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勝利を引き寄せたホットライン。なでしこリーグ開幕戦で日テレ・ベレーザが示した勝負強さ(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
3連覇に向け白星スタートを切った日テレ・ベレーザ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【勝利を引き寄せたホットライン】

3月26日(日曜日)、なでしこリーグ1部が開幕。

リーグ3連覇を目指す日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)は、2年ぶりに1部に昇格したちふれASエルフェン埼玉(以下:埼玉)を迎え、試合はベレーザが2-1で接戦を制した。

決勝点を生んだのは、ともに大阪出身で87生まれの阪口夢穂と上辻佑実のホットラインだ。

1-1で迎えた47分、右サイドをオーバーラップした上辻が籾木結花のパスを受けてクロスを上げると、ファーサイドでフリーの阪口がヘディングで押し込んだ。

「クロスを上げるのが(上辻)佑実じゃなかったら、あの位置に入っていなかったです。彼女はあのタイミングで(クロスを)上げてくれる確信がありました」(阪口)

2人は中学、高校が同じで、さらにスペランツァFC大阪高槻(下部組織時代も含む)、アルビレックス新潟レディースでも共にプレーした旧知の仲だ。お互いのプレーは感覚のレベルで理解している。

「考えていることとか、どこにパスが出てくるかということや、(パスを出してほしい)タイミングも分かります」(上辻)

ゴールの場面は、2人のイメージがきれいにシンクロしたことで生まれた。

ベレーザは今シーズン、21名の登録メンバーのうち、下部組織のメニーナ出身の生え抜き選手が15名を占める。その中で、阪口と上辻は移籍加入した選手だ。

在籍6年目を迎える阪口は、今や攻守において中心的な存在であり、基本的にフル出場。一方、上辻は2015年に加入して2年あまりしか経っていない。昨シーズンはリードした試合で途中から出場することも少なくなかった。

上辻の精度の高いパスとキックは、国内でも間違いなくトップレベルだ。2012年と2015年にはなでしこジャパンに招集され、フリーキッカーを任されたこともある。

しかし、トップチームと同じコンセプトを指導方針にして、下部組織のメニーナから長い時間をかけて醸成されてきたベレーザのパスサッカーの中で、その歯車の一つとなり、自分の良さを活かすことは容易ではないと上辻自身は感じている。

「(下部組織のメニーナから)ずっと一緒にやってきている選手たちは感覚的に分かっていることでも、(自分自身は)難しく感じることがあります」(上辻)

しかし、この試合では58分間という限られた時間の中、相手の強いプレッシャーを悠然とかわし、阪口の決勝ゴールをおぜん立てすることで試合の流れを引き寄せた。雨でピッチは滑りやすくなっていたが、キックの精度は揺るぎなかった。ベレーザにおける上辻の存在感は、確固たるものになりつつある。

【予想外の幕開け】

ベレーザの優位が予想されたこの試合は、埼玉が完璧なカウンターから決めた先制ゴールで幕を開けた。

前半6分、埼玉はベレーザのフリーキックを凌(しの)いで自陣でボールを奪うと、高い位置を取っていた左サイドの高橋彩織に素早く展開。高橋がゴール前に入れたライナー性のクロスに、新加入の中村ゆしかが飛び込んで頭で合わせ、先制点を決めた。

昨シーズン、リーグ戦18試合でわずか9失点と鉄壁を誇ったベレーザが、開幕戦で、しかも、試合開始からわずか6分で失点するとは予想できなかった。

だが、キックオフからの6分間に、その予兆がなかったわけではない。

ベレーザは昨シーズン、4-2-3-1のフォーメーションで試合を進めることがほとんどだったが、この試合は、中盤がひし型の4-4-2(4-3-1-2)でスタートした。中盤の底に阪口が入り、サイドハーフは左が長谷川唯で、右が隅田凜。トップ下に籾木結花が入り、田中美南と上辻佑実が2トップを組んだ。

昨年まで左サイドバックでプレーした有吉佐織がケガにより長期離脱を余儀なくされたため、同ポジションには中里優が入った。

フォーメーション変更の理由について、ベレーザの森栄次監督は次のように話した。

「選手の特徴を踏まえて、どの形が一番良いのか模索しています。他のチームから研究されている中で、いろいろ試したい考えもあります」(森監督)

この開幕戦で、新しいフォーメーションが機能し始めるまでには、少し時間がかかった。

そして、機能する前に失点したことは、「誤算」だった。前線からブロックを形成してプレッシャーをかける埼玉は狙い通り、ベレーザのパスミスを誘発し、奪ったボールを先制ゴールに結びつけた。埼玉のカウンター攻撃に対して、新しいフォーメーションで臨んだベレーザの選手同士の距離感がアンバランスだったことは否めない。

埼玉のゾーンディフェンスが機能していたことも、先制ゴールにつながった。右サイドで積極的に相手にプレッシャーをかけ続けた薊理絵(あざみ・りえ)は言う。

「なでしこリーグ1部で試合をすることが初めてで緊張している選手もいましたが、試合中に『自分たちもやれる』と、手応えを感じていたと思います」(薊)

埼玉の選手たちに気負いや硬さは見られず、むしろチャレンジャーとしてのびのびとプレーしているように見受けられた。

そんな中、ベレーザは運動量を増やして距離感のアンバランスをカバーし、少ないチャンスを活かして13分に同点に追いつく。

埼玉陣内の中央あたりで、籾木の浮き玉のパスを上辻がヘディングで相手ゴールに向けてそらすと、絶妙のタイミングで裏に抜け出した田中美南が飛び出したGK浅野菜摘よりもわずかに早くボールに追いつき、1対1で浅野をかわして冷静にゴールに流し込んだ。

そして、30分過ぎに、ベレーザの森監督は昨シーズンまで採用していた、中盤がボックス型の慣れた4-4-2に変更。すると、選手間の距離感が良くなり、高い位置でボールを奪えるようになったベレーザが試合を優位に進めた。

一方、埼玉のカウンターの精度も高かった。自陣でボールを奪うとすかさず、ボランチの高野紗希と中野里乃が前線の鈴木薫子、高橋、薊、中村に展開。雨で滑りやすくなったピッチコンディションも味方につけ、シンプルな攻撃でゴールを狙った。

そして、1−1のまま試合は後半戦に突入した。

追加点が生まれたのは47分。冒頭に記した阪口のゴールでベレーザが1点をリードすると、そこからはさらに落ち着いたゲーム運びを見せた。

ベレーザは58分にFW植木理子を投入して追加点を狙いにいきつつ、相手陣内のセットプレーでは攻撃にかける人数を限定するなど、カウンターへのリスクマネジメントを徹底し、それ以降は決定的なピンチを作らなかった。

【90分間で示した底力】

結局、試合はこのまま、2-1でベレーザが勝利。

初めて採用するフォーメーションへの戸惑いや立ち上がりの失点など、不測の事態も乗り切り、90分間できっちり勝利したベレーザが底力を見せつけた。

一方、埼玉は、1部に昇格したばかりで、昨シーズンの首位チームとアウェーで対戦する難しい状況だったが、精度の高いカウンターやゴールへの迫力は、1部でも十分に戦えることを示していた。

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他会場では、INAC神戸レオネッサがホームに昇格1年目のノジマステラ神奈川相模原を迎え、3-0で勝利。

昨シーズン3位のAC長野パルセイロ・レディースは、ホームに浦和レッドダイヤモンズ・レディースを迎え、終盤にFW横山久美のゴールで1-0で勝利。

マイナビベガルタ仙台レディースは、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに先制を許したものの、FW浜田遥のゴールなどで2-1で逆転勝利した。

アルビレックス新潟レディースと伊賀FCくノ一の試合は、0-0のスコアレスドローとなった。

第2節は4月2日(日曜日)に開催される。

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(一般社団法人日本女子サッカーリーグ)

(2)【監督・選手コメント】に続く

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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