では事業は成り立たないと思っています。しかし、人の手を借りて他の色が混ざると濁ってしまい、自分のやりたいことを純度100%に保つことはできません。その中で、自分の思いややりたいことに共感してくれて、一緒にやりたいと思ってくれる人が増えれば、純度を保ったまま、やれることの規模や幅を大きくしていけると思います」と話すかずさん。
そんな思いから、開店資金の調達も兼ねて行ったクラウドファンディングでは、かずさんのこれまでのSNSでの発信やパフェ屋さんとしての活動を通じて思いに賛同した人々、ネット上でたまたまかずさんの活動を目にして共感した人々から支援が集まり目標金額を大幅に達成して完走しました。
店舗の内装を仕上げたり、クラウドファンディングのリターンの招待券を発送したりと、現在は着実にオープン準備が進められています。
11月中旬 富山市内にオープン予定!パティスリー「pont de rêves」
「パティシエの仕事はお菓子を作ることではなく、お菓子を作ったその先で社会貢献すること」と言う姿勢に揺るぎはありません。11月中旬頃にオープンを控えているポン・ド・レーヴでは、「お菓子を食べることで世界をちょっとよくできる仕掛けをしていきたい」と話します。
「ゴミやフードロスが極力少なくなるようにすれば、お客さんがお菓子を食べながら、知らず知らずのうちに社会貢献できます。何かのきっかけでその事実を知ったとき、少しでも社会問題を意識してもらえたらと思います。もちろん、地元の食材を使うなど、地域への貢献も行なっていきたいです」と構想を語ります。
「北陸三県は、スイーツに対するアンテナを高く張っている人が多い」と話し、そんな中で、「たまには別のチャンネルを受信して、貧困や環境などの社会問題について考える時間があってもいいのではないでしょうか」と、富山をはじめ北陸圏から訪れるであろうお客さんへメッセージを贈りました。
お店は、1階がテイクアウトショップ、2階はオープンキッチンのイートインスペースとして、週末限定の夜カフェのような営業を計画しています。各フロアで雰囲気をがらりと変えて、これまで力を入れて取り組んできたパフェをはじめ、ケーキなども提供する予定です。かずさん自らが店頭に立ち、スイーツに込める思いを直接伝えてくれるとのことで、期待が膨らみます。
今回は思いにフォーカスしてお伝えしましたが、記事内でご紹介した画像の通り、かずさんの作るスイーツは艶やかな見た目が美しく、とってもキャッチー。そんなおしゃれスイーツには地元の農家さんと直接取引したくろもじや桃を取り入れる予定で、パフェ1個の価格は2,000円台前半を見込んでいます。「きちんと美味しく食べられるものを提供することを前提に、将来的にはウニやホタルイカ、白海老をアクセントに使った富山らしいスイーツにも挑戦してみたい」と意気込みを語りました。ポン・ド・レーヴがオープンした際には、再びお店の様子やスイーツについてご紹介できることをとても楽しみにしています。
この記事では、取材ライターの岩井ななが休日に行きたくなる富山市内のショップやイベントをご紹介しています。今後の情報発信もお楽しみに!