ハチミツは、咳に対して効果があるのか? 科学的根拠は
はじめに
まず、注意事項を書いておく必要があります。1歳未満の子どもにはハチミツを与えることでボツリヌス症を起こすリスクがあるため、与えないよう注意してください(1)。
さて、ハチミツと医学は切っても切れない関係で、古代ギリシャのヒポクラテスも、皮膚炎やその他の炎症に対してハチミツが有効であると考えていました。古代ローマの軍隊でも、ハチミツに浸した包帯を使っていたとされています。そして、咳に対してハチミツが有効であるということは、ここ数年でかなり知られるようになりました。
子どもに対するハチミツの鎮咳効果
いくつか研究がありますが、100人以上の子どもを登録した規模の大きな報告を紹介します。
まずは、就寝前に「スプーン1杯(2.5mL)のハチミツを摂るグループ」、「咳止めを飲むグループ」、「何もせず様子をみるグループ」のいずれかに無作為に割り付けた研究です(2)。この研究では、ハチミツを与えられた子どもで、有意に咳が減少することが示されました。
その後、さらに多くの子どもを登録した大規模な比較試験が報告されました(3)。この研究で用いられたハチミツは、ユーカリハチミツ、シトラスハチミツ、シソハチミツの3種類です。就寝前30分にスプーン1杯のハチミツを投与することで咳が減るかどうかが検証されました。結果、ハチミツでは子どもの咳が軽減しただけでなく、親の睡眠状態も改善することが示されました(図1)。子どもに咳があると、添い寝している親は必ず起こされますから、ありがたいですね。
過去の複数の研究をまとめて解析したところ(4,5)、「急性の咳に対するハチミツは、何もしないよりは咳止めの効果があり、既存の咳止めと大差がないほど効果的」という結論になります。繰り返しますが、1歳未満の子どもにはハチミツを与えることでボツリヌス症を起こすリスクがあるため、与えないよう注意してください。また、咳の原因によっては効果がないことがありますので、安易にハチミツを選択せずにかかりつけ医を受診するようにしてください。
大人の咳ではどうか?
実は、成人ではハチミツ単独のまとまった咳の研究がありません。代わりに、ハチミツとコーヒーを混ぜたものを評価した報告があります(6)。コーヒーは気管支を拡張する作用が含まれているため、咳止めと気管支拡張効果を狙った合わせ技レシピということです。
この研究では、ハチミツ+コーヒーがステロイドや鎮咳薬と比較されましたが、介入1週間後の咳の頻度を比較すると、ハチミツ+コーヒー群で改善が大きかったことが示されました(図2)。
ハチミツで咳が治まる理由
タイトルに科学的根拠と書いておきながら、実はなぜハチミツで咳が治まるのかよくわかっていません。ハチミツが複数の抗酸化物質を含んでいるからではないかという見解(3)、甘みを感じる神経が咳に関与しているのではないかという見解(7)があります。
ちなみに、ウチの子どもが3歳の頃、ひどい咳だったのでスプーン1杯のハチミツをあげようとしたら、ベーッと吐き出されました。私もハチミツをなめてみたのですが、ちょっと苦手でした。味にややクセがあるためか、好き嫌いがありますよね。
上記の研究ではハチミツの種類によって差はありませんから、自分に合うハチミツを選ぶのがよさそうです。
まとめ
現時点での研究結果をまとめると、ハチミツを与えてはいけない1歳未満の子ども以外では、咳に対するハチミツの有効性が統計学的に示されており、特に成人ではコーヒーと混ぜてハチミツを飲むとよいと言えるでしょう。
ただし、明らかな風邪や上気道炎など、病悩期間が短い咳に対して用いるようにしてください。原因がはっきりしない長引く咳の場合、ハチミツを使うよりも小児科・耳鼻咽喉科・呼吸器内科などを受診するようにしてください。
(参考)
(1)消費者庁. ハチミツによる乳児のボツリヌス症(URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/food_safety_portal/topics/topics_001/)
(2) Paul IM, et al. Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-6.
(3) Cohen HA, et al. Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71.
(4) Oduwole O, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 10;4(4):CD007094.
(5) Abuelgasim H, et al. BMJ Evid Based Med . 2021 Apr;26(2):57-64.
(6) Raeessi MA, et al. Prim Care Respir J. 2013;22:325-330.
(7) Eccles R, et al. Respir Physiol Neurobiol. 2006 Jul 28;152(3):340-8.