正念場を迎えた長野。多彩なタレントを生かし、新たな攻撃サッカーを模索中
【正念場の10月】
AC長野パルセイロ・レディース(長野)が、正念場となる10月を迎えた。
2連勝の良い流れで迎えた9月30日のなでしこリーグ第13節。ホームに勝ち点「20」で並ぶノジマステラ神奈川相模原(ノジマ/6位)を迎えた一戦は、勝てば順位が4位から3位に上がる可能性があったが、結果は1-3で敗れ、6位に後退した。
リーグ戦は残り5試合。長野は10月、上位との対戦が続く。今シーズンの目標であるトップ3に入るためには、落とせない試合ばかりだ。ノジマ戦は、その10月に向けて勢いをつけたい一戦だった。
一筋縄でいかないことは予想できた。今シーズン、パスサッカーの完成度を高めているノジマに、長野は5月のアウェーで今シーズン最多の5失点を喫して敗れている。その教訓から、この試合では守備的な入りを見せた。
ところが、開始7分に自陣でFKを与えると、DF國武愛美に頭で決められて先制点を献上。その後、1点を追う75分には、接触プレーで負傷したMF國澤志乃がピッチ外で治療中、1人少ない場面で手薄になったところを突かれて2点差に。
その後、FW横山久美のゴールで一点差に迫ったものの、アディショナルタイムにも失点。長野の本田美登里監督は試合後、
「後半、押しに(前からプレッシャーをかけに)行ったところではまらない場面があった」としつつ、攻撃面では「横山(久美)が孤立するシーンが多かった」と、最後まで攻守の歯車が噛み合わなかったことを敗因に挙げた。
【新たな攻撃の形を模索中】
長野は1対1の強さをベースに、縦に速い攻撃的なスタイルを持ち味としているが、その分失点のリスクも高い。そのため、昨シーズンはより守備的な戦術にシフトし、失点数を一昨年の半分以下に減らした。しかし、今度はゴールから遠ざかり、得点源だった横山がドイツ1部のフランクフルトに1年間の期限つき移籍をした2017年7月以降は、得点力が一気にダウン。元々、攻撃は個に依存する部分が大きかったため、メンバーの入れ替わりによる変化が大きく、その中で攻守のバランスを取る難しさと向き合ってきた。
そして今シーズンは、年代別代表で実績のあるFW西川明花やMF中村ゆしか、FW滝川結女(ゆめ)ら、前線の選手を補強し、「再び攻撃的なスタイルを目指す」(本田監督)ことを公言。正確なキックと豊富な経験を持つMF中野真奈美を攻撃の核に据える形で、再スタートを切った。そして、今年7月には横山がフランクフルトとの契約を終えて復帰。強力なタレントが揃った。
しかし、今シーズンは守備が安定しない。13試合で「19」という失点数はすでに昨シーズンの総失点数を上回っており、先制された試合は9試合に上る。追いかける展開が多いため、焦りがミスを生む悪循環にもなりやすい。
この試合では、ノジマの流動的なポジションチェンジと素早い攻守の切り替えに対してボールの奪いどころが定まらず、なんとか奪ってもすぐに囲まれて失ってしまう場面が多かった。正確なパスを散らして攻撃の起点となる中野は、出しどころがないため、試合中に味方の立ち位置を修正しながらプレーしていた。試合後は、
「連動して守備に行けませんでした。味方との距離感が悪いと本当に何もできなくなってしまうので……。横山が帰ってきてからはカウンターも狙えるようになったので、私自身ももっとスプリント(して横山をサポート)しなければいけないと思っています」(中野)
と語った。
中野が指摘する「連動した守備」をするためには、全員がオフザボールで適切なポジショニングを取り続けなければならない。各々がマークする相手のスピードや、前線の味方がどのようにコースを限定しているかなど、様々なことを把握しながら、次に起こることの予測精度を上げていく。そうすることで味方同士の距離感を良くしていくーー地道だが重要なそのプロセスが、今後、上位チームとの対戦ではカギになりそうだ。
【ドイツから復帰後4戦連発】
それでも試合中、横山がボールを持つと何かが起きそうな気配が漂った。
8月に発表されたケガから復帰して徐々にコンディションを上げている段階だが、そんなことを感じさせず、重心の低いドリブルと圧倒的なボールキープでスタンドを沸かせていた。
89分には、左サイドの角度のない位置から逆サイドネットに技ありのシュートを決めた。ドイツからの復帰戦となった9月8日のマイナビベガルタ仙台レディース戦から4試合連続でゴール(5点)を決めており、得点ランクは一気に4位まで浮上。リーグ前半戦の9試合に出ていないことを考えれば、圧倒的なペースだ。
どのチームも横山の怖さは十分に分かっているため対策を練っているが、それでも完封は難しい。それは、横山が4試合で放った23本というシュート数にも表れている。
ノジマ戦はボールを受けても孤立する場面が多く、「(ボールを受けた時に)敵が何人いるんだろう?と思いました」と苦笑していたが、「どちらにしても、何人かはかわさなければいけないので」と、特に気にしていない様子だった。
ドイツから帰国後、特に変化を感じるのが、中盤まで降りてゲームを作る場面が増えたことだ。フランクフルトではボランチとしても起用されたことで、新境地を切り開いた。その分ゴールまでの距離は遠くなるが、重要なのは「結果」だと割り切っている。
「中盤まで降りても、シュートまでいければいいと思っています。自己中なプレーをして勝てなかったらダメだけど、それでシュートまでいけば、監督に怒られたことはないですから」(横山)
長野を率いて6年目になる本田監督が、横山に限らず選手たちに一貫して伝えてきたことは、「ボールを持ったら前を向くこと」と、「ミスを恐れずにチャレンジすること」。横山のキープ力やシュートセンスは、チャレンジを重ねてきた賜物だろう。相手4人に囲まれながら長い距離をドリブルで運び、シュートまで持ち込んだ前半16分のカウンターは特に見応えがあった。
とはいえ、今後、彼女へのマークはさらに厳しくなることが予想される。そこで期待したいのが、他のFW陣の活躍だ。力強いポストプレーからロングシュートを狙える齋藤や、クロスやセットプレーに強い西川、キレのあるドリブルで相手の守備をかき回せる滝川などが、横山という圧倒的な存在を生かしつつ、自らも生かされることで点を取れるようになれば、相手にとっての脅威は増すに違いない。
「ここからが正念場。意地を見せたいと思います」
残り5試合に向けて、本田監督はそう言い切った。相手のスカウティングに余念のない指揮官がどのような策を講じるのか、その点も楽しみだ。
浦和レッズレディース(4位)、INAC神戸レオネッサ(2位)、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(5位)、そして日テレ・ベレーザ(首位)と続く、長野の10月の4連戦から目が離せない。