棋聖位通算16期のレジェンド羽生善治九段(49)棋聖戦二次予選1回戦で千田翔太七段(25)を降す
12月9日。東京・将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦二次予選1回戦▲羽生善治九段(49)-△千田翔太七段(25歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は17時44分に終局。結果は111手で羽生九段の勝ちとなりました。
羽生九段はこれで二次予選2回戦に進出。次局では戸辺誠七段(33歳)と対戦します。
羽生九段、相矢倉の熱戦を制す
羽生九段はタイトル獲得通算99期。現代将棋界のレジェンドとも言える存在ですが、今年度はタイトル戦の登場がありませんでした。
【参考記事】
羽生善治九段(49)2019年度タイトル戦番勝負への登場なし 1988年度以来31年ぶり
棋聖位はこれまでに16期獲得。2008年からは10連覇を達成しています。2018年の五番勝負では豊島将之八段(当時)に敗れ、その座を明け渡しました。豊島棋聖は今年2019年の五番勝負で敗れ、現在は渡辺明棋聖(35歳)が棋聖位を保持しています。
千田七段は二十代半ばの有望な若手棋士の中でも、出世争いの先頭グループを占めています。2016年度棋王戦五番勝負では渡辺明棋王に挑戦し、フルセットで敗れたものの、途中は先行し、タイトル獲得にあと一歩と迫りました。順位戦は現在B級1組に所属し、6勝2敗。菅井竜也七段(8勝1敗)、斎藤慎太郎七段(6勝2敗)らとA級入りを争っています。
二次予選8組、トーナメント表左側の4人は関東、右側の3人は関西所属です。千田七段は大阪出身で、もともとは関西の所属でしたが、東京に移り住んで、2017年12月からは関東所属となっています。
羽生九段と千田七段は過去に2回対戦し、互いに1勝ずつを挙げています。
振り駒の結果、本局の先手は羽生九段。近年の公式戦では、初手に飛車先の歩を突く手が増えていますが、本局ではもっともオーソドックスな角筋を開く手が指されました。千田七段は居飛車党。戦形は相矢倉となりました。
矢倉の先手番は飛車先の歩を突くことを保留する「飛車先突かず矢倉」が現代の主流でした。しかし最近では後手番が早く動くことが多くなりました。そのため、時代は一周して、先手番も早めに飛車先の歩を伸ばすようになります。羽生九段はしばしば「温故知新」という言葉を口にしますが、古くからある矢倉の戦法の中にもまた、温故知新の手法が現れているということでしょう。
矢倉の戦いにも多くのバリエーションがありますが、本局では互いの角が向かい合う形になりました。そして角交換となります。
また最近の矢倉は、互いに金銀3枚で組み上げるオーソドックスな「金矢倉」にならないことも多い。本局では金矢倉が組み上がる前に戦いが起こり、羽生陣は戦いの途中で金矢倉が完成しています。
先に動きを見せたのは後手番の千田七段でした。足の早い桂を跳ねて、歩を突っかけていきます。対して羽生九段は着実な攻めが望める銀を中段に押し上げていきます。
相矢倉らしい攻め合いが始まった後、羽生九段は大きく技をかけていきました。千田陣本営の上部に馬(成り角)を作って王手をかけ、さらには飛車を走り、銀も進めてたたみかけます。
この迫力ある攻めを千田七段はいったん受け止めた後、反撃に転じます。羽生玉は、四段目まで吊り出され、飛角の大駒でねらわれる格好となりました。危険なようでも、これでギリギリしのいでいるようで、羽生九段がわずかにリードを奪った形になりました。
手番が回り、羽生九段は飛車を切って千田玉に迫ります。差は広がらず、形勢はやや羽生九段よしというところ。ここで受けるか攻めるか、大変難しいところでの判断が、本局の明暗を分けたようです。
千田七段は残り1時間10分のうち、30分考えて攻めを選びました。この判断が結果的にはよくなかったか。
進んで一手争いの最終盤。羽生玉は下からは龍(成り飛車)、上からは飛と香のロケット砲ににらまれ、やはり危険きわまりない形です。しかし逆に、その飛と香を銀で押さえつける手が「受けるは攻めるなり」の攻防手となりました。
羽生九段の持ち駒に飛が加わると、千田玉は寄ってしまいます。そのため千田七段は攻める手段を制限され、羽生玉が寄らなくなってしまいました。
総手数は111手と平均的ながら、相矢倉の攻防の駆け引きの面白さがぎゅっとつまった熱戦でした。羽生九段は若手実力者を相手に幸先のよい一勝をあげ、今期棋聖戦のスタートを飾りました。