LUMINATEとBillboard JAPANが示した日本の音楽の海外展開の現状と課題
「日本の音楽が着実に海外での支持を広めている」という言説が増えてきた昨今。データからはどんな実情が読み取れるのだろうか。
9月18日に東京ミッドタウンで行われたLUMINATEとBillboard JAPANによるカンファレンス「NOW PLAYING JAPAN Vol.2」では、国内外の最新音楽消費動向のデータが示され、日本のアーティストの海外進出に向けた現状と課題が解説された。
LUMINATEはアメリカを拠点にする音楽データテクノロジー企業で、SpotifyやYouTubeなど各国のプラットフォーム事業者からデータを集積している。同社のスコット・ライアン氏によると、2024年上半期のグローバルな音楽ストリーミングの総再生回数は前年同期比15.1%増の2兆2900億回と引き続き大きな伸びを示した。また、アジア太平洋と豪州、ニュージーランドの再生回数をもとにした上位1万位までのアーティストを分類したところ、日本のアーティストは昨年同期比で約200名の増加が見られたという。
Billboard JAPANのチャート・ディレクター礒﨑誠二氏によると、グローバルな音楽市場における日本のシェアは昨年同期と比べて0.1%から0.4%に増加したという。ポイントを牽引した国は主に韓国と米国で、新曲がグローバルなリアクションを集めることも増えている。代表的な事例としては、今年上半期最大のヒット曲となったCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」や、現在話題を呼んでいるこっちのけんと「はいよろこんで」が紹介された。これらの楽曲は海外でヒットしている日本の楽曲を示すチャートの「Global Japan Songs Excl. Japan」のほうが日本よりも先行してチャートアクションを示していた。SNSやショート動画サイトを介した楽曲の流行が国境を超えた現象となっていることが解説された。
経済産業省の堀達也氏によるプレゼンテーションも興味深いものだった。経産省は先日に「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書」を発表している。その背景として、今なぜ政府がコンテンツ産業の振興に取り組んでいるのか、その中で現在の音楽産業を巡る状況をどう捉えているのかが解説された。現状の課題としては、ストリーミングが大勢を占めるようになった世界全体の音楽市場に対して日本ではパッケージの占める割合が高く、いまなおデジタル化を進める余地があると指摘された。
また日本と韓国の比較においては、人気ダンス&ボーカルグループが存在感を示すK-POPに対して、J-POPでは様々なジャンルのアーティストの楽曲が聴かれている傾向があり、シティ・ポップなど旧譜の割合も多いという。ボーカロイドを用いて楽曲を制作するボカロPなど個人クリエイターの活躍も目覚ましく、VTuberも人気を拡大しているという分析があった。
印象に残ったのは、堀氏による「日本の音楽産業の特性は多様性と蓄積にある」という指摘だった。現状ではアニメの主題歌タイアップから海外でのヒットが生まれることが多いが、ひとつの成功法則を踏襲するのではなく、様々な方法でファンコミュニティの形成と拡大を図ることが海外展開において肝要になる。また、礒﨑氏による「対象国の産業構造や文化の理解の解像度を高める必要がある」という指摘も重要だと感じた。
Billboard JAPANの「Japan Songs」チャートには各国で異なるヒットの傾向が可視化されており、その背景にはそれぞれの国や地域によって異なるリスナーの傾向や市場のあり方がある。この先の日本の音楽の海外展開のためにさらなるデータの活用が必要となってくると感じた。