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「禁煙が辛い」なら運動すればいいかも

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 筆者もかつて喫煙者だったので少しはわかるが、禁煙というのはなかなか難しいものだ。しばらく吸わないでいても、いつの間にか再び手を伸ばしてしまう。禁煙を続け、再喫煙を防ぐためにいったいどうすればいいのだろうか。

ヨガをして瞑想するのもいい

 1つのヒントは、身体を動かす、運動をする、ということだ。運動が、ニコチンによる禁断症状を緩和し、タバコを吸いたくなる気持ちを抑える効果があることはよく知られている。

 この効果に関する14論文を比較したシステマティックレビュー(※1)では、12論文で喫煙願望やニコチン離脱症状に対し、運動がプラスに作用するという結果が出ている。残りの2論文は差が見られなかった。

 タバコに対する欲求は、運動中に急速に減り、運動後50分まで減少し続けたという。4論文では、運動後の効果は2〜3倍とし、離脱症状も軽減されたようだ。ただ、運動によって気を紛らわすというわけではなく、あくまで禁煙治療の補助として軽めの運動がいいのではないかという。

 一方、同じ運動と禁煙効果に関する20論文を比較したメタアナリシス(※2)によれば、運動の種類によっても禁煙継続に影響を与えることが示唆された。

 この比較研究によると、ヨガにはある程度の効果があるようだ。瞑想(メディテーション)をともなうヨガは心理面にも作用して効果を発揮するのではないか、カウンセリングとヨガを併用するのもいいかもしれない、とこのメタアナリシス論文の研究者は推奨している。

 一方、エアロビクスなどの有酸素運動、筋力トレーニング、その両方を組み合わせたエクササイズの効果についてははっきりせず、身体活動の効果もそれほどの効果はないという結果になっている。ただ、比較した論文の12/19でバイアスのリスクがあり、運動の頻度やインターバルなども複雑に影響するので一概に効果を評価できないとも述べている。

禁煙で体重が増えるのは健康なせい

 いずれにせよ、最近も運動がニコチンによる禁断症状を緩和するという研究が数多く発表されているのは事実だ。運動は禁煙に挑んだ人のQOL(Quality of Life)を改善し(※3)、有酸素運動をすれば長期(12週間)の禁煙継続にも効果がある(※4)。

 また、前出のメタアナリシス研究で推奨されたヨガは女性に効果があるようだ。米国で男女(女性55%、平均46歳)227人で調査した研究(※5)によれば、男女ともにヨガによる禁煙セラピーに意欲的で、特に禁煙による体重増加を気にする若い世代の女性に効果があったという。

 多少の肥満よりも運動するほうがずっと健康にいいことはわかっている(※6)が、タバコを止めると胃腸の調子も良くなり食欲も出て体重が増える傾向が出てくるのは事実だ。ニコチンによる禁断症状でついつい口寂しくなり、間食が多くなったりし、これも体重増加の原因になる。

 だが、喫煙者は内臓脂肪型の肥満になりやすい。これは心血管疾患の原因などにもなるのだから、禁煙したほうがずっといいのは確かだ。

 体重増加は禁煙のせいではない。適度な運動をし、食欲が増した分を消費するのが正しい。運動をすれば、話題の腸内細菌叢も活発になり、身体が正常な働きをするようになる(※7)。

 ただ、なぜ運動がニコチンの禁断症状を緩和するのか、そのメカニズムの解明は進んでいない。英国のセント・ジョージズ大学などの研究者は、ニコチン依存マウスを使い、車輪運動をさせて脳内を調べてみたという(※8)。

 すると、運動したマウスでは、脳の海馬でニコチン性の受容体(α7nAChR)の活性が上がっていることがわかった。つまり身体を動かすことで、タバコではなく運動による脳への刺激が起き、それがニコチンによる禁断症状を緩和させているというわけだ。

 喫煙していた頃は、どんなに寒くても近所のコンビニまでタバコ1箱を買うために出かけ、風邪を引いたりした。懐かしくも愚かしい思い出だが今の季節、禁煙に運動が効果的とはいえ、外へ出てジョギングやサイクリングなどをしようとするときには注意が必要だ。

 米国のメイヨー・クリニック(Mayo Clinic)のスポーツ医学の専門医は、まず天候を調べ、暖かい服装をして手足を冷やさないようにし、十分な水分補給をし、発汗したらすぐに室内など暖かい場所へ入ることが大切という。防寒に注意しつつ、外へ出て冷たく美味しい空気を吸い込んだほうが、タバコを買うための外出よりずっと気持ちがいいだろう。

※1:Adrian H. Taylor, et al., "The acute effects of exercise on cigarette cravings, withdrawal symptoms, affect and smoking behaviour: a systematic review." Addiction, Vol.102, Issue4, 534-543, 2007

※2:Thaniya Klinsophon, et al., "Effect of exercise type on smoking cessation: a meta-analysis of randomized controlled trials." BMC, Vol.10: 442, 2017

※3:Helen Keyworth, et al., "Wheel running during chronic nicotine exposure is protective against mecamylamine-precipitated withdrawal and up-regulates hippocampal α7 nACh receptors in mice." British Journal of Pharmacology, DOI:10.1111/bph.14068, 2017

※4:Erika Litvin Bloom, et al., "Quality of life after quitting smoking and initiating aerobic exercise." Psychology, Health & Medicine, Vol.22, Issue9, 2017

※5:Ana M. Abrantes, et al., "Acute Effects of Aerobic Exercise on Affect and Smoking Craving in the Weeks Before and After a Cessation Attempt." Nicotine & Tobacco Research, doi.org/10.1093/ntr/ntx104, 2017

※6:Beth C. Bock, et al., "Who Enrolls in a Quit Smoking Program with Yoga Therapy?" American Journal of Health Behavior, Vol.41, No.6, 2017

※7:Kathy Do, et al., "Association between cardiorespiratory fitness and metabolic risk factors in a population with mild to severe obesity." BMC Obesity, Vol.5: 5, 2018

※8:Vincezo Monda, et al., "Exercise Modifies the Gut Microbiota with Positive Health Effects." Oxidative Medicine and Cellular Longevity, Vol.2017, doi.org/10.1155/2017/3831972, 2017

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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