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劇的サヨナラホームランに湧いた京セラドーム大阪での日本シリーズの歴史を振り返る

阿佐智ベースボールジャーナリスト

 2年連続でヤクルト対オリックスの対戦となった日本シリーズは今年も壮絶な戦いとなっている。神宮で星をひとつも取れず、ホーム・京セラドーム大阪での初戦も大敗で落としたオリックスが、驚異的な粘りを見せ連勝。「令和の名勝負」は2年越しの物語になりそうだ。

 パ・リーグ連覇を果たしたオリックス・バファローズは昨年に続いて京セラドームで日本シリーズを開催しているが、この球場で日本シリーズが開催されるのは、実は4度目のことである。

「近鉄バファローズ」唯一の「大阪ドーム」でのシリーズ

 京セラドーム大阪(開場時は大阪ドーム)は1997年、東京、福岡(現福岡Pay Payドーム)に続く日本で3番目のドーム球場として開場した。当時、ここを本拠としていたのは、近鉄バファローズ。親会社の電鉄沿線の藤井寺球場から大阪市内に進出したこの球団は、1999年シーズンからはチーム名に「大阪」を冠するようになったが、皮肉なことにこの球場の賃貸料が球団の財政を圧迫するかたちとなり、2004年シーズンをもって、神戸を本拠とするオリックス・ブルーウェーブに吸収合併され、その歴史に幕を閉じた。

 近鉄が大阪ドームを本拠としたのはわずか8シーズン。この間、2001年にパ・リーグを制し、ここで日本シリーズを行っている。対戦相手は、くしくも今回オリックスが対戦しているヤクルトだった。

 この年のシリーズは、パ・リーグの本拠地でスタート。大阪ドームでは2試合が行われた。つまり、近鉄が本拠に戻る第6戦を待たずにシリーズは決着がついたのである。結果は、敵地での初戦を7対0の圧勝で取ったヤクルトが4勝1敗で日本一に輝いた。「いてまえ打線」擁する近鉄だったが、本拠大阪ドームでの第2戦で9点を取り勝った以外は打線が低調で苦杯を喫する結果に終わった。

「コロナ禍」が生んだ、巨人による日本シリーズ開催

 2005年、近鉄を吸収し、チーム名も「バファローズ」を継承したオリックスだったが、合併後も1990年代終わりから続いていた低迷期を脱することができなかった。新生オリックス・バファローズは、合併当初こそ、ブルーウェーブ時代の本拠、神戸とのダブルフランチャイズ制を採用していたが、2006年に親会社が大阪ドームを事実上子会社化。ネーミングライツを採用し、現在の「京セラドーム大阪」に球場名を改めた。そして、2008年には、本拠地を大阪に一本化するが、チームは長いトンネルから抜け出すことはできなかった。

 「主」であるオリックスの低迷の中、京セラドームでの日本シリーズは、意外な球団により実現した。大阪の野球ファンにとっての「不倶戴天の敵」である「都の球団」、巨人がここで日本シリーズを行うことになったのだ。2年前の2020年のことだから、多くの野球ファンが覚えているだろう。つまりは、京セラドーム大阪では3年連続で日本シリーズが開催されているのである。

 在京セ・リーグ球団が、在阪パ・リーグの本拠地でシリーズを行うことになった理由は、この年に開催予定だった東京五輪とコロナ禍である。

 この年は、夏場に開催予定だった五輪のため、同時期に東京ドームで行われる社会人野球最大の大会である都市対抗が、例年京セラドームで実施される日本選手権が行われる秋に開催時期をずらせることになった。例年、日本選手権は日本シリーズ後に開催されることになっていたため、この年の都市対抗は11月下旬にスケジュールが組まれた。

 結局、五輪の開催は1年遅れることになったのだが、予選も行われる都合上、それでは都市対抗は例年通り夏開催、というわけにもいかない。その中で、コロナ禍により公式戦日程を後ろにスライドさせたプロ野球は、日本シリーズの日程もそれに合わせて後ろ倒しせざるを得なくなった。その結果、都市対抗と日本シリーズの日程が重なるはめになり、おまけに都市対抗の会場である東京ドームを本拠とする巨人がセ・リーグのチャンピオンとなったことで、日本シリーズの「開催球場」問題が起こってしまった。シリーズが予定されたのは11月末。野球協約により選手を12月に稼働させることはできない。雨天などによるそれ以上の日程変更が難しいこと、観客への寒さに対する配慮などからドーム球場での開催がベストだと考えたNPBは、例年、巨人が主催ゲームを行っている京セラドームでの開催に踏み切ったのである。

 2年連続となった巨人対ソフトバンクのシリーズは、これもまた2年連続のソフトバンクの4連勝で幕を閉じた。ちなみにこのシーズンのオリックスは最下位。この時は、本当の「主」による日本シリーズ開催など夢のまた夢と思われていたのだが、2021年、中嶋監督により生まれ変わったオリックス・バファローズは、25年ぶりの優勝を飾る。2年連続の最下位からのリーグ制覇は、奇しくも2001年の近鉄バファローズ以来のことだった。

新たな「名勝負」の舞台へ

 2021年の日本シリーズはオリックスとヤクルトの間で行われることになったが、この年もまた「球場問題」が起こった。この年もコロナ禍によりレギュラーシーズンの日程が大幅に延びてしまったため、日本シリーズの日程が後ろ倒しになってしまったのだ。この年のシリーズはパ・リーグのホーム球場で開幕することになっていたのだが、第6、7戦の予定日には京セラドームではライブが行われることがすでに決定されており、結局、オリックスは準本拠地扱いの旧ホームグラウンド、ほっともっとフィールド神戸を使用することになった。

 「令和の名勝負」とも称されるこのシリーズは、第6戦でヤクルトが優勝を決めるのだが、京セラドーム大阪では、第1、2戦の2試合が実施。オリックスは、開幕戦をエース山本由伸の熱投と主砲・吉田正尚のサヨナラ安打で勝利したものの、第2戦ではヤクルト、高橋奎二に完封されている。

 この年のシリーズも、コロナ対策として観客の制限がなされたが、同じカードで行われている今シリーズは、3年ぶりに入場制限のない、満員のスタンドの中で行われている。京セラドームでは、3試合が行われ、3戦とも3万人超の観客を集めた。

 今シリーズを除く京セラドーム大阪での過去3度のシリーズ計6試合で、ホームチームは2勝4敗と分が悪かったが、初めて3試合が行われた今シリーズでは、ホームチームのオリックスは2勝1敗と勝ち越している。敵地神宮では1敗1分けと劣勢に立たされたが、通算成績をタイに持ち込んで、今日からの「最終決戦」に臨む。

初勝利となった第4戦の試合後インタビューに答えるオリックス・中嶋監督
初勝利となった第4戦の試合後インタビューに答えるオリックス・中嶋監督

 ちなみに京セラドーム大阪での4度の日本シリーズ9試合中、もっとも多くの観客を集めた試合は、近鉄が出場した2001年第1戦の3万3873人。最少記録は、コロナ禍による制限の下、巨人のホーム球場として開催された2020年の第2戦の1万6333人である。

 今日行われる第6戦か明日の第7戦で引き分けが発生し、その際に引き続き神宮球場で実施されることになる第8戦で雌雄が決しない場合、1日置いて、11月2日にオリックスのホームで第9戦が行われることになる。仮にそうなった場合でも、京セラドームにシリーズが帰ってくることはない。10月30日からここでは社会人野球の日本選手権が開催されるからだ。NPBは第9戦に関して、昨年も使用したほっともっとフィールド神戸での開催を予定しているという。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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