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【残り3ヵ月】新しい「残業上限規制」が大企業にもたらす最悪のシナリオ

横山信弘経営コラムニスト
あと3ヵ月で、企業文化を変えられるのか?(ペイレスイメージズ/アフロ)

4月からの「残業上限規制」を正しく知っていますか?

2018年に働き方改革関連法が成立し、今年4月から新たな残業の上限規制ルールが適用されます(建設業、自動車運転業務、医業に従事する医師を除く。中小企業は2020年から)。労使合意による「特別条項」がなければ、年360時間が新しい上限。月間30時間の残業が基本路線になるわけですが、現場では「そんなことできるはずがない」と鼻で笑う経営者・中間管理職も少なくありません。

特別条項がある場合でも月60時間が上限(それでも残業45時間を超える月が6ヵ月を超えてはならない)です。このケースでも「難しい」「そんなことしたら仕事にならない」と、意に介さない現場の管理監督者もいます。

エン・ジャパンの意識調査でも、驚くような結果が出ています。働き方改革法案の残業上限規制について「知っているか?」の問いに対し、「内容を含めて知っている」が16%、「概要を知っている」が60%、「知らない」が24%という結果でした。調査対象が一般社員ではなく「人事担当者」(しかも1社に1人が答える意識調査だった)であるため、現場への浸透度合いがこれで推測できるというものです。

昨年の結果ですから、いま調査を実施すれば、企業における認知度はもっと上がっていることでしょう。しかし人事担当者レベルで認知度が上がっても、すぐさま組織に浸透し、成果が出るものではありません。認知されてから成果が出るまで、かなりのリードタイムを必要とされること。これが残業問題の特徴です。

たとえば「個人情報保護法」と比べてみる

2003年に可決され、施行となった「個人情報保護法」とは、色合いが大きく異なります。個人情報の取り扱いに関しては、全社員に正しい知識を取得させ、意識改革を促すことで一定の成果を出すことができました。現場レベルで心掛けることが定型化できるため、徹底させやすいからです。

しかし、残業に関しては同じようにいきません。残業を削減するには「何をすればいいか」を現場サイドでしっかり考えて実施し、PDCAサイクルをまわしてもらわなければ達成されないのです。

行動を見直すことが求められる「個人情報保護法」と、数値的な成果を求められる「残業上限規制」では、現場が受けるプレッシャーは、天と地ほどの差があります。したがって恒常的に残業が多い企業にとって、この新ルール適用は死活問題であるはずです。

現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである私どもは、当然のことながら残業削減のオーダーもクライアント企業から多くいただきます。しかし、残業削減に対する現場の心理的抵抗は恐ろしいほど強い。「残業が減るのだから現場は嬉しいだろう」とイメージする人は、残業が多い職場の現実を知らなさすぎます。そのような職場において残業は文化なのです。理屈では文化を変えることはできません。たとえ法律が変わっても、一筋縄ではいかないものだと知っておきましょう。

業務量や役割分担、工程の見直しにとどまりません。取引先との交渉をしないと削減できない業務も多くあります。したがって入念な準備と、時間をかけた意識改革を促さないと、毎月10時間や20時間の削減でさえ、簡単には達成できないのです。

生産性を恐ろしく下げる可能性

労働時間が実質的に短縮された場合、「労働生産性」が一定であれば企業の付加価値(生産量)は当然のことながら減少します。残業代が減るといっても、経営指標に与えるインパクトは微々たるもの。業績を維持させるには、よりいっそうの「労働生産性」を上げていかなければなりません。

これまでの研究により、日本企業は過去、主に事業モデルや製品群の入れ替えによって労働生産性をアップしてきたという事実が明らかになっています。事業転換や、ラインアップされている製品の新規開発・削減などといった機会により、人や設備の資源を再配分して生産性を上げてきたわけです。事業レベルではなく、業務や作業レベルで生産性アップをめざしても成果を上げた例は少ない。つまり小手先のテクニックで生産性を上げようとしても、資源(労働時間や人材教育の機会など)の投入量を減らすだけという結果になり、企業業績を圧迫する要因となりかねないのです。

恒常的に残業をしている大企業であれば、4月から「総労働量」が一気に減る可能性がある。付加価値を生み出す資源そのものが急激にダウンするので、イノベーティブな発想で資源効率を上昇させない限り、企業価値そのものが急落することでしょう。

最悪なシナリオ

短期間で企業の生産性を上げようとすると、大きな副作用に見舞われることがあります。

企業が最もとるべきでないのは、人の採用でこの問題を解消しようとすることです。そもそも残業が文化になっている企業に、優秀で「生産性の高い人材」が入社してくる確率は非常に低い。たとえ大企業であっても、です。このことを肝に銘じておきましょう。無理して採用しようとすると、超人手不足の時代であっても多くの企業に採用されないような、「新たな付加価値を生み出すことが難しい人材」を迎えることになります。結果、既存社員の残業が減るどころか、労働時間の総量が増えるだけという悲しい結末となります。

新たな労務上の火種を抱えることにもなりかねません。そのような企業を、どれほど私どもは見てきたことか。

組織文化を変えない限り、人が増えた分、残業の総量が増えるだけという、経営陣が最も嫌う結果になります。企業の「ブラック化」という最悪なシナリオを辿ることになるのです。

年が明け、2019年になりました。残業上限規制の新ルールが適用される4月まで、あと残り3ヵ月しかありません。上限を超えたら違法となるいう、新しい社会のルールがスタートする。とくに大企業は、待ったなし。強い当事者意識をもって、企業の生産性を高めるべきです。このプロセスをチャンスと捉え、新しい企業価値をダイナミックに創造してもらいたいと思います。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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