Yahoo!ニュース

結成5周年を迎えたYOASOBI、新曲「モノトーン」でその“深化“続く

柴那典音楽ジャーナリスト
(提供:ソニー・ミュージック)

YOASOBIが結成5周年を迎えた。2019年10月に結成、同年11月にデビュー曲「夜に駆ける」を発表し活動をスタートさせてから5年。「小説を音楽にするユニット」というコンセプトを貫きながら多くのヒット曲を世に送り出してきた彼らは、今なお意欲的な試みの数々を形にしている。

10月5日〜14日には、に2025年1月にグランドオープン予定の「Ginza Sony Park」にて結成5周年を記念した写真展「YOASOBI KEEP OUT GALLERY PRODUCED BY VI/NYL」が開催された。

(筆者撮影)
(筆者撮影)

「YOASOBI KEEP OUT GALLERY PRODUCED BY VI/NYL」は10月30日に発売されるアニバーサリーブック『VI/NYL SUPER (バイ&ナル スーパー) YOASOBI 5TH ANNIVERSARY BOOK』に掲載される撮り下ろし写真や撮影時のスペシャルムービーなどを展示したイベントで、工事中のビルの一部を開放した空間が展示会場となっている。「YOASOBI KEEP OUT」と書かれた黄色のバリケードテープが張り巡らせられた入り口から足を踏み入れた先では、Ayaseとikuraのきらびやかなファッションフォトが飾られていた。

YOASOBIと工事現場には縁がある。2021年2月に開催された初のワンマンライブ「KEEP OUT THEATER」は、当時立ち入り禁止だった新宿のミラノ座跡地(現・東急歌舞伎町タワー)の工事現場を舞台にした無観客の配信ライブだった。「遊び心を持っていろいろなチャレンジをしていきたい」という思いがユニット名の由来の一つ。通常では用いられない場所で積極的にライブやイベントを行う姿勢もその遊び心の発露のひとつだろう。

ソニー・ミュージックが運営する小説&イラスト投稿サイト「monogatary.com」のプロジェクトから生まれたユニットということもあり、メンバー2人だけでなくユニットを手掛けるソニー・ミュージックエンタテインメントの屋代陽平氏と山本秀哉氏など中心スタッフたちも積極的にグループの成り立ちや方針などを発信してきた。こうした「チームYOASOBI」のアイディア精神も人気の背景にあるはずだ。

結成5周年記念日の10月1日には新曲「モノトーン」が配信リリースされた。10月4日に公開された映画「ふれる。」の主題歌で、ひとたび聴くと耳に馴染むキャッチーな旋律とドラマティックな曲展開を持った一曲だ。

「ふれる。」は、人気アニメ「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。」、「心が叫びたがってるんだ。」、「空の青さを知る人よ」を手がけた監督・長井龍雪、脚本家・岡田麿里、キャラクターデザイン・田中将賀のタッグによる長編アニメーション作品だ。同じ島で育ち東京で共同生活を送る幼馴染の3人を主人公に、互いの身体に触れあえば心の声が聞こえるという不思議な生き物「ふれる」の持つテレパシーのような力で結びついた青年たちの友情物語を描く。

「モノトーン」は「ふれる。」の脚本を手掛けた岡田麿里による小説「ふれる。の、前夜。」を原作にした一曲。映画の公式サイトで公開されている小説を読み、楽曲を聴き、映画の制作陣が手掛けたミュージックビデオを観ることで、映画と楽曲の世界観が多角的に伝わる仕掛けになっている。コミュニケーションのあり方をテーマにした物語をより深く伝えるという意味でも、単なる主題歌タイアップを超えた繋がりが生まれている。

曲調も興味深い。「モノトーン」はYOASOBIのユニークな魅力の源泉になっているAyaseのメロディセンスを活かした楽曲。特に「夜に駆ける」や「群青」など初期の楽曲にも共通する、歌メロの周りで跳ね回るシンセのオブリガートのキャッチーさが耳を惹きつける。ラストのサビの直前で転調する構成も含めて、YOASOBIの原点を感じるような曲でもある。そこに「アイドル」や「UNDEAD」を経て拡張してきたikuraのボーカルパフォーマンス、ある種のエグ味までも意のままにする歌の表現力が加わることで、その“原点”をアップデートしたような楽曲になっている。

YOASOBIは10月26日から東京と大阪で初の単独ドーム公演を開催。12月からは日本人アーティストとして最大規模となる7都市14公演のアジアアリーナツアーの開催を予定している。前人未到の道を歩んできたユニットの快進撃はまだまだ続きそうだ。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

柴那典の最近の記事