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MASS OF THE FERMENTING DREGS、Lamp、北米ツアー盛況の理由

柴那典音楽ジャーナリスト
(提供:FLAKE RECORDS)

インディーズで地道に活動を続け、知る人ぞ知る存在でありながら、海外で大きな支持を広げているバンドがいる。現在北米ツアーを行い各地で盛況を収めている二つのバンドを紹介したい。

まずはMASS OF THE FERMENTING DREGS。通称「マスドレ」と呼ばれる3人組だ。結成は2002年とすでに20年以上のキャリアを持つロックバンドで、激しいギターサウンドと透明感ある歌声が持ち味。2010年にメジャーデビューを果たすも、2012年に一時活動休止。2015年に再始動し、現在はボーカルとベースを担当する宮本菜津子を中心に、事務所にもレコード会社にも所属しないインディペンデントなスタイルで活動している。配信はTuneCore Japan経由で自ら行い、CDとアナログ盤は大阪・南堀江のレコードショップ「FLAKE RECORDS」が主宰するインディーズレーベル「FLAKE SOUNDS」からリリースしている。

彼らが海外のファンの存在に気付いたのはコロナ禍でライブ活動休止を余儀なくされていた20年だったという。CDとして発売していた初期の作品のストリーミング配信を解禁すると、予想以上の反響があった。

大きなプロモーションもなく、メディアで取り上げられたわけでもない。もちろんアニメ主題歌などのタイアップがあったわけでもない。むしろ日本では特に人気曲ではなかったという「青い、濃い、橙色の日」という曲の再生回数が大きく伸びた。海外のコアな音楽リスナーの口コミをきっかけに、楽曲自体が評判を集めていったようだ。

2022年にイギリスで開催されたロックフェスに初出演し盛況を集めると、2023年に行ったバンド初の北米ツアーは全公演がソールドアウト。今年3月のヨーロッパツアーも軒並みソールドアウトし、9月13日から10月にかけて開催される2度目の北米ツアーは1800人クラスの会場など前回より大きな会場での開催を予定しているが、すでに多くの公演がソールドアウトしている。

先日に東京・渋谷WWWで行われたライブにも訪れたが、客席には欧米各国から来たと思しき若い世代のオーディエンスが多く、熱い盛り上がりを生み出していた。

■楽曲のクオリティそのものが人気の由来

男女3人組バンド、Lampも海外で人気を拡大している。2000年に結成した彼らは、ボサノヴァを基軸にフォークやソフトロックなどの要素を散りばめたお洒落な曲調と男女ツインボーカルのハーモニーが魅力。2003年のデビュー作から一貫して、大掛かりなプロモーションやツアーは積極的に行わず、マイペースに作品を発表してきた。2014年以降は自主レーベルを立ち上げ、バンドの運営も全てDIYで行ってきた。

彼らが人気を獲得したのもストリーミング配信がきっかけだ。海外のコアな音楽ファンが集うネット上のコミュニティで紹介されたのをきっかけに、独特の淡くメランコリックなムードが高い評価を集めた。2021年から2022年にかけては「ゆめうつつ」や「恋人へ」などの曲がTikTokで紹介されバイラルヒット。なくノスタルジックなジャケットやアートワークも話題となった。

現在、LampのSpotify上での月間リスナー数は200万人を超えている。8月27日からLampはアメリカの人気シンガーソングライター、MITSKI(ミツキ)の北米ツアー6公演にサポート・アクトとして参加し、並行して8月31日からはバンド初の北米ツアーをスタート。こちらも1800人クラスの会場も含めて多くの公演がすでにソールドアウトしている。

マスドレとLampに共通するのは、楽曲のクオリティそのものが人気の由来となっているということ。たとえ日本語の歌詞で歌われる楽曲であっても、音楽性への評価をきっかけに海外リスナーの心を掴み、評判を築くのが可能な時代となっている。次にどんなアーティストや楽曲が発見されるのかにも期待したい。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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