圧巻の4ゴール。奪いどころのないパスワークで長野を破ったベレーザが準決勝へ(1)
7月16日(日)に行われた、なでしこリーグカップ第8節、AC長野パルセイロ・レディース(以下:長野)と日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)の一戦は、ベレーザが4点を奪って快勝。ベレーザが予選リーグ2試合を残して、準決勝進出を決めた。
「スコア通りの力の差があった」と、長野の本田美登里監督が認めたように、ベレーザは得意とする攻撃力をいかんなく発揮して4ゴールを決め、ホームの長野を下した。
【奪いどころのないパスワーク】
試合直前まで降っていた雨は、キックオフの笛が鳴った17時にはやみ、長野Uスタジアムには時折、涼しい風も吹き抜けていた。
両チームともに積極的な立ち上がりを見せた試合は、開始早々に動いた。
縦に速い攻撃を特徴とする長野に対し、
「(守備で)ブロックを作り、そこから崩していくという対策を練っていた」(森栄次監督/ベレーザ)
というベレーザ。
前線からの連動したプレッシャーで、長野が狙いとする2トップへのパスコースを限定して奪うと、立ち上がりから攻撃のスイッチをフル回転させた。
先制点は前半3分。
ベレーザの左サイドバック、MF宮川麻都が、ハーフウェイラインあたりでサイドハーフのMF長谷川唯にボールを預け、タッチライン際をワンツーで抜け出すと、一気にペナルティエリア内に進入。ゴール前にグラウンダーのクロスを送った。長野はゴール前に6人が戻っていたが、守備陣の意識は、中央にポジションをとっていたFW田中美南に集中。田中がこのボールをスルーしたことで、ボールはファーサイドに流れ、そこに走りこんだベレーザのFW籾木結花が丁寧に右足インサイドで合わせて先制した。
早々にリードを奪ったベレーザはその後、じっくりとパスを回しながら、2点目を狙いに行った。
長野は自陣で守備を固め、カウンターを狙ったが、グラウンドを広く使いながらポジションチェンジを繰り返すベレーザの攻撃を止めることができない。
「ボランチやトップ下に入るところでボールを奪えそうなポイントがいくつかあったのですが、あれだけ出入り(ポジションチェンジ)されると非常に難しいと感じました」(本田美登里監督/長野)
ベレーザは2トップの田中と籾木が状況を見て2列目にポジションを下げる時、前線に空いたスペースをボランチのMF阪口夢穂、中里優が活用。左サイドハーフの長谷川と右サイドハーフのMF隅田凜が中央に絞ると、サイドバックの宮川とDF清水梨紗がオーバーラップ、といった具合に、相手陣内でポジションチェンジを繰り返しながらボールを動かし、長野のマークを混乱させた。
雨の影響で長野Uスタジアムの芝は滑りやすくなっていたが、ベレーザはパスミスが少なく、意図的にパスに緩急を加えていたことも、長野がボールを奪うタイミングを難しくしていた。
25分の、攻撃→守備→攻撃の一連の流れは、ベレーザの攻守の切り替えの早さを象徴する場面だ。
ベレーザは右サイドでボールを奪われたものの、カウンターを狙った長野のMF齊藤あかねの縦パスを、ベレーザのDF村松智子がすかさず奪い返した。
村松がクリアしたボールは、籾木へのダイレクトパスになり、ショートカウンターにつながった。籾木はスムーズなターンで前を向くと、村松から受けたボールを長野のディフェンスラインの裏に抜け出した田中にスルーパス。田中は一気にゴール前に迫った。
最後は長野のDF坂本理保の的確なカバーリングでシュートまでは行けなかったが、ベレーザは常にボールを高い位置で奪い返し、長野陣内でゲームを進めた。
しかし、36分、ベレーザを予想外の事態が襲う。センターバックの村松が接触プレーで負傷し、交代を余儀なくされると、流れはにわかに長野に傾いた。
この試合で、長野が迎えた最大のチャンスは44分に訪れた。
右サイドで、ベレーザの最終ラインの裏のスペースに抜け出したボランチのMF國澤志乃に、右サイドバックのDF藤村茉由のロングフィードがピタリと合った。國澤はトップスピードでペナルティエリアに侵入すると、そこに走り込んだFW中野真奈美にマイナス気味のパスを送る。しかし、わずかにタイミングが合わず、つんのめる形で中野が放ったシュートはバーの上に外れた。長野はこの直後にも、MF野口彩佳がミドルシュートを放つも、ベレーザのGK山下杏也加が弾き出し、そこに詰めていたFW泊志穂がゴールを狙ったが、山下が再度ブロック。長野は絶好のチャンスを活かすことができなかった。
【多彩な形から決めた3ゴール】
後半に入り、63分には、ベレーザの見事な連携から2点目のゴールが生まれた。長野陣内で、左サイドでゆっくりとボールを回している最中、籾木が一気にスピードアップして前線に抜け出すと、長谷川から絶好のタイミングでパスが出た。その後、籾木はゴール前にライナー性のクロスを送ると、ゴール正面にタイミングよく走りこんだ田中が右足のつま先でボールの軌道を変えて、右サイドネットに決めた。
リードを2点に広げたベレーザは、その後は攻め急がず、グラウンドを広く使ってパスを回しながら時間をコントロールし、長野の攻撃に対処するシフトを続けた。
そんな中、ベレーザの3点目は88分に生まれた。決めたのは、76分に投入されたFW植木理子だ。植木は左サイド、タッチライン際で宮川のパスにオフサイドラインぎりぎりで抜け出すと、左サイドから中央に切れ込みながらドリブルで2人をかわして、ゴール中央で右足を振り抜いた。豪快なシュートがゴール左上に決まり、3-0。
後半アディショナルタイムには、田中に代わってトップに入ったMF上辻佑実が、FKからトドメの4点目を決めた。長野陣内の中央右寄り、ゴールまでは20mほどの距離があったが、直線的に飛んだボールはバーの内側に当たり、ゴールに吸い込まれた。
終盤は危なげなく試合を運んだベレーザが、4-0で快勝。予選リーグ2試合を残して準決勝進出を決めた。一方、長野は予選敗退が決まった。
【決勝進出に向けて】
ベレーザの4ゴールは、現在のチーム状況の良さを示していた。特に2点目がそうであったように、チームの持ち味でもある、選手同士の良い連携が随所に見られた。中央でゲームを作る阪口は、その連携に絶対的な自信を見せる。
「誰かが(前のスペースに)抜ける時に、『中に入って(カバーして)ね』という声をかける必要もないぐらい、当たり前の感覚でみんなが動けるようになっています」(阪口/ベレーザ)
2ゴールをアシストした宮川の活躍には、目を見張るものがあった。今シーズンは左サイドバックの有吉佐織がケガのために離脱しており、その穴を複数の選手が埋めていたが、宮川の攻撃的なプレーがチームに与える活力は大きい。左サイドの長谷川との縦の関係は、ベレーザの新たな攻撃の形として十分に機能していた。
終盤に植木がドリブルから決めた3点目も、強烈なインパクトがあった。スタミナの消耗戦になる夏場の戦いで、後半から植木が出てくると、相手チームにとっては厄介な存在である。スピードに乗ったドリブルとパワフルなシュートはベレーザにとって、特に夏場は力強い武器と言える。
ベレーザは、今月24日からのなでしこジャパンのアメリカ遠征に主力7人が招集されており、今月に行われる予選リーグの残り2試合と準決勝(8/5)を、限られたメンバーで戦わなければならない。リーグカップ2連覇を達成するためには、宮川や植木ら、残った若い選手たちが、予選リーグの残り2試合でいかに成長し、準決勝に臨めるかが鍵になる。
代表招集が決まっている籾木は、残されたメンバーに期待を込めた。
「(予選リーグの)残り2試合は、準決勝進出が決まっている中での試合になるので、これまで試合に出ていなかった選手が経験して積み上げていけるものがあると思います。練習の中で年下の選手や控えの選手に伝えられることもありますし、その2試合を大切にして、準決勝は勝ちに行きたいと思います」(籾木/ベレーザ)
ベレーザは次節、7月23日(日)に、ホームの味の素フィールド西が丘でノジマステラ神奈川相模原と対戦する。
【光った個の力】
長野は、7月にドイツのフランクフルトに移籍したエース、横山久美が抜けた穴を一日も早く埋めたいところだ。
しかし、サイドアタックや、新加入のFW中野を活かした攻撃など、模索してきた新たな得点パターンは、この試合では影を潜めた。チームの新たなエースとして期待がかかるFW泊志穂は、真っ先に攻撃面を課題に挙げた。
「ビッグチャンスがあった中で決め切れず、自分たちのリズムをつかめなかったと感じました」(泊/長野)
4失点を喫した守備も修正しなければならない。1、2失点目は、ペナルティエリア内で人数は足りていながら、ボールウォッチャーになってしまった。
一方、新たに見えた攻撃の形もあった。ボランチの國澤はこれまでは守備範囲の広さとフィードを活かし、カウンターの起点になるプレーが多かったが、この試合では何度か、自らゴール前に飛び出して決定機を演出。ゴールへの高い意欲が見られた。また、ボランチの斎藤は、体の強さを活かしたボールキープでベレーザのプレッシャーをいなし、積極的にミドルシュートを放った。
右サイドバックとしては初出場となったDF藤村茉由の、積極的なプレーも光った。藤村は、FWからサイドバックにコンバートされてまだ2週間も経っていないという。そのため、守備面では同サイドから崩される場面が少なくなかったが、そこで自信を失うことなく、攻撃面でFWだった特長を発揮した。フィードやクロスのタイミングにもセンスを感じさせる。サイドのポジション争いに新たに参戦した藤村の今後の成長が楽しみだ。
長野は今週末には試合がなく、次節、7月30日(日)に、アウェイの相模原ギオンスタジアムでノジマステラ神奈川相模原と対戦する。