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アリジゴクが木に登る天変地異?#アリジゴク

天野和利時事通信社・昆虫記者
木に登って獲物を待ち伏せるコマダラウスバカゲロウ幼虫。

 アリジゴクが木に登っているのを見たことがあるだろうか。モグラが地上に出てきたり、ナマズが暴れたりすると地震が起きるなどと言われるが、アリジゴクが木に登ったら、どんな天変地異が起きるのだろうか。

 アリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)と言えば、地面にすり鉢状の穴を掘って、獲物が落ちてくるのを待っていることで知られる。ところが、アリジゴクの仲間の中には、木や壁に登って、そこで獲物を待ち伏せするものもいる。これはコマダラウスバカゲロウという名の、ウスバカゲロウに近い虫の幼虫だ。

本家アリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)によく似たコマダラウスバカゲロウ幼虫。
本家アリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)によく似たコマダラウスバカゲロウ幼虫。

地衣類に覆われた杉の木にいたコマダラウスバカゲロウ幼虫。
地衣類に覆われた杉の木にいたコマダラウスバカゲロウ幼虫。

 この木登りアリジゴクの姿は、普通のアリジゴクにそっくりだ。しかしアリジゴクのように簡単に見つかることはない(アリジゴクは巣穴とその周辺のさらさらした土をふるいにかければ、すぐに見つかります)。

 木登りアリジゴクは、地衣類や苔に覆われた岩壁や樹皮に張り付き、こうした地衣類のかけらを身にまとって姿を隠す擬態の名人。木登りアリジゴクはこうした擬態状態で越冬するので、冬の虫探しのターゲットにはもってこいだが、老眼の昆虫記者の場合は、「ここにいるよ」と指でさし示されても、どこにいるのか分からないほど見つけ出すのが難しい。

地衣類に覆われた岩壁にコマダラウスバカゲロウ幼虫がいるのだが、どこにいるか分かるだろうか。
地衣類に覆われた岩壁にコマダラウスバカゲロウ幼虫がいるのだが、どこにいるか分かるだろうか。

岩壁で越冬するコマダラウスバカゲロウ幼虫。胴体は地衣類と同化し、牙(大あご)だけが目立つ。
岩壁で越冬するコマダラウスバカゲロウ幼虫。胴体は地衣類と同化し、牙(大あご)だけが目立つ。

コマダラウスバカゲロウの成虫。ウスバカゲロウと比べ、小柄でオシャレだ。
コマダラウスバカゲロウの成虫。ウスバカゲロウと比べ、小柄でオシャレだ。

 しかし、擬態のレベルが高ければ高いほど、やる気が出るのが虫好きのおかしな特徴。真冬に苔むした岩壁を凝視して木登りアリジゴクを探す者も少なくない(うそです。かなり少ないです)。

 そして昆虫記者は今冬も、ロッククライマーでもないのに岩壁に挑む。1匹も見つけられず、敗北感に打ちのめされると分かっていても、探さずにはいられないのである。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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