『鬼滅の刃』の鬼たちは人間を食べるが、なぜ他の動物ではなく人間なのか。真剣に考えてみた。
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。
人間は狙われている!
『鬼滅の刃』でも『ジョジョの奇妙な冒険』でも『進撃の巨人』でも『約束のネバーランド』でも『東京喰種』でも、人間は肉を食われ、血を吸われ、あるいはパクッと飲み込まれたりしている。ワタクシたちは、自分たちが犠牲になるマンガやアニメを堪能しているのだ。
しかし、なぜだろう? なぜ鬼や吸血鬼たちは、執拗に人間の血や肉を求めるのか?
地球には150万種類を超える動物が存在しているんだから、わざわざ人間を狙わなくても、他においしい動物の皆さんがたくさんいらっしゃる。牛ステーキやトンカツや焼き鳥や刺身など、どれもホントにうまいですよ~。
などと鬼たちにアピールしながらも、ここではなぜ彼らが人間を食おうとするのかをちゃんと考えてみよう。
◆人間は血液の量が多い!
たとえば『鬼滅の刃』では、鬼はどうしても人間の血肉を必要とするようだ。
鬼でありながら、鬼舞辻無惨を倒す研究を続けている珠世さんは、自分の体に手を加えたことで「人を喰らうことなく暮らしていけるようにしました」と言うが、それでも「人の血を少量飲むだけで事足りる」。輸血と称して、代金を払って血を買っているのだという。あの優しく清らかな珠世さんでも、人間の血が必要とは……。
また、育手の鱗滝さんの説明によれば、鬼は人間をたくさん食べるほど強くなるという。
鬼にとって、人間の血肉は生きるのに不可欠なのだと思われるが、牛や豚ではなく、人間でなければならないのはなぜ? 人間の血肉には、他の動物とは違う特徴があるのだろうか。
血について調べてみたら、ビックリすることがわかった。
人間は他の哺乳類より「体重あたりの血液の量」が多いのである。牛が5.2~6.0%、豚が5.2~6.9%、羊が5.7~6.6%、鶏が6.5%なのに対し、人間は男性が8%、女性が7%。これは、とくに吸血鬼にとって朗報だろう。人間を襲うのがいちばん効率よく血が吸える!
なぜ血液量が多いかというと、脳の発達と関係があるのではないだろうか。人間は摂取したエネルギーや酸素の20%を脳で消費する。これらを運ぶのは血液だから、脳が発達すれば、それだけ多くの血液が必要となる。
人間は、二足歩行によって脳を大きく発達させてきた。その結果、文化や科学を手に入れたわけだが、同時に吸血鬼に狙われやすくなったのかも……。
◆人間は体脂肪率が高い!
では、肉はどうだろう。これも人間ならではの特徴があり、たいへん興味深い。
筋肉には、瞬発力の高い白筋(速筋)と、持久力に優れた赤筋(遅筋)がある。わかりやすいのは魚で、岩陰に隠れて、一朝事あればビビッと逃げるタイやヒラメなどはほとんどが白筋で、長い距離を回遊するマグロやカツオなどは赤筋が多い。
そして人間の筋肉はどうかというと、赤筋が多いんですねぇ。これは肉食動物のように激しい運動をしないうえに、二本の足で立つには瞬発力より持久力を必要とするからだ。もしかして、鬼は赤筋が好みなのだろうか。
さらに特徴的なのは、体脂肪率だ。男性は10~25%、女性は20~35%くらいが標準とされる。
ところが、他の動物の体脂肪を見てみると、チーターが4~5%、競走馬が5~8%、鳥が5%。まあ、このあたりの動物たちは、俊敏に駆け回ったり、身軽に空を飛んだりするのだから、体脂肪率が低くて当然かもしれない。
驚くのは豚で、その体脂肪率は13~18%だ。人間のほうが太っている。
さらに、犬や猫が15~25%で、人間の男性くらい。牛が25~30%で女性くらい。――全般に、人間は体脂肪率が高いのだ。
でも体脂肪率が問題なら、鬼たちには牛サーロインステーキなんかをおススメしたい……と思ったのだけど、実はそう簡単な話ではないかもしれない。
肉の味や臭いは、エサによって変わる。肉食動物は、食べた肉を消化するときにアンモニアが発生するから、肉には臭みがあるという。だから食用肉になるのは、ほとんどが草食動物だ。
また、同じ肉牛でも、牧草で育った牛のほうが、穀物で育った牛より美味といわれる。豚もドングリだけで育ったイベリコ豚などが珍重されるし、銘柄鶏の名古屋コーチンも、トウモロコシ、黄粉、ゴマ、有用微生物、マリーゴールドなど、飼料が厳選される。
――などなど考えますと、穀物、肉、魚、乳製品、野菜、芋、キノコ、海藻と、いろいろな食材をバランスよく食べている人間は、鬼にとってめっちゃウマイのかも……という気がしてきませんか。われわれの豊かな食生活が命取りに!? うむむっ、ますますコワイ話になってきた。
◆「16歳で若い」は人間だけ
もう一つ気になるのが、年齢や性別にこだわる輩が多いことだ。
『鬼滅』では、コミックス2巻に登場した「沼の鬼」は、16歳の少女ばかりを食べていた。炭治郎が立ちはだかると「邪魔をするなァァァ!! 女の鮮度が落ちるだろうがァ!!」「もう今 その女は十六になっているんだよ 早く喰わないと刻一刻で味が落ちるんだ!!」などとヒドイことを言っていた。
なぜ16歳がいいのか、それは沼の鬼に聞かねばわかりません。ただ、科学的にいえるのは「人間は、大人になるのに非常に時間がかかる」ということだ。
体の大きな動物ほど、成熟に時間がかかる傾向がある。アフリカゾウでさえ10年である。しかし人間の場合、16歳といえば、青年期の入り口。若いからこそ沼の鬼も「鮮度が落ちる」と言っていたのだろうが、生後16年で「若い」哺乳類など、人間以外には絶無である。
このあたりの、人間ならではの成長過程にも、鬼や吸血鬼や巨人などに狙われるヒミツがあるのかもしれない……と筆者は思う。
「鬼が人間を食べる」という怖い研究レポートとなったが、これを考えると「人間とはどんな生き物か」がいろいろ見えてくるのも事実。まことに興味深いではありませんか。