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ザブ・ジュダーがファン、関係者から愛される理由 〜2階級制覇王者の波乱のキャリアを改めて考える

杉浦大介スポーツライター
(写真:REX FEATURES/アフロ)

3月21日 ニュージャージー サン・ナショナル・バンク・アリーナ

ウェルター級10回戦

元2階級制覇王者

ザブ・ジュダー(アメリカ/39歳/43勝(30KO)9敗)

TKO 2R(1:27)

ホルヘ・ルイス・ムンギア(ホンジュラス/28歳/13勝(4KO)8敗)

カムバックファイトで圧勝

これが実に3年44日ぶりのリングーーー。しかも39歳になったことを考えれば、この日のジュダーの動きには及第点を与えても良かったのではないか。初回から積極的に攻めてムンギアからボディブローでダウンを奪い、ラウンド終盤には右フックのカウンターでマウスピースを吐き出せる場面もあった。

決着は第2ラウンド。カウンターで相手にダメージを与えると、連打からの左ストレートで再びダウンさせる。足元が定まらないホンジュラス人を見て、レフェリーがあっさりと試合をストップした。

ムンギアはこの日まで4連敗中で、これまで主に下の階級で戦ってきた選手だということを考慮しなければいけない。端的に言って、ジュダーを綺麗に勝たせるために組まれたファイト。もともと勝敗に興味が注がれた一戦ではなく、誰もが予想した通りの内容、結末になった。

それでも、もちろん全盛期と比べれば大きく劣るものの、ジュダーは“スピードスター”と呼ばれた頃の片鱗は見せてくれた。好戦的な姿勢もかつてのままで、試合内容の分かり易さも健在。ポーリー・マリナッジ(アメリカ)に判定負けした2013年12月以来の復帰戦は、長くそのキャリアを見守ってきた根強い支持者たちを喜ばせるファイトではあったはずだ。

もどかしさを残す天才

20年に及ぶ現役生活の中で52戦を戦い、スーパーライト、ウェルター級の2階級を制覇した。それほどの実績を残しながら、それでも多くのファン、関係者から“期待外れのキャリア”とみなされていることが、この選手の才能の大きさを物語る。

実際に全盛期のジュダーは、“スーパー”というニックネームが大げさに思えないだけの魅力を持っていた。

2001年にコスタヤ・ジュー(ロシア)と行ったスーパーライト級統一戦は、ボクシングファン垂涎のビッグイベントになった。2005年2月に敵地セントルイスでWBC、WBA、IBF世界ウェルター級王者コリー・スピンクス(アメリカ)をストップしたファイトも、ジュダーを語る上で忘れられないハイライトである。2006年の フロイド・メイウェザー(アメリカ)戦でも、序盤のマックススピードでは上回り、幻のダウンすら奪った。

そのように時に放射する輝きを考えれば、素質を完全に開花させたとはやはり言えないのだろう。ジュー、メイウェザー、ミゲール・コット(プエルトリコ)、ジョシュア・クロッティ(ガーナ)、アミア・カーン(イギリス)、ダニー・ガルシア(アメリカ)といった一線級には結局はことごとく敗れた。

格下相手には圧倒的な強さで魅せるものの、一段上の強豪たちに対すると適応能力不足を露呈するのがパターン。今思い返しても才能は天才的なものがあったが、メイウェザーが披露したような狡猾さ、クレバーさ、守備意識が足りなかった。

ただ・・・・・・逆に言えば、リング内外でのほとんど愚直なまでの正直さこそが、この選手の魅力でもあったのかもしれない。

無敗記録に固執する現代の一部の王者たちとは一線を画する

前述した強豪たちがまさにピークにいる頃に、臆せずに対戦を承諾した。ルーカス・マティセ(アルゼンチン)、バーノン・パリス(アメリカ)といった無敗のプロスペクトたちにも喜んで胸を貸した。常にリスクを慎重に計算している印象があったメイウェザー、無敗レコードに必要以上にこだわる現代の多くのタイトルホルダーたちと比べ、ジュダーのマッチメークには清清しさがあった。

戦いぶり自体にも見どころは多かった。スピードとシャープなパンチを武器に、鮮烈なノックアウトを幾つも生み出してくれた。精神的に未成熟で、トラブルメーカーではあっても、ジュダーが近年のボクシング界を彩った貴重な役者だったことには疑問の余地はないはずである。

そんなジュダーも39歳になり、キャリアが末期に近づいているのは誰の目にも明白ではある。現在はFAであり、21日の復帰戦のプロモーターは母と叔母が主宰する無名の「ボス・レディ・プロモーションズ」が務めた。会場となったトレントンのアリーナには場末感が漂い、放映はインターネットのPPVのみ。試合後に会見すらも行われないほどの、ローカルで粗末な小興行だった。

名優の記憶は時を超える

まともな宣伝もないままに挙行された復帰戦の勝利が、ジュダー本人が望む“最後のビッグファイト”に繋がるのかどうかは微妙なところか。

その知名度ゆえに再びチャンスが来る可能性はあるが、一方で“もう終わった選手”と敬遠されても仕方ない。メジャーなプロモーターの目に再び止まることはなく、正式に引退発表もなく、徐々にフェイドアウトしていくパターンが濃厚かもしれない。

ただ、例えそうなったしても、同世代のファンは、ジュダーの数々のファイトを笑顔とともに思い出すのではないか。多くのスターたちと拳を交え、ビッグファイトに彩りを添えてくれた。何より、ファン、関係者に愛された。スポーツエンターテイメントであるプロボクシングの選手に必要な要素を、同世代の誰よりも豊富に持っていたボクサーだったのだ。

そう考えていくと、例え有り余る素質を完全に開花させなかったとしても、ジュダーのキャリア自体は実は過小評価されているようにも思えてくるのである。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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