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少子化対策の財源、税か保険料か(第3回)

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(写真:イメージマート)

前回、少子化対策の財源は、社会保険料、消費税、所得税や資産税などのメリット・デメリットを考慮しながらベストミックスの負担の姿を検討すべきだと述べた。一方消費税の引き上げは、政治的に封印されているという。

消費税はなぜ国民や政治家に嫌われるのか。客観的(?)な答えが欲しくて、チャットGPTにその質問を投げかけてみたら、以下のような答えが返ってきた。

1,生活費の増加:消費税が引き上げられると、商品やサービスの価格が上昇するため、消費者が支払う金額も増加します。そのため、生活費が増加し、家計が圧迫されることになります。

2,低所得者への影響:消費税は所得に関係なく課税されるため、低所得者への影響が大きいとされています。低所得者の場合、生活費に占める消費税の比率が高く、引き上げによって生活が苦しくなる可能性があります。

3,景気の悪化:消費税が引き上げられると、消費者の購買力が低下するため、景気が悪化するとされています。消費者が支払う税金が増えるため、購買力が低下し、企業の売上が減少することで、景気が悪化する可能性があるとされています。

(以上、2023年5月8日のチャットGPTの答え)

1番目の生活費の増加という点について。消費税の税収はすべて社会保障に充てられることになっている。したがって、仮に少子化対策の財源として消費税率を1%引き上げると得られる3兆円弱の税収は、児童手当など子育て世帯への経済支援を中心に使われることになる。一方で3兆円を負担するのは、勤労世代だけでなく高齢世代も含まれる。

ということは、マクロ的に見て、高齢者が負担する分だけ子育て世代にとってはプラスになるはずだ。高齢世代より子育て世帯の方が消費性向が高いことも考慮に入れると、子育て世帯への資金の移転は、経済政策としても有効ということになる。

2番目の、低所得者への影響について。確かに消費税には、高所得者ほど消費税負担の比率が下がるという逆進性がある。しかし、消費に応じて消費税負担は増えていくので、より多く消費する高所得者の負担は、金額ベースで低所得者より大きくなる。

問題は、3番目の経済の悪化である。

これまでの消費増税と経済に与える影響を、消費税収の使途まで考慮に入れずに考えると、消費増税による物価の上昇を通じて消費が落ち込み、経済に負の影響を与えることは事実である。負担増が経済に悪影響を及ぼさないはずはない。重要なことは、1、2年のタームで見ると、消費トレンドはかならず元に戻っているという事実である。そうでなければ、欧州諸国のように20%の消費税率引き上げは不可能なはずだ。

過去の引上げを経済統計でみると、大変不幸なことに、消費増税に加えて金融危機(97年4月の5%への引上げ)やコロナ禍(19年10月の10%への引上げ)が発生し、客観的な検証ができない。安倍元総理がこだわった14年10月の8%への引上げは経済回復を遅らせたというが、消費トレンドそのものは1年たたず回復基調に戻っている。

いずれにしても今後消費税率の引上げを行うとすれば、経済への配慮は最大限行う必要があることは言うまでもない。とりわけ重要なことは、増税直後の極端な消費の落ち込みを防止することだ。その為には以下のことが必要だ。

第一に、税率引き上げの幅を小刻みにすることである。具体的には、0.5%ずつ複数年かけて引き上げるという方法を検討すべきだろう。0.5%であれば、わが国の潜在経済成長率の範囲内なので、経済に与える影響は少ない。あらかじめスケジュールを決めれば、金融政策もやりやすい。

小刻みな引き上げはこれまで事業者の手間がかかるということで現実的な選択肢ではなかったが、軽減税率の導入でレジが近代化され、インボイスも導入されている状況では、このような選択肢は非現実的なものではなくなった。

05年度の年金見直しによる社会保険料の改定は13年かけて行われた。厚生年金については、05年10月から毎年0.354%ずつ引上げ17年度に18.30%となり終了した。国民年金も05年4月から毎年月額280円引上げ17年度に16,900円となった。これを見習うということだ。

次に、経済変動の平準化ということを考慮する必要がある。政府は14年4月の消費税率引き上げ時に、耐久消費財を中心に駆け込み需要とその反動減が生じ、景気の回復力を弱めたことを認識し、19年10月からの引上げ時には、「ドイツや英国を見ると、消費増税時の経済変動は小さいので、その経験に学びつつ経済変動の平準化を目指す」ことが骨太方針に明記され、対策が打たれた。

その内容は、事業者の消費増税と価格に対する行動様式を、日本型から欧州諸国型に変えていこうというものであった。

欧州では、消費税は日々価格の変動する人件費や仕入れと同じく、価格を形成するワンノブゼムのコストの一つ、という認識が長い歴史の中で定着している。したがって、消費増税が近づくと、需要動向を見ながら、自らのマージンを確保できるよう値段(消費税込み)を変えていく。増税のその日に価格を一斉に替える必要はない。

需要が強いと予想すると値上げをし、需要が弱いとなると値は上げない。すべて消費税込みの値段で考えていく。この結果、税率引上げの日に一律一斉に税込価格の引上げが行われることはなく、税率引上げ前後に大きな駆け込み需要・反動減も発生しない。

一方わが国の事業者は、増税の前日に一斉に値札を変更して増税当日に価格を上げる。消費税は政府(お上)が決めたもので、その日に一斉に値上げすべきものという感覚を持っているからだろうか。

加えて消費者やマスコミが、消費増税に伴う便乗値上げや過剰転嫁に大きな関心を寄せ、政府・公取が、事業者に対して過剰な規制・価格指導を行い、「消費増税前の値上げはけしからん」ということになる。

そこで10%への引き上げ時には、政府・公取などは価格への過剰な関与を弱め、事業者の価格に対する自由度を拡大させることとした。今後は、価格決定に関して基本的に小売事業者の自由に任せるようにすべきではないか。

このように、今後消費増税を議論するには、経済への影響を最小限にする措置も併せ考えていく必要がある。

これから本格化する少子化の財源だが、まずは本気で実行可能な歳出改革の数値目標を作り、その上で足らざるところを、社会保険料、消費税や所得税などで賄うということではないか。重要なことは、勤労世代や高齢世代の負担と受益がどうなるのか、大まかな姿を示すことだ。後は国民の選択だ。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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