Yahoo!ニュース

26連勝を飾ったWBAスーパーライト級王者

林壮一ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Photo:Esther Lin/SHOWTIME

 先月末日に行われたWBA正規スーパーライト級タイトルマッチは、チャンピオンのマリオ・バリオスが、9位の挑戦者ライアン・カールを6ラウンドKOで下して初防衛に成功した。

 バリオスは1995年5月18日、サンアントニオ生まれの25歳。2019年9月28日に世界王者となって以来のファイトである。故郷のファンの前で、是が非でもKO勝ちを飾りたかったであろう。

 18勝(12KO)2敗の挑戦者(28)も同じテキサス州の出身であったが、住まいのあるヒューストンと会場のサンアントニオは、320キロ強離れていた。よって、カールにとって敵地のリングだった。

Photo:Esther Lin/SHOWTIME
Photo:Esther Lin/SHOWTIME

 カールは初回から細かくジャブを放つが、チャンピオンが軽くいなす。そして、随所にボディブローを決め、カールにダメージを与えていった。

 手数は挑戦者が上回るが、頑強さとバランスの良さ、そしてパンチ力で王者が優っていた。

 2回以降、挑戦者はひたすら前進し、手を出し続ける。トランクスのベルトラインにCOWBOYと縫い込んでいたが、気持ちの強さを見せた。スピードもパワーもチャンピオンに分があったが、カールは乱打戦に持ち込み、活路を見出そうとする。その気迫に、チャンピオンもやや押されていった。

Photo:Esther Lin/SHOWTIME
Photo:Esther Lin/SHOWTIME

 第6ラウンド19秒、バリオスの右を浴びたカールが腰から崩れ落ちる。挑戦者がダウンを喫するのは、デビュー以来3度目のことだった。

 勢いづき、ラッシュをかけるチャンピオンの攻撃をクリンチで凌ぎ、大振りの右フックをヒットしたカールだが、もつれた際に偶然頭が当たり、額が割れる。

 以降、フラフラの状態になり、最後は前のめりにキャンバスに沈んだ。

 同ラウンド2分23秒でKO勝ちしたバリオスは、戦績を26戦全勝17KOとした。

Photo:Esther Lin/SHOWTIME
Photo:Esther Lin/SHOWTIME

 5ラウンドまでの採点は、49-46、49-46、48-47でチャンピオン優勢であった。

 勝利を収めた後、チャンピオンは語った。

 「今夜のファイトを、サンアントニオに来てくれたファンの皆に捧げたい。世界チャンプとなって初の試合だったので、楽しんでほしかった。序盤はカールの動きを観察しながら、我慢してどう攻撃するかを狙っていた。12ラウンドフルに戦う気持ちもあったが、自分の我慢がKOシーンに結び付いたと思う。コーナーの指示もよく聞こえたし、ホームでいい仕事が出来たね」

Photo:Esther Lin/SHOWTIME
Photo:Esther Lin/SHOWTIME

 敗者は次のように振り返った。

 「接戦で、いい試合だったと感じています。いいパンチをもらってしまいました…。重いヘッドバッドもね。かなり出血しましたが、体は大丈夫です。

 私は惨めな敗者ではありません。死に物狂いで戦いました。マリオの勝利を称えたいです」

 カールの言葉には、知性と潔さを感じた。

 ようやく社会にボクシングが戻って来た。何とか人類全体で、新型コロナウィルスをKOしたいものだ。

ノンフィクションライター/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

林壮一の最近の記事