「子供の貧困」は親の問題である
今月1日、コンビニエンスストア大手のファミリーマートは3月から全国約2000店舗で「ファミマ子ども食堂」を始めると発表した。店の近くに住む子どもや保護者を対象に、イートインスペースを活用して食事を提供するという。
そもそも、子ども食堂は、子どもの貧困への対策として市民の善意で始められ、広がった事業である。
しかし、子ども食堂を始めるファミリーマートなどのコンビニでは、オーナーや社員自身が貧困状態に陥っている。長時間労働や残業代未払いが蔓延し、年収は200万円程度、時給は300円ということも珍しくない。
つまり、コンビニ業界自身が「親の労働問題」から「親の貧困」を引き起こしてしまっている。このように、「子どもの貧困」の原因を放置したままで良いのだろうか。
子どもの貧困の原因は親の貧困であり、ひいては親の労働問題でもあるということは、一般には必ずしも強調されていない。そこで今回は、改めてデータや事例を用いながら、子どもの貧困が「親の労働問題」であるということを示していきたい。
子どもの貧困に関するデータ
まず、基本的な点として、子どもの貧困率の算出方法を確認してみよう。
「子どもの貧困率」は、17歳以下の子ども全体のうち、等価可処分所得が貧困線に満たない子どもの割合を指す。
この「等価可処分所得」とは、子どもが属する世帯の可処分所得(手取り収入)を世帯人数の平方根で割って調整した所得の意味であるが、要するに、世帯一人当たりの収入だ。
そして「貧困線」とは、等価可処分所得の中央値(データを小さい順に並べた時にちょうど中央に位置する値)の半分の値のことである。
少しわかりにくいかもしれないが、統計上の「子どもの貧困率」は世帯全体の収入で決まっているということなのだ。
当然、子ども自身は親の収入に依存していることがほとんどであるから、子どもの貧困率も親の収入によって決まってくるというわけだ。
ここからも、子どもの貧困の原因は親の貧困であることは明らかだろう。
次に、親の貧困の原因を見ていこう。
「日本は働いていれば何とかやっていける」と考える人は少なくないと思う。しかし、事実は逆なのだ。日本では、「働いているにもかかわらず貧困」という状態、つまり「ワーキングプア」が多いのだ。
図1は、左側に子どもの貧困率、右側に就業者のいない家庭にいる子どもの割合(言い換えれば、子どものいる家庭の失業率)をグラフにしたものだ。
図表の真ん中から左側に位置する北欧や大陸ヨーロッパ諸国では、親の失業率が高いほど子どもの貧困率も高くなる傾向にある。それに対し、右側の南欧諸国やアメリカは軒並み失業率が高めだが、貧困率がそれ以上に高くなっている。
しかし、日本は親の失業率は圧倒的に低いにもかかわらず、貧困率が高いという例外的な傾向を示している。つまり、親が働いていても貧困=ワーキングプアなのである。
その直接の理由は、賃金が下落し続けているからだ。事実、図2のように日本の実質賃金は低下し続けている。今や労働力人口の4割に迫る非正規雇用の増加が背景にあるだろう。
さらに、こうした賃金の下落による親のワーキングプア化を、社会保障が十分に支えているとは言えない。家族や子どもに対する国の社会保障支出である、家族関連支出(GDP比)も世界的に見て低い。
以上のように、日本における子どもの貧困は、親のワーキングプア化という、労働問題を背景として生じているのである。しかも、社会保障による支えも脆弱であるということもわかる。
子どもの貧困対策の現状
それでは、以上見てきたような子どもの貧困の広がりを踏まえて、どのような対策が行われているのだろうか。
特に象徴的なのは、2013年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が制定されたことだ。それ以降、代表的な子どもの貧困対策となっているのが、学習支援事業と「子ども食堂」である。
「子どもの貧困対策の推進に関する法律」では、対策の主要な柱に教育支援が位置付けられており、それに基づいて生活保護世帯や生活困窮世帯の子どもに対する学習支援事業が実施されている。
例えば、生活困窮者自立支援法では、「生活困窮世帯の子どもの学習支援」が制度化された。
生活困窮者自立支援法に基づく学習支援事業は自治体の任意事業であるが、504自治体(56%)と、半数以上の自治体が実施している。
他方、子ども食堂はここ数年で全国に急速に広がり、昨年4月時点で2286か所設置されている(朝日新聞2018年4月4日付)。
もちろん、これらの対策の意義は軽視されるべきではないだろう。
学習支援は生活困窮世帯の子どもにとっての居場所にもなり、勉強が分かることが自己肯定感の醸成につながり、ひいては人生を生きていく力になるだろう。子ども食堂でお腹を満たすのはもちろん、子どもにとって地域に支えられている感覚はかけがえのないものだ。
しかし、それだけで子どもの貧困対策として十分とは言えないことも指摘しておかなければならない。それはまさに、子どもの貧困の原因である「親の労働問題」にメスを入れることができていないということだ。
親の労働問題事例
それでは、実際にPOSSEに寄せられた相談から、親の労働問題が子どもの貧困を引き起こしている実態を見ていこう。
これらを見ていくと、さまざまな種類の「労働問題」が、まさに「子供の貧困」に直結していることがよくわかる。
労働災害事例の事例
関東地方の42歳男性は、妻と大学生と小学生の子ども2人の4人世帯で暮らしている。知人と一緒に人材育成研修の会社を立ち上げ、自身は正社員として代表取締役の資料作成の仕事をしていた。
実質的に、起きている間はずっと労働時間であった。そのため、デスクワークのやりすぎで頚椎ヘルニアになり、首痛でドクターストップがかかり働けなくなってしまった。しかも、会社の経営不振を理由に給料がもらえなくなった。
大学生の息子の学費は2年生まで払うことができるが、3年生以降は奨学金や教育ローンを使うしかない。世帯として生活保護の申請も考えている。
未払い賃金の事例
関東地方の33歳男性は、妻と子ども3人の4人世帯で暮らしている。現在は埋蔵文化財の発掘作業の正社員として働いている。
残業代が支払われなかったり、長靴や安全靴、手袋などの仕事上の消耗品を自分で買っているため、給料だけで生活ができない。夜間にアルバイトをするなどして賄おうとしたが、家賃を3ヶ月滞納してしまった。
以前の仕事でも給料が低く、子どもの幼稚園や保育園の費用を支払う代わりに家賃を滞納してしまったことがある。
低賃金の事例
四国地方の29歳男性は、妻と子ども3人の4人世帯で暮らしている。現在は営業職の正社員として働いているが、手取り収入が15万円余りである。さらに、パートで働いていた妻が3人目を妊娠して働けなくなったため、生活費が足りなくなってしまった。そのため、現在は生活保護を利用している。
フランチャイズ問題の事例
関東地方の40代男性は大手個別指導塾のオーナーをしている。ここ数年で同業他社との競争が激化し、経営難に陥っている。自身の収入は月8万円ほどしかない。そんな中、昨年結婚し子どもが生まれたが、出産直後に子どもが児童相談所に一時保護されてしまった。おそらくその理由は、妻の精神疾患と本人の低収入だと思われる。
以上のように、労災による労働不能、違法な未払い賃金、養育が不可能な低賃金、フランチャイズオーナーの経営難を通じて、親が生活保護を利用しなければならないほどの貧困=ワーキングプア状態に陥り、子どもの養育費や学費を賄うことができなくなってしまっているのである。
いかに、子どもの貧困が親の労働問題から引き起こされているかがわかるだろう。
子どもを育てるために権利を行使しよう
それでは、どうすれば子どもの貧困を解消できるのだろうか。
やはり、子どもの貧困を引き起こしている親の労働問題を解決していくことが、重要な一つの方法となるはずだ。
3の事例に即して言えば、労災補償や残業代請求を弁護士やユニオン(労働組合)を通じて行うことができるし、養育が可能な賃金水準に引き上げていくこともユニオンを通じた交渉で可能となる。
労働法では、そもそも市場経済では労働者と経営者は対等ではないために、「正当な賃金」を実現するためにはユニオンを結成し、集団交渉を行うことが必須であると考えている。
だから、ユニオンには特別の交渉権限が与えられているのだ。その「権利」は、企業外のユニオンであっても平等に適用されるため、職場に一人だけであっても行使できる。
子どもを育てるためにこそ、親は労働者としての権利を行使すべきではないだろうか。
また、「子供食堂」などの支援者にも、ぜひ労働問題と闘う団体と連携してほしい。親の貧困を見かけたら、相談窓口を紹介するのも有効だろう。
権利行使の方法は、ユニオンや弁護士などの専門家がアドバイスしている。ぜひご活用してほしい。
無料相談窓口
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。
03-6804-7650
soudan@bku.jp
*ブラック企業の相談に対応しているユニオンです。
03-6804-7650
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*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。
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*「労働側」の専門的弁護士の団体です。
022-263-3191
*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。
*北海道全域の労働相談を受け付ける、「労働側」の専門的弁護士の団体です。