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コロナ禍に始めたゲームで国体を2連覇!滋賀県の佐々木拓眞が狙う偉業

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
グランツーリスモで国体を連覇した佐々木拓眞【写真:DRAFTING】

世界的人気を誇るドライビングシミュレーターゲーム「グランツーリスモ」シリーズが今年も国民体育大会(鹿児島)の文化プログラムとして開催される「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の競技に選ばれた。同種目の国体での実況を2019年から務める筆者は2023年の大会を前に3人の注目選手にインタビューする機会を得た。現実のスポーツとの共通項が最も多いeスポーツジャンルを戦う選手達のスピリットはリアルレーサーと何ら変わらない。今回から3回に渡って、その取材後記をお届けしよう。

勝って嬉し泣きしたウイナー、佐々木拓眞

まずはウイナーの登場だ。2022年の国体で17歳以下が対象の「U-18の部」を制したのが佐々木拓眞(滋賀県代表)。2位以下に4秒近い差をつける、ブッチギリの優勝で、筆者と共に解説を務めた山田和輝さん(ポリフォニー・デジタル)もその走りを絶賛した。

チェッカーを受け選手名がコールされた瞬間、佐々木拓眞の目からは大粒の涙が溢れ出たのだ。全国47都道府県から200名近い代表選手が集められた2019年・茨城大会でもウイナーの嬉し泣きは見られなかった。勝てる実力を持つ選手はみな平常心を保つことに長けているから、喜びを爆発させる選手はそれほど多くないのだが、勝って泣いた佐々木拓眞の姿は実にエモーショナルだった。

「プレッシャーが大きかったです。注目選手として公式サイトでも紹介されていたりして、勝って当たり前だろうという周りからのプレッシャーをずっと感じていて。優勝した瞬間に今まで溜め込んでいたもの、思い込んでいたものが、身体から一気に抜けた感じでした」と佐々木はその時の感情を思い出す。

2022年栃木大会で号泣した佐々木【写真:Sony Interactive Entertainment Inc.】
2022年栃木大会で号泣した佐々木【写真:Sony Interactive Entertainment Inc.】

佐々木拓眞は「U-18の部」で史上初の連覇を成し遂げた若きティーンプレイヤーだ。2021年はコロナ禍で自宅から参戦のオンラインレース。そして2022年は本大会出場選手たちが顔を揃えて、同じ筐体をドライブするオフラインレースとして開催。佐々木拓眞にはオンラインで勝ててもオフラインで勝てない、とは言われたくない自分へのプレッシャーもあっただろう。

動画:2022年栃木大会ハイライト

コロナ禍になって始めたグランツーリスモ

国体2連覇の少年、佐々木拓眞が「グランツーリスモ」シリーズをプレイし始めたのは、まだ3年前というのも驚きだ。

2020年、世界中が新型コロナウィルスの脅威に怯え、ステイホームを強いられていた時、彼は『グランツーリスモ SPORT』をプレイし始めたという。当時、誰もが自宅でやれることを探していた時だった。

佐々木拓眞【写真:DRAFTING】
佐々木拓眞【写真:DRAFTING】

それ以前はラジコンに没頭していたという佐々木拓眞。TAMIYAが主催する世界大会で2016年からなんと3連覇したというワールドクラスの実力の持ち主だったのだ。指先でコントロールするラジコンと『グランツーリスモ』のレースはまた異なるはず。

しかし、彼は僅かな時間で『グランツーリスモSPORT』をマスターし、その年に開催された国体のオンライン予選を通過し、滋賀県代表として関西ブロック代表決定戦にまで進出。残念ながらその年は本大会まで進出できなかったものの、その翌年からは2021年、22年と「U-18の部」で国体連覇を達成するという偉業を成し遂げたのだ。

「経験値が足りていなかったですね。速さも劣っていました。練習ではうまく行っていたのに。もう悔しくて、そこからバンと火が付いて!」と佐々木は鬼のように練習をし始めたキッカケを語る。

「グランツーリスモ」を始めてすぐに県代表になれること自体が凄いことだが、そこで満足しせず、毎週設定されているオンラインレースに出場し、足りないと感じた経験値を埋めていった。

何かの世界で日本一、あるいは世界一を目指したことがある人は他のジャンルに移っても器用に順応できる。佐々木拓眞はまさにそれを実証した選手だ。しかし、当然ながらその影には相当な努力、費やす時間も必要だ。単に器用なだけではなく、ラジコンでナンバーワンになるプロセスで培われたマインドが彼の新しい挑戦を前進させたことは間違いないだろう。

世界的eスポーツプレイヤーになる可能性大

2021年は『グランツーリスモSPORT』、2022年は『グランツーリスモ7』で国体「U-18の部」を制覇。異なる両ゲームタイトルでの連覇はもう誰も達成できない偉業である。高校を卒業した佐々木拓眞は今年、『グランツーリスモ7』歴が長いトッププレイヤー達がエントリーする「一般の部」にステップアップすることになる。

ステップアップに関して佐々木はこう語る。「一般の部はベテランドライバーたちの経験値が圧倒的に違います。速さ自体はU-18と変わらないと思うんですけど、レースの展開はめちゃくちゃ頭を使わないと勝てないと思います。戦略が大事になると思うので、そこを変えていかないと。念入りに練習してやっと立ち向かえるレベルだと思っています」

自宅で練習する佐々木拓眞 【写真:DRAFTING】
自宅で練習する佐々木拓眞 【写真:DRAFTING】

年齢層が幅広いため選手数も多く、経験豊富なプレイヤーの数が段違いに多い「一般の部」で勝てば、大会史上初の両部門制覇となる。彼の地元、滋賀県でもその活躍が話題になり、テレビ局の取材を受けたり、地元の銀行が発行する冊子の表紙を飾ったりとメディアに取り上げられること多数。彼はそんな中で、今年も滋賀県代表の座を掴み取り、3年連続の日本一を目指す構えだ。

18歳になったことで、今後は「グランツーリスモ」シリーズのグランツーリスモ・ワールドシリーズなど世界大会にも参戦することができる。海外の猛者達を相手にワールドレベルの舞台に立つ選手になることが期待されているのだ。

近年は「グランツーリスモ」シリーズのワールドチャンピオンから現実のSUPER GTドライバーになった冨林勇佑など、バーチャルからリアルへの転向、成功が話題になることが多いが、佐々木は「リアルのレースも興味はありますけど、せっかく出会ったeスポーツだから、僕はeスポーツで生きていきたいです」と語り、eスポーツの世界で生きていく考えだという。有名eスポーツチームと契約を結び、今後の活動に期待が高まる。

そんな佐々木拓眞が生きる道を見つけ出すキッカケとなったのが、まさに「グランツーリスモ」シリーズで行われる国体の「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」。何事もまず第一歩を踏み出してみなくては、人生は変わらない。佐々木のこれまでの3年間のキャリアを聞いているとそう感じずにはいられないのだ。

2023年大会のオンライン予選は7月1日(土)からスタートする。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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