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木村一基九段、相手の待ち受けるところに飛び込む! 藤井聡太三冠、優位に立ったか? B級1組順位戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月20日。東京・将棋会館において第80期順位戦B級1組5回戦▲藤井聡太三冠(19歳)-△木村一基九段(48歳)戦がおこなわれています。

 藤井三冠先手で、戦型は相掛かり。後手の木村九段が7筋の横歩を取って歩得の戦果をあげたのに対して、藤井三冠はその代償として、スキが生じた8筋に歩を打って動きます。

 木村九段の桂は追われながら中段五段目に跳ね出していきました。藤井三冠にすれば、その桂がはたらいてしまってはお手伝い。取ることができれば成功です。

 29手目。藤井三冠はまず飛車を2筋五段目に浮きました。遠く8筋五段目の桂に当てながら、飛車を大きく使っています。木村九段は歩を打って桂を支えました。

 31手目。藤井三冠はノータイムで金を三段目に上がりました。横歩を取った相手の飛車に当てています。将棋のセオリーとしては、守りの金が上ずるのはできれば避けたい。その例外をいくわけで、長考であれば決断の一手、というところでしょう。しかし藤井三冠は時間を使っていません。事前の研究で成算があり進めているものと推測できます。

 木村九段は手を止め、熟慮に沈みました。飛車をじっと引いて逃げれば無難です。

 12時。記録係が休憩の時間になったことを告げ、藤井三冠はすぐに席を立ちました。観戦記者、記録係が特別対局室を去ったあとも、木村九段は盤の前に一人座り、考え続けていました。

 12時40分。

記録係「時間になりました」

 対局再開。両対局者は扇子を手にして盤の前に向かっています。

 木村九段の手はなかなか動きません。そしてときおり、頭を抱えるようなしぐさを見せました。

 昼食休憩の40分をはさんで、消費時間53分。32手目。木村九段は飛車を逃げませんでした。飛車を切り、銀と刺し違えます。藤井三冠が待ち受けていたところにあえて飛び込んだわけですから、決断の一手となります。

 木村九段は手にしたばかりの銀を角金両取りに打ちました。局地的には、木村九段は駒損どころか駒得になります。しかし強力な飛車を渡すため、大局的に成立しているのかどうか。

 昨年の王位戦七番勝負第4局▲木村王位-△藤井挑戦者戦。藤井挑戦者が封じ手で飛車銀交換の変化に飛び込んだ手が話題となりました。(肩書は当時)

 そのときは藤井挑戦者の飛車切りが成立しました。本局はどうでしょうか。

 藤井三冠はすぐに次の手を指しません。順位戦は持ち時間6時間の長丁場。時間的にはまだ大きく余裕があります。あわてず、改めて事前の研究手を確認していたのか。それとも新しく読んでいるのか。

 35手目。消費時間は40分。藤井三冠は7筋に歩を合わせて打ちました。もし同歩ならば、木村陣にスキが生じます。いかにもよさそうな歩の使い方。コンピュータ将棋ソフトの判定によれば、藤井三冠が優位に立っているようです。

 木村九段は合わされた歩を取らず、36手目、相手陣の金を取りました。ABEMA中継の「勝率」表示は、藤井74%にまで振れます。いつもどおりの順位戦のゆっくりした進行を想定し、ここから中継を見られる方は、びっくりしてしまうかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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