配信特化型ライブハウスの挑戦。日清食品POWER STATION[REBOOT]、BLACKBOX³
オンラインライブ市場の急速な拡大と共に「配信特化型ライブハウス」が注目を集めている。
ぴあ総研の発表によると、2020年内の有料型オンラインライブの市場規模は推計448億円。2020年5月頃から立ち上がった市場は短期間に急拡大を遂げている。
単にステージでのパフォーマンスを配信するだけにとどまらない、新たな試みも進んでいる。ライブチャットなどでファンと双方向のやり取りをしたり、映像表現にこだわったりと、オンラインならではの演出やコミュニケーション様式が生まれてきている。そのための新たな拠点として配信特化型ライブハウスが登場してきている。
その一つが、2020年11月、日清食品が東京本社の地下にオープンした「日清食品 POWER STATION[REBOOT]」だ。
■22年ぶり復活のパワステが目指す「オンラインならではの一体感」
NISSIN POWER STATION (通称・パワステ)は、80年代から90年代にかけて忌野清志郎やTHE YELLOW MONKEY、JUDY AND MARYなど名だたるアーティストがたびたび出演し、ロックの殿堂として人気を博したライブハウス。98年に惜しまれつつ閉店となったが、「音楽特化・配信特化・無観客」をコンセプトに22年ぶりの復活を果たした形となる。
きっかけはコロナ禍でのエンタメやマーケティングの変化だ。日清食品の宣伝担当者はこう語る。
「ニューノーマル時代だからこそ我々が発信できるエンタメがあるんじゃないかと考えた。そこが一番のきっかけです」
11月21日に行われたこけら落とし公演に登場したのは西川貴教。これまで半年で出演してきたラインナップには、アニソン歌手やVTuberなどネットカルチャーと親和性の高いアーティストも多い。
「会社のDNAとして、食を通してエンターテインメントの楽しさを提案するということを念頭においています。これまでのプロモーションを通して、ターゲットとなる若い世代にとっては、ボカロPやVTuber、ユーチューバーなど新しい文化の訴求力が強くなってきているという実感もありました」(同)
再オープンのためプロジェクトチームが始動。1998年のパワステ閉鎖後は社内行事やイベントに用いられてきたスペースをゼロから改築した。
「20年間ずっと会議室として使われていた場所だったので、そもそもステージを組むことが建築的に可能なのか、そこの検討から始まりました。しかも、オンライン配信特化のライブハウスを立上げから半年後の11月にオープンさせるというスケジュールで、スピード感を持って準備をしなければいけなかった。そこは大変苦労しました」(同)
ステージにはLEDフロアパネルと透過型LEDバックパネルを設置。自らの配信プラットフォームも強みになっている。チャットシステムとステージ上の LED が連動し、ライブ演出に参加しているような体験ができる。
「もともと吹き抜けのライブハウスとして作られてる場所なので、音の響きは非常にいい。また、配信プラットホームを立ち上げ、ステージ背面や床のLEDにチャットの声をリアルに投影できる演出に活かすことで、双方向のコミュニケーションからなる一体感を作ることができたと思います」(同)
■「BLACKBOX³」を配信ライブの最適解を見つける場所に
また、コミュニティ型ファンクラブ「Fanicon(ファニコン)」を運営するTHECOO株式会社は、4月8日、新宿御苑にライブ配信スタジオ「BLACKBOX³(ブラックボックス)」をグランドオープンした。
こちらは数々のアーティストのレコーディングに用いられた「スタジオグリーンバード」の跡地に作られた地下1階、2階の2フロアの配信スタジオ。メインの「BOX STUDIO」には高さ4メートル、幅9メートルの4面LEDを常設。CGや映像空間の中で演者がパフォーマンスするようなオンラインライブの表現が可能だ。
もう一つの「BRICK STUDIO」はアンティーク調の落ち着いた空間でアコースティックライブやトークなどの使用を想定している。
大きな特徴は、Faniconや同社のチケット制配信プラットフォームを使うアーティストやクリエイターはスタジオを無償で使用できるということ。THECOO株式会社の代表取締役CEO平良真人氏はその意図をこう説明する。
「これをきっかけにFaniconに興味を持ってくれたり、我々の配信プラットフォームを使う人が増えれば嬉しい。それだけでなく、コロナ禍が終わっても残るであろう配信ライブの最適解を見つける場所にここがなればいいと思っています」
この場所を通してFaniconを使うアーティストやクリエイターたちのコミュニティを広げる狙いもあるという。
「イメージにあったのはアンディー・ウォーホルがニューヨークに作ったスタジオの『ファクトリー』ですね。ジャン=ミシェル・バスキアやヴェルヴェット・アンダーグラウンドがあそこから出てきたように、いろんな人が集まって、新しい表現手段に挑んでいく場所にしたい。だからこそ、『ハコ貸し』という発想はないんです。レンタルにすると、その日は誰かが占有する場所になる。そうではなくて、ふらっと来て『これやれる?』みたいなほうがイメージに近い。そういう場所が新宿のど真ん中にあるのがいいなと思います」
コロナ禍でエンタメのデジタル化は急速に進んだ。今後感染が収束し、リアルライブの動員が回復した後も、新たな形でオンラインライブ市場は残っていくだろう。多様化するライブエンターテインメント体験をアップデートする試みが進んでいる。